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村人だった俺が神スキル『チェンジ』に覚醒して世界を救う英雄に~命懸けで戦っていたら仲間には愛されるし婚約者は増えてゆくし、幸せすぎて困ります~  作者: ひだまりのねこ
第五章 王都への旅路 ~リゾート都市コルキスタ

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開かずの船室と結界魔法


 俺たちは、船内のお宝を集めながら、奥へと進んでゆく。残念ながら今のところ魔剣は見つかっていない。


「ここが先ほど話した侵入出来ない場所ですね……」


 最後にやってきたのは、フナ虫たちが入れなかった場所。一番大きく、頑丈な船室で、おそらく重要な貨物が保管されていたのだろうと思われる。



「……ふーん? 特に邪悪な気配は感じないわよ? フナ虫が入れなかったのは、たぶんこの船室に張ってある魔除けの結界のせいだと思うわよ?」

  

 お姫様抱っこされたままのミラさんがそう教えてくれる。


「……なんだ、魔剣の力ではなかったのだな……」


 あからさまに気落ちするライトニング。


「いやいや、まだわからないよ? 魔剣は使用者を選ぶというし、そもそも厳重に保管されているはずだ」


 俺の知識の範囲だけど、魔剣というのは、通常力を無制限に振りまかないように鞘とセットで存在している。保管されていたのなら、鞘に納められているのだから、力が漏れることは基本的にないはず。



「言われてみれば、たしかにそうだな。さすがイソネ、ふふふ、よし、早く入ってみようではないか」


 気を取り直したライトニングが、扉に手を掛けるが、ビクともしない。


「ぬ……なんだこれは……? 鍵もかかっているようだが、それだけではないな……」


「おかしいわね、魔除けの結界にそんな効果はないはずなんだけど……」



「どれ、私もやってみよう」


 ベアトリスさんが扉に体当たりしてみたけど、やはりビクともしない。というより、体当たりしても音もしないとか、明らかにおかしい。


 ただ、この独特の感じ、俺は何度も経験しているのですぐにわかった。



「これは多分、時空魔法……もしくは空間魔法、あるいは両方が使われているみたいだね……」


 カケルくんが使いまくっていたから、よく知っている。知っているだけで使えるわけではないけどね。


「なっ!? 時空魔法に空間魔法だと? そんなレアな魔法が使われているのか……」


 ライトニングが言うように、確かにレアなのだと思う。俺には、邪神由来の膨大な記憶の一部が残っているけど、その範囲でも使い手は一握りしかいなかった。ほとんどがいわゆる異世界人で、この世界の現地人だと、各国に一名いるかいないか程度のレア属性なのだから。



「おそらく、スタック王国の筆頭魔導師クラスが使ったのではないかしら? でも困ったわね。このままでは部屋に入ることも出来そうもないし」


「たしかにな。残念ながら私も、時空・空間魔法に関してはあまり知識が無い」


 魔法に精通しているミラさんとティターニアさんもお手上げのようだ。



「なあイソネ、何とかならないのかよ? 例の英雄さまに聞いたり出来ないのか?」


 レオナさんの言うとおり、カケルくんなら多分、秒で解決するだろうな……。でも忙しい彼を俺たちの宝探しのために呼びつけるなんて出来るわけないし!! まあ今回に限って言えば、その必要もないんだけどね。多分。



「とりあえず何とかなりそうなんで、やってみますよ」


「マジかよ……さすがイソネ、頼りになるぜ!!」


 全員の期待に満ちた視線が集まる。



「……でもどうするの? この魔法、かなり強力だけど……」    


「大丈夫ですよ、ミザリーさん。実は、時空・空間魔法に関しては対処方法は割とシンプルなんです」


「……シンプル?」


「はい、ようするに術者以上の魔力で殴れば破壊可能なんですよ」


 言うは易しだが、普通はそんなことは出来ない。時空・空間魔法の使い手は、大抵並はずれた魔導師でもあるから魔力で上回ることなど夢物語だ。ましてや異世界人が術者であったなら、諦めるしかないだろう。例えば、カケルくんに使われたら正直何も出来ることはない。


 だけど、幸いここに展開されている魔法はそこまで高度ではない。その点では幸運だっただろうね。おそらく単なる状態保存の魔法だと予想している。



「ほほう……それは興味深い。よし、イソネやってしまえ!!」


「イソネ殿、どうかお気をつけて」


 強気のライトニングと対照的に心配そうなマイナさん。大丈夫ですよ。


「はい、では、早速いきますよ?」



 邪神であった、まほろさんの記憶のおかげで、魔力の操作はだいぶ上達している。


 全身を巡らせて練りに練った魔力を、右手に集中させてゆく。全体を壊すのではなく、一点突破のイメージだ。自分でも怖くなるような魔力……今なら右手で岩を粉々に出来そうな気がするよ。


 この世界の魔力というのは不思議なもので、身体に纏うことで身体能力を向上させたり、物理的な力もアップする。魔法が苦手でも、生まれつき高い魔力を活かして前衛職で活躍している冒険者も多いのだ。



「ぐっ……な、何という凄まじい魔力……これがイソネの本気なのか!?」


 ライトニングが額から汗を流しながら、熱視線を送ってくる。ふふふ、惚れると火傷しますよ?


「素晴らしいな……イソネ、その魔力で私を抱きしめてみろ!!」


 いや……ティターニアさん、とても魅力的なお誘いなんですが、今は結界を壊さないとね!?


「イソネさま、素晴らしいですね。ですが、少々威力が強すぎます。もう少し抑えてください」


 ウルナさんがアドバイスしてくれる。彼女は魔力があまり多くない獣人だけど、その分、魔力コントロールに関してはとてつもない精度だ。髪の毛一本分の使い分けをまるで呼吸をするようにこなしてみせるからね。



 アドバイスに従って出力を抑え、正拳突きの構えから一気に拳を繰り出す。


「はあああっ!!」



――――ガッシャーン!!!!―――― 



 ガラスが割れるような音が響き渡り、一瞬空間に亀裂が入ったかのように錯覚する。先ほどまでの独特の空気感はすっかり無くなっていて、魔法が消え去ったのだとわかる。



「……よし、じゃあ入ろうか」



 先程まではビクともしなかった扉が今度はちゃんと開く。


 ごくり……いよいよ財宝とご対面となるのだろうか? 


 一行は、イソネを先頭に、慎重に船室へと入ってゆくのであった。

   

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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