ダブルデート3
俺の存在に驚いて、一瞬固まったセイロンさんだったが、すぐに状況を立てなおすかのように口を開いた。不機嫌そうなアンジェリーナさんを座らせて、食事会を始める。
「えー、それでは自己紹介からやりましょうか。私はセイロンよ。冒険者ギルドで受付嬢をやっているわ。最近料理にはまってるの。好きなタイプの男性は真面目な人かな。ジャックさん、シオン君今日はよろしくね」
「あれ……でも……」
「ほら、シオン君の番よ」
おや? セイロンさん料理はあんまりできないって前言ってなかったかなと思っていると、考えていることが読まれたのか、セイロンさんからすさまじい圧力を感じた。どうやら黙っている方がよさそうだ。さては男性受けのいい自己紹介を考えてきたな。
「えーとシオンです。冒険者をやってますって、みんな知ってるよね? この自己紹介意味ある? 好きなタイプは優しい人ですね」
『うわぁ、童貞みたいな答えだなぁ……』
俺が困惑気味に自己紹介をすると、ライムが余計な事を言ったので俺はみんなに見えないようにたたく。いいじゃん、優しい人ってさ。
「まあ、お約束みたいなものだろ、俺はジャックです。いつもはレストランを経営しています。よかったら食べに来てねー。好きなタイプの女性は美味しく食べてくれる人かな」
「アンジェリーナです。セイロンの同期で私も冒険者ギルドで受付嬢をやっています。好きなタイプはわかりませんが、嫌いなタイプはチャラい冒険者ですかね」
そう言ったアンジェリーナさんと目があったがなぜか逸らされる。お昼に会った時は機嫌がよさそうだったんだけど一体どうしたんだろうね。ため息をついたセイロンさんがアンジェリーナさんに何やら囁く。
「ちょっとアンジェ……逆に考えなさい。これはチャンスよ、カサンドラちゃんも、アスクレピオスさんも、ポルクスちゃんもいないんだから。大体シオン君は童貞だし、女慣れしてないからここで落としちゃえば、安泰よ」
「うー、だってシオンさんは女の子と飲むのをすごいたのしみにしてたみたいなんですよ……なんかもやもやします……」
「男なんてそんなものよ、でも、シオンへたれっぽいし浮気とかはしなさそうだからここで攻めるべきよ」
なぜか、不機嫌そうに頬を膨らませてこちらを睨んでいるアンジェリーナさんをセイロンさんがなだめている。なんか俺の事を話してない? てかさ、俺の悪口ばかり言ってない? そんな二人をみてジャックが俺の耳元でこそこそと話しかけてきた。
「ねえ、なんであの巨乳ちゃんお前を睨んでるんだよ、なんか悪いことをしたのか?」
「知らないって、いつもは優しく笑顔の似合う人なんだよ。ただ今日楽しみにしてる飲み会があるって言ってここで会ってからなんか機嫌わるいみたいで……」
「うわー……」
俺がそういうとジャックは頭を抱えて唸った。そして、そのまま半眼であきれたように言った。
「お前の『ギフト』確か翻訳者なのに女心わからねーのかよ……そんなんだから童貞なんだよ」
「『万物の翻訳者』はそういう『ギフト』じゃねえよ!? 女心わかるようだったらとっくに彼女ができてるわ!!」
「さーて、仕切り直しましょ。せっかくの飲み会なんだから楽しみましょう。乾杯しましょう」
それぞれのこそこそ話を終えて、セイロンさんが手をぱんぱんと叩く。それで俺達は気を取り直して乾杯をすることにした。
酒の力か、はたまたセイロンさんの説得が功を奏したのか、アンジェリーナさんも機嫌が直ったようで、会話はスムーズに進んでいく。
「へぇー、アンジェリーナさんはシオンの担当なんですか、こいつは冒険者としてはどんな感じなんですか?」
「そうですね、仕事も丁寧ですし、講習も引き受けてくださっていますし、いつも助けられてます」
「俺の方こそ、アンジェリーナさんの笑顔に癒されていますよ。いつもその笑顔があるからがんばれるんですよ」
「えへへ……お世辞でも嬉しいですよ」
そういうとアンジェリーナさんは照れたように微笑んだ。よかった戻ってきたよ。守りたいこの笑顔。
「さっきまでの雰囲気なんだったの!? 一瞬で仲直りしてるんだけど!?」
「あー、アンジェは心を許した人にはチョロいから……それより、ジャックさん悪いけど今回はこの二人の仲をサポートしたいの手伝ってもらえるかしら」
「ええ……? これって俺とあなたが仲良くなる飲み会だったはずじゃ……まあ、いいですけど……」
そうして飲み会は始まるのであった。
ちょっと先の展開を色々考えていて更新遅れて申し訳ありません。
飽きずに読んでもらえると嬉しいです。




