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村人だった俺が神スキル『チェンジ』に覚醒して世界を救う英雄に~命懸けで戦っていたら仲間には愛されるし婚約者は増えてゆくし、幸せすぎて困ります~  作者: ひだまりのねこ
第四章 王都への旅路 ~ポルトハーフェン 

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屋敷に迫る悪意


「あと、必要ないとは思うが、通信用の魔道具を渡しておくよ。それから、その指輪も指にはめておいてくれ」


 カケルくんに、通信用の小型魔道具と、指輪を渡される。


「……これ、なんの指輪なんです?」

「チェンジのスキルの発動を抑える指輪だ。うっかりして使わないように、念のためだ」


「……信用無いんですね? わかりました。責任重大ですから、付けますよ」


 たしかにうっかり使ってしまう可能性はある。キタカゼさんたちがいるのなら、力を使う機会もまずないだろうし大丈夫だろう。


 指輪をはめるとサイズはピッタリだった。ああ、なるほど、自動サイズ調整なんですね。ほええ。



「あ、まだ渡すものがあった!!」

「……まだ何か?」


「これを持っていくといい。サイズはちゃんとピッタリだから安心してくれ」


「……これって、女性ものの下着じゃないですか!? しかもめっちゃエロい……」


 これを……俺が着用する……だって!? 妄想ワールド展開!! ふふふ。


「まあ、たまには女性の身体を満喫すればいいさ。どうせ数日間で終わるんだし」

「……そうですね。ありがとうございます。存分に楽しむ所存であります!!」


 あ……ヤバい、つい本音が出てしまった……。



『イソネさま、その身体、一応、元私のなんで、あまり変なことしないでくださいね!!』 


 そばで聞いていたデメテルが文句を言ってくる。


 でも、デメテルよ。お前の記憶はばっちり俺の中にあるんだからね? ふふふ。


「大丈夫ですよ、デメテルがやっていたことまでなら良いんですよね?」


 ちょっとだけ意地悪なことを言ってやる。俺からのお仕置きだよ。


『ふえっ!? 何を言って……あ!? まさか記憶!? いやああああああ!? 忘れなさい! 今すぐ!! 何ニヤニヤしてるのよ!! うわあああああ!!』


 カケルくんの腕の中でジタバタ暴れるデメテル。自業自得だよ。ははは。



「じゃあ、カケルくんも元気で!」


 扉を開ければ、領主さまの屋敷の前に出るらしい。手を振りながら外へ出ると、もうそこにはカケルくんたちの痕跡はなにも残っていない。



 夢だったのかもしれないな。思わずそんなことを考えてしまうけれど、指にはまった指輪が、そうでないことを教えてくれる……コスプレセットもあるし。



「さあ、みんなのところへ帰ろう!!」


 屋敷へ向かって歩き出すイソネであった。



***



 時は少しだけ遡る。


 イソネがクラーケンを止めるために屋敷を飛び出したあと、仲間たちもまた、彼を追うように街へと向かおうとしたのだが……。



「駄目……悪意が……酷い悪意がこの屋敷に迫ってるの……」


 怯えるクルミの言葉に、ティターニア、路傍の花のメンバー、カスミとヴォルフ、仲間たちは互いに頷き合い、この場に留まることを決める。


 クルミの嗅覚の正確さは、皆、嫌というほど知っている。そのクルミがこれほど怯えるのだ、間違いなく何かが起こる。それが全員の共通認識だった。



「……クラーケンは大丈夫だ。なんたって、イソネが向かったのだからな……」


 辛そうにつぶやくティターニア。


 彼ならば、おそらくチェンジを使ってでも止めるだろう。そんな確信がある。


「結局……こうなってしまったか。なぜだ……なぜイソネばかりが辛い目に遭わなければならない」


 ぎりりと歯を食いしばるティターニアを、神官のミラが慰める。


「きっとイソネさんは、女神さまに愛されているのですよ。だって、唯一無二の力を授かっているのですから。大丈夫、彼には大いなる加護がありますから、今回もきっと……」


「ミラの言うとおりだ。ティターニア、今はこの場の危機に備える方が先決だと思うが?」


「ふふっ、そうだな。私としたことが……すまない、もう大丈夫だ」


 マイナの言葉に平静を取り戻すティターニア。


 

 現在、屋敷には、最低限の警備しかおらず、領主や騎士団は、街へ向かったため非常に手薄になっている。しかもメイドたちや使用人の多くは非戦闘員で、カトレアのように寝たきりの病人もいる。


 ここで判断を誤れば、大きな被害が出ることは避けられないだろう。

 

 問題は、強い悪意があるという点。


 クルミによれば、実は魔物の類は、特段悪意を発することはないのだという。悪意を発するのは、基本的に人間だ。つまり、この騒ぎは悪意あるものによって引き起こされた可能性が高い。


 そうなれば、真っ先に思い当たるのは因縁の人身売買組織と帝国の関与。


 ここポルトハーフェンの重要性を考えれば、狙われてもおかしくないし、クラーケンの突然の暴走も、隷属の首飾りのようなものを使用したと考えるのが自然だろう。




「みんな、おそらく今回の騒ぎは例の組織と帝国の仕業で間違いないだろう。油断するなよ?」


 ティターニアの言葉に気を引き締める一同。さすがはいずれ劣らぬ歴戦のつわもの達。緊張はあるものの、怯えた様子をみせるものはいない。



『グルルルルルルル……』

「み、みんな……来るよ!」


 エンシェントウルフのヴォルフとクルミが、ほぼ同時に声を上げる。


「わかった。下がっていろ、クルミ!! 『風壁』!!」


 ティターニアが周囲に風の防壁を作りだす。


―――ガガガガガガガガッ!!!―――


 風壁の展開とほぼ同時に無数の石つぶてが飛来して弾き返される。


 だが、石つぶてといっても、一つが人間の頭より大きいのだ。まともに喰らったらただではすまない。



「……ちっ、オーガか……嫌な奴が来たな……」


 ティターニアが嫌そうに顔を歪める。


 身長3メートルを超える大柄な人喰い鬼オーガは、オーク以上の怪力なうえに、魔法に強い耐性を持つ厄介な魔物だ。魔法主体で戦うティターニアとは相性は良くない。


 さらに―――


「おいおい、ゴーレムにミノタウロスまでいるぞ……最悪かよ」


「レオナ、無駄口たたかないで集中しろ。私たちが崩れれば終わりだぞ!!」 


 悪態をつくレオナに声をかけるベアトリス。典型的な前衛タイプがベアトリスしかいないパーティメンバーの中で、次に身体能力が高いのはレオナなのだから当然だろう。


 それにしても、オーガ同様、魔法が効きにくいゴーレムとミノタウロスといった物理特化の力押しタイプが揃っているのは悪夢としかいえない。しかも寄せ来る敵の数は少なくとも自分たちの数倍……。



 圧倒的に不利な状況での屋敷防衛戦が始まる。

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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