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村人だった俺が神スキル『チェンジ』に覚醒して世界を救う英雄に~命懸けで戦っていたら仲間には愛されるし婚約者は増えてゆくし、幸せすぎて困ります~  作者: ひだまりのねこ
第五章 王都への旅路 ~リゾート都市コルキスタ

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大商会令嬢 アスカ=セレブリッチ


「……この方が、英雄イソネさま……」


 今話題の英雄が目の前にいるというのに、どこか心は上の空だ。


 昨晩の記憶が甦ってくる。




――――昨晩、セレブリッチ邸。


 

「お呼びでしょうか、お父さま」


 お父さまがわざわざ私室に私一人を呼び出すのは珍しい……というよりも、あまり記憶にない。


「おお、アスカ。今日も可愛いな。さすがは私の娘だ。ふふふ」


「……お父さま? そんなことでわざわざ呼びつけたのですか?」

「そんなわけないだろう。実はな、お前に頼みたい仕事があるんだ」


 セレブリッチ商会は巨大で、各部門で兄たちが働いている。私も例外ではなく、父の秘書的な仕事を手伝いながら、様々な分野の仕事を学んでいる最中でもある。


 仕事の話なら、わざわざ二人の時でなくても、昼間いくらでも時間があったはず。どういうことだろう。


「……仕事ですか?」

「ああ、お前も英雄殿のことは知っているな?」


「もちろんですわ。クラーケンを倒し、この街を救ってくださったのですから。今や、街中その話題で持ちきりですよ」

「頼みたい仕事というのは他でもない。その英雄殿に同行して、王都まで行ってほしいんだよ」

  

「……は? そ、そんな大事な仕事を私に?」


 本来ならば、代表である父が担当してもおかしくない大事な案件だ。代理であるならば、私よりも長兄の方が良さそうなものだが。


「そうだ。本来なら私が行きたいところなんだが、どうしても外せない仕事があってな……」


 ああ、そうでした。たしかにタイミングが悪い。


「でしたら、サトル兄さまが適任では? 今なら手もあいているでしょうし……」


「うん……まあなんだ、お前じゃなければ駄目なんだ」


 いつになく歯切れが悪い父。なんだか嫌な予感がします。


「お父さま、はっきり言ってくださいな」



「むう……実はな、英雄殿をお前の婿にと考えているんだ」

「なんだ、そんなことでしたか……って、はあああああ!?」


「あの、私、お会いしたこともないんですが?」


 いくらなんでも、見たこともない殿方と結婚するなんて……。


「うん、だからな、一緒に王都まで同行してみて、お前が気に入ったらで構わない」


「う……ま、まあ、それならば構いませんけれど……」


 大商会の令嬢として、結婚相手が選べないのは覚悟していた。でも、気に入ったらで良いなら、願ってもない。だって、このままだと私は……。


「そうか。それなら良かった。私としても、出来ればあんな奴にお前を嫁に出したくはないのだよ」


 そう……王都で有数の大商会の跡継ぎとの縁談。何度も断っているのだが、向こうが私にぞっこんで、なかなか諦めてくれないのだ。有能ではあるが、冷酷で非情な人。何度会っても好きになれない。



「ですがお父さま、仮にも英雄と呼ばれるお方。すでにお相手がいるのでは?」


 クラーケンを倒すほどの英雄だ。貴族どころか、王族だって囲い込みに来てもおかしくない。


「それなんだがな。どうやらすでに複数の婚約者がいるらしい。驚いたことに、ライトニング様もその一人だ」


「は? ら、ライトニング様って、あの伯爵令嬢で、四聖槍筆頭の?」


 まさか、あのポルトハーフェンの女傑が……信じられない。


「しかも、政略結婚ではなく、ご自身から結婚を迫ったとか。どんな男なのかわからないが、その事実だけでも十分に興味深い。しかもだ、これは一部の者しか知らない情報だが、この街に向かって進軍してきたハイオ-ク率いる数千の大軍を、英雄殿率いるパーティが殲滅したそうだぞ。騎士団長からの情報だから間違いない」


「そ、そんな……ということは、私たちは英雄さまに二度も救われたということではないですか?」


「うむ、その通りだ。それだけの武功を自慢するでもなく、彼は、領主様に何を要求したと思う?」


「……想像もつきませんが」


「宿屋を紹介してほしい……だとさ。どうだ、面白い人物だとは思わないか?」


 ふ、ふふふっ。何やら興味がわいてきました。明日お会い出来るのが楽しみですわ。



******



「あの……アスカさん?」


 困ったような声で我に返る。


 いけない、英雄さまに話しかけられていたようだ。


「はい、何でしょう英雄さま」


 出来るだけ平静を装って返事をする。


 その白に近い明るい灰色の髪と瞳。穏やかで優しい物腰。それにとってもハンサムだわ。


 お父さまが変なことを言うから、まともに目を合わせられないじゃない。



「何って……船の準備が出来たってさっきから呼んでますけど……」


 言われてみれば、先ほどから視線が痛い。まずいわ……これじゃあ、私が無能みたいじゃないの。


「ありがとうございます、英雄さま。すぐ戻ってまいりますね」


「アスカさん、俺のことはイソネって呼んでください」


「……前向きに検討します」


 恥ずかしさもあって、顔も合わせず走り去る。



******



「ねえリズ、俺、アスカさんに嫌われるようなこと何かしたっけ?」


「……それを私に聞く? 本当に鈍感なんだから……」


「へ? い、痛い、痛いよリズ、なんでつねるんだよ……!?」


――――ガブッ!!――――  


「い、痛てええええ!!! 痛いよクルミ、なんでカジるんだよ……!?」 

「……イソネがモテるのが悪い」


――――ドスッ!!――――  


「ぐふっ!? がっ、がはっ!? ひ、酷いよカスミ、なんで腹パンするんだよ……!?」  

「……なんとなく腹が立っただけよ。気にしないで」


 くっ、訳が分からない。何という理不尽さ。誰か助けて……。



「イソネさん、さあ私が癒してあげます」

「ミラさん!! うわああああん!! 怖かったよ~」

「ふふふ、よしよし、好きなところを触っていいですからね?」


 ううう……ミラさんが天使……いや、女神に見える。


「こら、ミラ、甘やかすのはやめないか!」

「そうだぜ、ずるいぞミラ」


 マイナさんとレオナさんが割り込んできたので、残念ながらお触りは出来そうもない。




「ライトニング様、ずいぶんと賑やかな旅になりそうですね……」

「そうだな……ふふっ、悪いが私も加わってくるとしよう。世話になったなアレクセイ殿」



 ライトニングも加わり、もみくちゃにされるイソネ。


(負けるなよ、アスカ……)


 心の中で愛娘を応援するアレクセイであった。 

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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