ダブルデート6
「こういうところで改めて二人で話すのはなんかドキドキしますね」
そういってアンジェリーナさんは俺に微笑む。正面に座った彼女をみながら、俺は緊張を紛らわすかのように酒に手を付けた。
「わかります、いつもはジェシカさんがいましたし、この前は結局みんなと合流しましたもんね」
「でも、シオンさんはこういうの馴れてるんじゃないですか? まわりに女性も多いですし、こういう風に女性とも結構飲みに行ってるって聞きましたよ」
俺の言葉にアンジェリーナさんはからかうように言った。まあ、たしかに俺のパーティーで人間はカサンドラだけだし、友人もアスやポルクスと、女性ばかりであることも否めない。でもひとつだけ訂正しなければいけないことがあるだろう。
「女性との飲みってあれですか、イアソンといた時の話ですよね。あれは違うんですよ、基本的にイアソン目当ての女の子ばっかりで、俺は本当に盛り上げ役でした……」
イアソンとの飲み会は本当にひどかった……あいつは口は悪いが顔はいいのと、『アルゴノーツ』とのリーダーという肩書、『英雄』のギフトがあったからかやたらモテていたのだ。そして時には調子に乗っては身ぐるみをはがされたりそうになったり、怖いお兄さんとのバトルにもなったものだ。俺とイアソンのしょーもない思い出である。そういえばあいつは今どうしているのだろうか?
「あれ、でもイアソンさんとってメディアさんと……」
「うーん、どうなんでしょうね? メディアはイアソンの事を好きですが、イアソンのやつはよくわからないんですよね。英雄にふさわしい嫁が欲しいとか言ってましたし……」
まあ、でも、メディアともなんともなかったわけではないだろう、あいつと合コンに行った時は、その後、イアソンがメディアに刺されていたところは何回かみたし……ちなみに俺はアスがなぜか、不機嫌になって会話をしてくれなくなったので、それ以降は断るようにした。
「シオンさんは乗り越えたんですね」
「え?」
俺が昔を思い出して笑っているとなぜか、アンジェリーナさんは俺に対して微笑んだ。一体どうしたというのだろう。
「少し前まではイアソンさんやメディアさんの話を聞くと辛そうな顔をしていましたが、今は何か懐かしそうな顔をしていたので……」
「そうですか……? いや、そうですね。追放された直後はやっぱりつらかったんですが、今は……そうでもないですね……」
アンジェリーナさんの言葉で俺は自分の心境の変化に気づく。イアソン達の事を思い出しても胸は痛まず、むしろ懐かしい思い出となっていた。今、思えば俺も追放された直後にもっとしつこくあいつらの言い分を聞けばよかったのかもしれない。少なくともアスに冒険者ギルドを通して事実の確認くらいはできたはずだ。それにあの時のイアソンの表情は……
追放された直後は自分が思った以上に冷静にではなかったのだろう、人生にも絶望しかなかった。でも、カサンドラに出会って、アスと話したり色々あったからだろうか、いまではあまり気にならなくなったのだ。そしてもちろん……
「たくさんの人と出会って、支えられてシオンさんは変われましたね、今のシオンさんは『アルゴーノーツ』にいた時より楽しそうです」
「アンジェリーナさんのおかげでもあるんですよ、だってあなたが一番最初に声をかけてくれたんだ。あなたが俺を認めていてくれたからがんばれたんだ」
俺の言葉に彼女は一瞬目を見開いて微笑んだ。びっくりしてるけどさ、追放されて最初に俺の頑張りを認めてくれていたアンジェリーナさんがいたから、俺は冒険者としてまだ頑張れて、カサンドラに出会えたんだ。
「そんなことないですよ、それはシオンさんががんばっていたからですよ。でもそういってもらえるのは嬉しいですね」
そういって俺たちはふたりで笑い合った。そして、ギルドのことなど色々なことを話す。一瞬間があいて、俺は先ほどのお返しとばかりに少し突っ込んだことを聞いてみる。
「そう言えば、アンジェリーナさんは彼氏をつくらないんですか? 結構モテてるイメージなんですが」
「え? まあ、モテないわけではないですね……」
俺の言葉に彼女は真っ赤にした。実際アンジェリーナさんはモテる。可愛らしい笑顔とか、胸とか色々と魅力的だからね。でも不思議なくらい浮いた話がないのだ。
「どうなんでしょうね、時々欲しくはなりますが……仕事も楽しいですし、それに、私はこわいのかもしれませんね、好きな人を失うのが……私達受付嬢は冒険者に恋をする人も多いんですが、まあ、冒険者ですからね……その……命を失う人も多いですから……私の友人もそれで辛い思いをしてますし……」
そう言ってアンジェリーナさんは少し目を落とした。そういえば冒険者になって最初のころにセイロンさんがへこんでいたことを思い出す。確か恋人の冒険者が命を落として……
「そういうシオンさんはどうなんですか?」
「俺ですか……彼女は欲しいんですが、好きってよくわからないんですよね」
反撃とばかりに、アンジェリーナさんが俺に聞いてきた。そして、俺はジャックに話したことを、俺の人生のこと、恋がわからないという悩みを話す。ちょっと重かっただろうと後悔しているとアンジェリーナさんは真剣な目で俺をみつめていった。
「だったら、まず、身近な人の自分の気持ちについてかんがえてみたらどうでしょうか? シオンさんは無意識にそれが恋愛感情を抱くのを避けているかもしれませんが、実はよくよく考えてみると好きだったってこともあるらしいですよ。まあ、セイロンからの受け売りなんですけどね」
「身近な人でですか……」
そういって「えへへ」と笑った。 身近な女性と言えばカサンドラに、アス、ポルクス、そしてアンジェリーナさんだろうか。でもさ、なんか相棒なり家族なり、仕事の仲間だったりしているやつからいきなり異性としてみられたらきもくないだろうか?
「あ、なんか不安になってますね。でも、シオンさんなら大丈夫かもしれませんよ。臆病者同士頑張りましょう。冒険と一緒ですよ、いきなりは成功しないかもしれませんが、こわがっていたらなにもうまくいかないですからね。それに失敗しても、死にはしないですからね、せいぜい虫みたいに嫌われるくらいです」
「結構きついんですけど!?」
そうして俺達は色々とはなすのであった。
ようやく、筆が進み始めてきました。




