海に眠る財宝
「え? 船が航路を外れたから戻してほしい?」
「うむ、頼むイソネ、お前だけが頼りなんだ」
「お願いします、イソネさま、どうか……お願い……」
祈るような縋るような二人の懇願を聞き、少し考えるように頭を掻くイソネ。
「……わかった。大丈夫、任せて」
イソネが安心させるようにニコリと微笑むと、アスカとライトニングは目を大きく見開いてイソネに詰め寄る。
「ほ、本当か!?」
「本当にそんなことができるんですの?」
キスされそうなほど至近距離から襟首を掴んで離さない二人にイソネはたじたじになる。
「あ、ああ、俺のスキル『海流操作』があれば造作もないことだよ」
ちなみにこの『海流操作』のスキルは、クラーケンから手に入れたものである。
「おお……まさかそんなすごいスキルを……」
「さ、さすがですわ!!」
二人のキラキラした眼差しを受けて照れくさそうなイソネだが、背後からリズとクルミの攻撃を受けて次第に表情が歪んでくる。地味に痛いところを的確に狙ってくるのだからたまらない。
「でもさ、このまま進むとイソテン群島へ接近するよね? せっかくだから少し寄っていかない?」
痛みに耐えながらそんな提案をするイソネ。何か考えがありそうだが、フナ虫にトラウマを持つ二人には有り得ない話で、当然激しく反発する。
「な、何を言っているんだ!? あそこにはフナ虫がうじゃうじゃいるんだぞ?」
「そ、そうですわ! 私も反対です!」
そんな二人を見て、イソネはフム……と一瞬考え込んでから、口を開く。
「実はね……イソテン群島にはお宝が眠っているんだよ」
イソネが入手したクラーケンの記憶には、結構なお役立ち情報がある。クラーケンという魔物は、財宝を好む性質があるため、世界中の海のお宝情報が今のイソネの頭の中に存在しているのだ。
「……お宝ですって!?」
「イソネ……詳しい話を聞かせてもらおうかしら」
お宝というワードに、アスカとリズが目の色を変える。リズの反応は想定内のモノだが、アスカもまた、大商会の令嬢、金目の物には人十倍敏感だ。
「う、うん……実はさ、あの海底には、沈没船があってね。その積み荷がすごい量の金貨と宝石なんだよ」
「沈没船? それって……もしかすると、バミューダ号のことかもしれないわね……」
「アスカ嬢、もしそうだとしたら、とんでもないことだぞ……」
アスカとライトニングが興味深げに頷き合う。なぜイソネがそんなことを知っているかなんて野暮なことは考えない程度には、信頼しきっているのだろう。
「ねえライトニング、バミューダ号って何?」
リズが興味深そうにたずねる。
「滅亡したスタック王国の船だ。一部の家臣たちが、国宝と財産をありったけ積んで持ち出したとされるのだが、いまだに行方がわかっていない。その船の名がバミューダ号だったとされている」
「もちろん、その話そのものが作り話だったかもしれませんし、ただの海賊船や商船の可能性もありますわね」
アスカもあくまで可能性の一つだと冷静に補足する。
「もし、沈没船がそのバミューダ号だったとして、そのお宝の所有権はどうなるの?」
「もちろん発見者のものになるだろうな。すでにスタック王国は存在しないのだし」
リズの質問にライトニングが淡々と答える。
「そう……それで、イソネ? もちろん海中からお宝を引き上げることは出来るのよね?」
「え? あ、ああ、もちろんさリズ。そうじゃなかったら、こんな提案する訳ないだろ?」
「ふふふ、行きましょう、フナテン!!」
「アハハ、そうね、お宝が待ってるわ!!」
リズとアスカが手を取り合って踊っている。こうなればもはや誰も逆らえない。事実上の決定事項だろう。
「だ、だが、フナ虫はどうするのだ?」
いつの間にそんなに仲良くなったのだと呆れながらも、リズとアスカをにらみつけるライトニング。財宝への執着が無い彼女にとっては、お宝と言われても、正直何のメリットも感じられない。
「大丈夫よ、そんなのイソネが何とかしてくれるから」
「ライトニング様、スタック王国の国宝の中には、貴重な魔剣があったそうですわよ?」
息もぴったりに即答する二人。もはやお宝のことしか頭にない。
「……魔剣……だと!?」
ライトニングに衝撃が走る。
剣マニアのライトニングにとって、魔剣を手に入れることは幼少からの夢。抗うことなど出来ようか。
「イソネ……フナテンへ向かう。皆にもそう伝えてくれ」
そう言い残して操舵室へと向かうライトニングであった。
******
「何っ!? 沈没船のお宝?」
フナテンへ向かうと説明をしたら、レオナさんがめっちゃ喰いついてきた。他のみんなも、まあ別に良いんじゃないといった感じで特に異論はないようだ。
「待て待て待て、あそこにはフナ虫がいるだろうがっ!!」
……ティターニアさんを除いて。
「……ティターニア殿のようなエルフは虫に強いイメージがあったが……?」
「フナ虫は別だ!! ベアトリス、やつらは虫ではない海の悪魔だ」
どうやらティターニアさんにもトラウマがある模様。
「大丈夫ですよ、私が神聖魔法で一匹残らず浄化してやります……」
神官であるミラさんが目をギラギラさせながら拳を握りしめている。フナ虫に恨みでもあるのだろうか? うん、ちょっと怖い。
「ふふふ……虫は皆、私の炎で燃やし尽くしてやる……」
ミザリーさんはガチで怖い……。周囲の空気が熱で歪んで見えるんですけど!?
「だ、駄目ですよ、フナ虫はあの島を守っているんです。大丈夫、俺に任せてください」
「イソネ殿、何か良い手があるのか?」
「はい、マイナさん。フナ虫たちはクラーケンの眷族である大王フナ虫の眷族。つまり俺にとっては部下の部下です。言うことを聞かせるなんて容易いのですよ、ふふっ」
「でも今の貴方は人間じゃないの。奴らに通じるとは思えないわよ?」
たしかにカスミの言う通り、今の俺は人間だ。しかーし、我に秘策アリだ。
「実はですね~。先日邪神と入れ替わってから、チェンジスキルの仕様が変わったんだよ。だから問題ないんだよね」
「「「チェンジスキルの仕様が変わった?」」」
皆一様に頭の上にはてなマークを浮かべている。
イソネは、さっそく皆に新しいチェンジスキルの説明を始めるのであった。




