冒険者ギルドにて
「では、まいりましょうか。イソネ殿、ティターニア殿」
すごく良い笑顔のライオットさん。なんでも自分の屋敷に招待できるのが嬉しいのだとか。本当に真っすぐで、育ちの良さが伝わってくる。あんなところで、オークの犠牲にならなくて本当に良かったよ。
ともあれ、宿の問題が解決したのは本当にありがたい。しかも、おそらく最高の環境だ。リズたちが喜ぶ顔が目に浮かぶね。
「では、また夕食時に会おう! ライオット、私の分の食事も頼むぞ?」
ゴッドフリート騎士団長が相変わらずのイケメンスマイルでそんなことをおっしゃる。
「は、はあ……ちゃんと用意してありますよ団長」
どうやら、ゴッドフリートさまも夕食を食べに来るらしい。まだ他のメンバーを紹介していないから、丁度良かったかもしれない。
***
「ゴッドフリートさまは、よく屋敷に来るんですか?
騎士団の廊下を歩きながらライオットさんにたずねる。
「そうですね、週5回ぐらいは……」
多いよ!? ほぼ自宅じゃないのそれ?
「ん? 毎日ライオネルのところで食べてばかりで、カトレアは怒らないのか?」
「ティターニアさん、カトレアさんって?」
「ああ、ライオネルの妹で、ゴッドフリートの奥さんだ」
なるほど、たしかに奥さんからしてみれば、家に帰らず自分の実家で食べてくるとか嫌かもしれないな。
「実は……おばさま、カトレアおばさまは病気なのです。今はお屋敷で寝たきりになっています」
「……そ、そうだったのか。すまない、変なことを聞いてしまった」
そうか……だから毎日お屋敷へ。それにしても病気か……なんとかしてあげたいけど。俺が出来るようなことなら、とっくに領主様がやっているだろうしなあ。
***
三人で待ち合わせ場所の冒険者ギルドへ向かう。
ポルトハーフェンは、街全体に石畳が敷かれていて、とても美しい港町だ。山奥で育った俺にとっては、初めてのことで、歩いているだけでも楽しい。前世の記憶でいうと、ちょっとだけオランダっぽいかな?
ティターニアさんは、ほとんど音をさせないで歩く。まるで猫みたいだ。一方のライオットさんは、しっかり大地を踏みしめるように歩く。それに合わせて、騎士鎧がガシャガシャ小気味よく音を立てる。
「おーい、イソネええ、こっちだ!! お、なんだライオットまで一緒かよ!!」
ギルドに入るなり、レオナさんがぶんぶん手を振って大声で叫ぶ。マイナさんたちが、慌ててレオナさんを黙らせるけど、もう手遅れだ。驚いた利用者たちが一斉にこちらをみる。
ただでさえ目立っているから、これ以上無駄に注目されるのは正直やめてほしいんですけど……。
「みてみてイソネ、売り捌いた荷物、こんなになっちゃった!!」
嬉しそうにギルドカードを見せてくるリズ。ああ……守りたいこの笑顔。ふんふん……ちょっと待て、いくらなんでも儲け過ぎじゃないのか?
困っている人々から暴利をむさぼるような真似、リズにはしてほしくない。婚約者としてびしっと言ってやらないと……。
「リズ……」
「ん? なあにイソネ」
「良かったな。いっぱい売れたんだね!!」
輝くような黒い笑顔を曇らせるなんて俺には無理だったよ。リズのふわさらな青髪を撫でまわす。
「一応言っておきますが、ギルドからの特別報酬が加算されているので、心配しなくても大丈夫ですよイソネさん」
俺の苦笑いをみて察したのであろう。マイナさんが補足してくれた。ああなるほど、心配して損したよ。びしっと言わなかった俺、グッジョブ。
「見てくれイソネ、似合っているか?」
「俺も俺も、どうだ、惚れ直してもいいんだぜ?」
ベアトリスさんとレオナさんが、新調した装備品を見せてくれる。今までのものは、昨日の戦いで傷んでしまったからね。
だけど、これは一体……。思わず息をのんでしまう。
身体のラインを強調したデザイン。動きやすさを重視したのか、とにかく露出が多い。もともと獣人はその優れた身体能力を最大限生かすために、たしかに最低限しか服を着ない傾向がある。防具も、胸当てなど、急所のみを守る目的のものが多い。
でも、いくらなんでも過激すぎないか? 前世の知識で言うなら、ビキニアーマーって奴だよね?
「そ、そうですね、とても似合っているとは思いますが、ちょっと見せすぎじゃないですかね?」
正直な感想を伝える。だって似合っているのは本当だから。
「む? なんだその顔は? イソネ、もしや私が他の男に身体を見られるのが嫌なのか?」
ベアトリスさんは、熊さんなのに、なんでそんなに鋭いんですかね。でも、はいそうですとか言えませんからね?
「むふふ、なんだそういうことか。安心しろ、普段はマントを羽織るからな。まったく可愛い奴だ」
嫉妬されたのが嬉しいのか、普段無表情のベアトリスさんが珍しくにこにこしながら頭を撫でてくれる。レオナさんは、露出の多い格好で、がっしり抱き着いてくるので、色々困る。
『安心しろイソネ、マントで隠せば見えないからな』
レオナさんが耳元でそうささやくけれど、見えないから何してもいいわけじゃないんですよ? っていうか、ギルドで何するつもりなんですか!?
「ふふふ、イソネくん、私たちも良いもの買っちゃったんだけど……見る?」
「ふえっ!? み、ミラ!? 本当に見せるの?」
「当り前じゃない。今見せないでいつ見せるのよ?」
「ええ、ぜひ見てみたいです」
「ふふ、こっち来て?」
二人のそばに行くと、ミラさんとミザリーさんが、他の人から見えないように服をまくり上げる。
「……っ!?」
『……どう? 新作の下着、ピンク色で可愛いでしょ?』
「ひ、ひゃい……」
『り、リズがイソネは純白が好きだって言うから……』
「さ、最高でしゅ……」
くっ、なんてことだ。初めからわかっていれば、もっと見る配分を最適化出来たというのに……。
自分の無能さが恨めしい。忘れないうちに網膜に焼き付いた絶景を反芻するのに忙しいイソネであった。




