堕ちた英雄 3
店員に呼ばれて外を孤児院を兼ねた教会のシスターが待っていた。彼女の案内で俺達は急いでゴブリン達の元へと向かう。話を聞くと農作物を荒らされた村人の話を聞いた子供達がゴブリンに石を投げて、それによってゴブリンを怒らせて追いかけられているそうだ。
「まったく愚かですね。わざわざイアソン様の手を煩わせるなんて……」
「ふん、どこにでも馬鹿なガキはいるものだ」
「そんなことはないです。あの子たちは優しい子なんですよ!! 今回だって私たちが育てた大事な農作物が荒らされたからあの子たちは……」
「ふん、力がない正義に意味はない。現に仕事を増やしているだけだろうが」
俺達の会話に不満気にそうな顔でシスターが口をはさんできたので俺は皮肉で返してやる。シスターは信じられないといった顔をするがそれ以上はなにも言ってこなかった。現に子供たちのやったことはかえって事態を悪化させているだけに過ぎない。石を投げるくらいならば、次に来た時のために罠でもしかけておけばよかったのだ。
「この森にゴブリン達が住んでいるんです。あの子たちは追いかけられて……それで……」
「誘いこまれたわけか、あいつらゴブリンは悪知恵だけは働くからな」
「イアソン様どうしましょう? 結構深い森ですが……」
確かにメディアの言う通り、ゴブリンから子供たちが逃げた森はかなり広かった。ただ探すのではかなり大変だろう。こんな時シオンがいればと思う。だが、その考えはもはや無意味な話である。それにあんなやつがいなくても俺だけでやっていける。
「よく見ろ、枝が折れているだろう? 子供たちが強引に走ったんだ。それを追いかければ見つかるはずだ」
「さすが、冒険者ですね。口だけではなくて安心しました」
「あなたイアソン様になんて口を……」
「構わん、さっさと行くぞ」
殺意に満ちた目でシスターをにらみつけるメディアを俺は手で制した。正直この女にどう思われたところでどうでもいいからだ。それにしてもケイローン先生に習ったことが役に立つとはな……俺は昔を思い出して、少し寂しい思いに襲われそうになったので、頬をたたく。
しばらく走ると、何やら悲鳴のような声が聞こえる。俺達は顔を見合わせて進む。そこには二人の少年がゴブリンに追い詰められていた。一人の少年は腰を抜かしており、もう一人の少年は震えながらも木の棒を構えていた。どうやら間に合ったらしい。
「メディア、魔術で……おい、馬鹿女!?」
「アレク、フィフス!! 今行くわ」
「ちっ、あの、くそが!! メディア、俺の援護を頼む。馬鹿共を巻き込まない程度に魔術でサポートしろ」
俺がメディアに魔術を指示する前にシスターが駆け出しやがった。あんな魔物不意打ちなら一撃だったというのに……俺は舌打ちをしながらも追いかける。放っておいてシスターに死なれたらさすがに寝ざめが悪いからな
シスターの声で俺達の存在に気づいた数匹のゴブリン達が視線をこちらに向けて下卑た笑みを浮かべてこちらへと向かってやってくる。やつらは女が大好物だからな。シスターはちょうどいい囮になってくれたようだ。
「きゃあ、どこを触って……」
「ふん、死にたくなければ黙ってろ。メディア今だ!!」
多少出遅れたがBランクの冒険者と一般人だ。身体能力には圧倒的にまでの差がある。俺がゴブリンの元へと駆け出しているシスターを後ろから片手で抱きかかえる。その時やたらと柔らかいものを触れてしまい一瞬ニヤッとしかけたが、俺はシオンのような童貞とは違う。冷静に対処する。
「風よ」
「うおおおおお!!」
「きゃああああああ!?」
メディアから放たれた魔術がなぜかゴブリンごとシスターを襲ったので俺はとっさに剣で魔術をはじいた。すさまじい高密度の魔術だったが、魔術と相性の良いミスリルの剣という事もあり、何とかはじいた。ゴブリン達の断末魔を聞きながら俺はため息をつく。しょうがないやつだ。どうやら、胸を触ってしまい、顔がにやけた事がばれたようだ。
「メディア!!」
「すいません、魔術が滑りました」
「くだらない嫉妬をするな。ここにいるやつらで俺が一番信用しているのはお前だ。だから安心しろ」
「はい、わかりました。イアソン様」
俺の言葉にメディアは安堵の表情で頷いた。そもそも、魔術が滑るってなんだよ。メディアの魔術の制御力は天才的だ。そんなミスをすることはないだろう。表情にこそ出ないが、嫉妬しているのだろう。あとで、機嫌を取らないと面倒なことになりそうだ。そして俺はシスターをかばうようにゴブリン達との間に立ちふさがった。
「俺の後ろにいろ!!」
「はい……わかりました」
「ゴブブ!!」
思わぬ援軍に慌てているゴブリン達に俺は投げナイフをお見舞いしてやる。狙うは最初に声を上げたゴブリンだ。おそらくリーダーなのだろう。やつが声を上げた時にゴブリン達の視線が集まったのが見えた。
『喋ってることがわからなくても、ある程度視線とかでわかるよ。これなら、イアソンにもできるんじゃない?』
あいつの言っていたことが思い出される。リーダーを倒されたゴブリン達は逃走しようとしたが、それをメディアの圧倒的な魔術が襲った。
「風よ」
緻密なコントロールと圧倒的な破壊力によって構成された風の刃が綺麗にゴブリン達を切り裂いた。あっという間の戦いだった。そもそも、ゴブリン達なんて俺達の相手ではないのだ。小遣い稼ぎもかねて俺はゴブリン達の耳を切り裂く。
「「シスター」」
「まったく、二人とも馬鹿なんだから……」
よっぽど怖かったのだろう。ガキたちがシスターに泣きながら抱き着いていて、それをシスターがなぐさめているがどうでもいい。本当に愚かな奴らだ。このガキ達の様に力なき正義に意味はないし、シスターのように優しいだけでは何も守れないというのに……まあいい、俺の依頼は終わりだ。そうして俺はメディアと一緒に村へと戻るのであった。でも、なんだろう、このもやもやは……
「イアソン様あーんしてください。あーんを」
「はいはい、さっさと食えよ」
俺はうんざりした顔をしながらも、肉の刺さったフォークをメディアの前に差し出した。彼女は幸せそうな顔をしてそれを食べている。機嫌を取るために今回がんばったからという事でなにか言う事をきいてやるとなったらこうなったのだ。
「すいません、冒険者さん」
「ん……なんだ?」
「なんですか? 私とイアソン様の時間を……」
「いいからお前は食ってろ」
俺とメディアが飯を食べていると声をかけられた。殺意に満ちた目でガキをにらみつけるメディアに飯を与えて黙らせる。名前は何とか言ったか……武器を持っていた方の少年が、俺に声をかけてきたのだ。
「俺を弟子にしてください。力が欲しいんです」
少年は少し悩んでいたようだが、意を決して決意に満ちた顔こう言った。その目はまるで英雄をみているようで……だから俺は言ってやった。
「やだね、なんで俺がそんな面倒事をしなきゃいけないんだ」
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Bランク
イアソン
ギフト『??の英雄』
英雄を堕落されるものにはいくつかある。それを乗り越えた時にこそ真の英雄になれるだろう。
スキル
上級剣技 剣を使用したときのステータスアップ。
扇動のカリスマ 他者を煽ることによって、反発心をいだかせ、煽った対象のステータスアップ
高貴なる血筋 その存在感によってみるものを魅了させる。効果は個体差がある。
幸運- とある事情によって幸運のステータスが下がっている。
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書籍化作業ももう少しなんで、気分転換にラブコメを書いているので、公開したらそちらも読んでくださると嬉しいです。




