セバスの町でお買い物
「良い人だったな〜レムスさん」
「そうだな。これでリナリーとも上手く行くだろう。まったく世話の焼ける奴だ……」
っ!? もしかして、ティターニアさんはわざと……?
「あの……ティターニアさんは、本当はレムスさんのことを……」
「ん? なんだイソネ、嫉妬しているのか? 安心しろ、悪い奴ではないが、出来の良い弟みたいで鬱陶しいのは本当だ。少なくとも男として見たことは一度もない」
嬉しそうに腕を組んでくるティターニアさん。俺が嫉妬したことが嬉しかったらしい。いつも以上に距離が近い気がする。
「よし、着いたぞ!」
へ? 着いたって何処に? まだギルドを出てからほとんど歩いていないんですけど……?
「どうした? 早く入るぞ、モーテルに」
忘れてたああああああ!!? そう言えばモーテルに行ってイチャつこうとか言ってたっけええええ!!?
いや、別に嫌じゃない……むしろ大歓迎ではあるんだけど、さすがに昼間から、しかもレムスさんのいるギルドの真裏でというのはちょっと……。
「まったく、そんな細かいことは気にするな。私だけを見ていれば良いんだ」
いや、本当に男らしい。腕をガッシリとホールドされてモーテルに連れ込まれそうになる。
「イソネ~!!」
――――ぼふんっ――――
通りの向こうから、クルミが飛ぶように走ってきて、すっぽりと胸の中に納まる。はああ……このもふもふ感……癒される。
「お仕事終わったの? だったら一緒に遊びに行こう!!」
少し遅れてみんなも姿を現す。あらら、これはモーテルタイム終了だね。
ティターニアさんをみれば、すっかり切り替えて町遊びモードになっている。女性はこういうところ、切り替えが早いよな……。
これはどちらなんだろう。ホッとしたのか、それとも残念に思っているのか、きっとどちらも正解なんだろうね。ははは……。
「クルミ、何か美味そうなものあったか?」
「うん、こっちだよイソネ!」
クルミを肩車して屋台が並ぶ大通りへと向かうと、海風が海鮮の焼ける香ばしい匂いを運んできてくれる。
「イソネ、こっちががら空きだぜ?」
「ふふっ、こちらは私がいただきますね、イソネさん」
両サイドからレオナさんとミラさんが腕を組んでくる。待って、両手に花は良いんだけど、両肩にはクルミもいるんだよ? ほら、めっちゃ注目されてるから!? 何この絵面……。
「……くっ、出遅れましたね。イソネさん、抱っこしてください」
両手を広げて抱っこアピールのミザリーさん。え……? この状態を見て、なおかつ抱っこ? いや、別に良いんですけどね、恥ずかしくないですか? 大丈夫? ああ、なら仕方ないですね。
それにしても、ミザリーさんも変わったよな……以前ならロクに目も合わせてくれなかったのに。今なら照れ隠しだってわかるけど、心を開くとここまで甘えん坊になるとは……。
「…………」
どうしよう……ベアトリスさんがめっちゃ見ている。めっちゃジト目で見ている。そうだよね、俺が心配だからって、わざわざ護衛についてもらったんだもんな……。
「……ベアトリスさん、背中空いてますけど、おんぶします?」
いやまて、あのベアトリスさんがおんぶなんてするイメージが無い。失礼なこと聞いちゃったな……。
「スマンな、では遠慮なく」
ええっ!? なんかノリノリでおぶさってきたんだけど……。
肩にはクルミ、右手にはレオナさん、左手にはミラさん、ミザリーさんは、前から抱きついて、俺は両手が使えないので、レオナさんとミラさんがミザリーさんを支えている。すごい執念だ。そうまでして街中でこんなことをする意味がわからないよ。ちなみに背中のベアトリスさんは自力でしがみ付いている。さすが、鍛え方が違いますね!
「ははは、これは参った。さすがの私も入る隙間がない」
まあ、ティターニアさんとは、いままでいちゃついていたからね。
屋台を巡り、好きなだけ買い物をしていると、さほど大きくない町だ、別行動中のみんなとも自然に合流する。
それにしても、いっぱい買ったなあ……。
アスカさんたちのグループは買いすぎだと思うんだ。今は船があるから良いけれど、そんなに大量のドレスや服を持って旅を続けるつもりなのかな?
「ふふっ、大丈夫よイソネ。アスカとコルキスタで別荘を手に入れようって相談していたの」
へえ……それなら安心だね!! って別荘!? え? マジで? まあでも、世界有数のリゾート地だし、せっかく寄るんだから、それも悪くないか。お金なら死ぬほどあるんだし。
「そうか、楽しみだねリズ」
でも意外だったな。お金大好きなリズがこんなに大きな買い物をするつもりだなんて。もしかして、アスカさんが安い物件紹介してくれるとか?
「……勘違いしているみたいだけど、別荘買ったりしないわよ?」
へ? 買わないでどうやって……?
リズの黒い笑みを見て、これは悪い奴らからいただこうとしている顔だと気付く。いや、別荘だけじゃない。資産根こそぎ奪うつもりだ。
悪者のみんな、早く逃げてええええ!! とは言わないけれど、何となく末路が見えたような気がして少しだけ同情してしまう。まあなるようにしかならないよね。




