ダブルデート2
今日は新人冒険者達への教習を終えて、ギルドの受付に来ていた。Eランクの新人冒険者達への教育はあまり報酬は良くないが、ギルドの覚えは良くなる。それに、アンジェリーナさんに頼まれてるんだ。断るなんてことはできないよね。まあ、これが終わればダブルデートである。俺が内心ウキウキしながらアンジェリーナさんに今日の報告をしようとすると、彼女はなぜか浮かない顔をしていた。
「ああ、シオンさん、今日はありがとうございました。シオンさんの講習は丁寧だって毎回評判がいいんですよ」
先ほどまで浮かない顔をしていた彼女だったが俺と目が合うと、パーっと笑顔で出迎えてくれた。ああ、守りたいこの笑顔!! 疲れが一気にぶっ飛ぶよね。それはともかく先ほど彼女の表情は気になる。俺は報告書を提出しながら、尋ねることにした。
「アンジェリーナさん、なんか元気がなさそうですけど、どうしたんですか?」
「え……やっぱり、わかりますか?」
俺の言葉に彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにまた笑顔を浮かべた。なぜだろう、本当に嬉しそうだ。そんなに喜ぶようなことしたつもりはないんだけど……
「大したことではないんですが、実は、この後付き合いで興味のない飲み会に参加しなくちゃいけないんですよ。それでちょっと憂鬱だなぁって思っていて……」
「ああ、それはちょっときついですね……まあ、付き合いとか色々ありますからね……」
彼女も受付嬢という仕事柄色々と付き合いがあるのだろう。ため息をつきながらも、苦笑している彼女は少し大人に見えた。そんな彼女は俺を見つめるとちょっと拗ねたように唇を尖らせる。
「そうなんですよ……セイロンには借りがあるので断れなかったんです。それにしても、シオンさんはなんか今日テンション高いですよね。なにかいい事があるんですか?」
「あ、わかります? アンジェリーナさんの話を聞いた後でいいにくいんですが、実は今日ちょっと楽しみなことがあるんですよ」
女の子とダブルデートなんですよといいかけたが、なぜだろう。俺の中の何かがやめとけと言っていた。いや、別に言っても問題はないはずなんだけどね。冒険者としての勘のようなものだろうか。俺はその勘に従うことにした。
「いいなぁ……私も楽しい予定が欲しいです」
「じゃあ、よかったら今度飲みに行きましょうよ。愚痴とか色々聞きますよ」
「はい、ぜひお願いします!! 楽しみにしてますからね」
「アンジェいつまでも話しているの? 担当の冒険者さんよ」
「はーい!! じゃあ、シオンさん約束ですからね」
先輩に呼ばれたアンジェリーナさんは、俺にウインクをすると受付へといってしまった。なんか自然な流れで食事に誘えたが、今日の俺調子よくない? 俺が密かにガッツポーズをしていると、入れ替わる様にセイロンさんがやってきて、意地の悪い笑みを浮かべてはなしかけてくる。
「まったく、あの子も露骨よね、シオン君が来ると元気になるんだから」
「そんなことないと思いますけど……まあ、弟みたいに見られているんですかね?」
「いやいや、弟に食事に誘われてあんなに喜ばないでしょ? あの子も苦労しそうね」
俺の言葉に何故かセイロンさんは大きくため息をついた。なんだろうね。でもさ、付き合いが長いという事もあって信頼はされているんだろうね。アンジェリーナの癒しになっているとなると少し嬉しい。
「でも、あなたがいつまでもそんなんだとアンジェだって、他の男のところに行っちゃうわよ。あんまり、ぼやぼやしない事ね」
「はぁ……」
セイロンさんはからかう様に笑いながら言った。どういう事だろうか? 俺は疑問に思いながらもギルドをあとにするのであった。
「ってジェシカさんの店かよ!!」
「え? ここお前の知り合いの店なの?」
俺はジャックに連れて行かれたお店に思わず叫び声をあげてしまった。お店に入るときにジェシカさんがニヤニヤとこちらを見ていたんだけどむっちゃ恥ずかしい。あとで、絶対いじられるじゃん。でもまあ、ここは雰囲気はいいからね。確かにダブルデートにはちょうどいいのかもしれない。
「さて、作戦会議をするか。なあ、ライム」
『任せてよ、シオン!! 童貞の君と万年失恋男だけだと不安だからね』
「はい、アウトー!! お前正気なの? なんでダブルデートにスライムを連れてくるの? 頭おかしーんじゃねーの?」
『ひどいなぁ、スライム差別だよ』
俺の服の間からライムがはい出てくるのをみたジャックが大声をあげた。何が不満なのだろう? アスに聞くなというから代わりのアドバイザーを連れてきたというのに……ちなみにライムは唇で人が何をしゃべっているかわかるのでジャックの言葉もわかるのだ。それはさておきさ、ここは雰囲気がいい店だからあんまり騒がない方がいいと思うんだよね。
「ジャックうるさいって、他のお客さんの迷惑になるだろ? それにこいつは俺やお前よりモテるんだよ」
「いや、モテるって言っても猫が可愛いとか言われているようなもんだろ。俺達は下心とかも含めながらもてたいんだよ」
「いや、こいつは純粋な下心だけをもってして、女性と接しているのにもてているんだ」
『やはり、僕の才能だね、選ばれしものの特権さ。自分の才能が憎いね』
「こいつ、そんなエロイムだったのか……」
俺達がわいわいしていると、女性陣が来てしまったようだ。全然作戦会議できなかったな……ライムが慌てて俺の服の中に戻っていった。
「ごめんねー、待たせちゃったかしら? でも、かわいい子連れてきたから許してね……ってシオン君!?」
「え……セイロンさん!?」
「何、お前ら知り合いなの?」
俺達が女性たちに挨拶をしようと顔を上げると見知った顔でお互い驚きの声を上げてしまう。ここにセイロンさんがいるってことは……俺はなぜか殺気のようなものを感じて、もう一人の女性をみるとやはりアンジェリーナさんだった。しかもむっちゃ機嫌悪そうなんだけど……
「へぇ……今日の楽しそうな予定ってこれだったんですね、シオンさん」
俺と目があった彼女は笑顔を浮かべているのになぜか異様な圧力があった。あれ、もしかして俺、またやっちゃった…?
皆さんに報告です。
活動報告とツイッターでは報告しましたが、この作品が書籍化致しました!
応援してくださったみなさんのおかげです。本当にありがとうございます!
また、ニュースをみて短編を書いてみました。ラブコメです。読んでくださると嬉しいです。
「うがい薬が売ってねー!! って叫んでいたら、美人なミステリアス系幼馴染と付き合うことになったんだけど」
https://book1.adouzi.eu.org/n6206gk/




