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村人だった俺が神スキル『チェンジ』に覚醒して世界を救う英雄に~命懸けで戦っていたら仲間には愛されるし婚約者は増えてゆくし、幸せすぎて困ります~  作者: ひだまりのねこ
第三章 王都への旅路 ~パクス 

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コーヒーブレイク


 遅い朝食を終えた後、俺は、キタカゼさんたち『氷の翼』のメンバーと話をすることになっている。


 昨晩は色々あってそれどころじゃなかったけど、聞けば彼女たちは俺を探しに来たようなことを言っていた。まさか犯罪組織の追っ手ではないだろうし、一体なんの用なのだろう? それになぜか俺のチェンジスキルのことも知っているっぽいのだから恐ろしい。


 キタカゼさんたちがいるのは、騎士団が用意した簡易宿泊用の天幕。中に入ってゆくと、いまだに見慣れない美男美女たちが、一斉に俺を見る。


 どうやら待たせてしまったのかもしれない。慌てて案内された席に着く。



『おう、遅かったじゃねえか、イソネ。まあ仕方ねえよな、あんなに相手しなきゃなんねえんだから。ほれ、精力増強、絶倫になれるエナジードリンクだ。お前にやるよ――――ひでぶっ!?』


 朝から少々暑苦しいシュヴァインさんがぶん殴られて天幕の外へ消えた。大丈夫だろうか? っていうか、この世界にエナジードリンクなんてあったの!?


『おはようございます。イソネ殿、メンバーが失礼いたしました。お茶にしますか? それともコーヒー?』


 まぶしいほどの笑顔で迎えてくれるのは、『氷の翼』リーダーのキタカゼさん。サラサラのアイスブルーの髪がキラキラ輝いて、何度見ても現実離れした異次元の美しさに驚かされる。なんていうか、人間より神様に近い美しさ? 神々しさみたいなものを感じてしまう。


 ただし、シュヴァインさんをぶん殴ったのは彼女だ。絶対に怒らせてはいけない。


「え? こ、コーヒーあるんですか!? の、飲みます、コーヒーでお願いします」


 この世界で初めてのコーヒー。てっきり存在しないのかと思っていた。あると思えば飲みたくなるのが心情だよね。まあでも、名前が同じだけで、別物の可能性もあるけどさ。 


『ふふっ、わかりました。お砂糖とミルクは入れますか?』

「あ、それじゃあブラックで!」

 言った後で、ここが異世界だってことを思い出す。ブラックじゃ通じないかも……

『ブラックですね。私もコーヒーの味と香りが楽しめるのでブラック派なんですよ。一緒ですね』

 普通に通じているし、良かった。しかもキタカゼさんと一緒。ふふっ、やばい顔、赤くないかな?



『はい、イソネくん、ブラックお待たせ、リーダーもブラックでいいんだよね?』

 

 王子様みたいなシュタルクさんが銀色のトレーに乗せた淹れたてのコーヒーを運んでくる。ああ、これこれ、この香りは間違いなくコーヒーだ。しかもとびきり高級な感じがする。あと、コーヒーカップもただ事ではない、これ絶対に磁器かボーンチャイナだよね? こんな食器この世界で見たことがないよ。


 その昔、ヨーロッパでは、磁器に城より高い値段が付いたらしいし、所有していることそのものが、ステータスだったと聞いたことがある。地球とは違うかもしれないけど、絶対に庶民に手が出せるものではないことぐらい俺にもわかる。


 やはりシュタルクさんたちは、どこかの王侯貴族なのかな? そうなると彼らが王女様に仕える王宮のイケメン執事にしか見えなくなってくる不思議。なんか申し訳なくなってくるよ。俺、生まれも育ちも一般庶民だしね。

 

「あ、ありがとうございます、シュタルクさん」

『ありがとう、シュタルク、気が利きますね』


『痛てててて……おい、リーダー、いきなり殴るなんて酷くねえか? おっ、コーヒーか。シュタルク、俺にもコーヒー頼む。砂糖とミルクたっぷりでな』


 そこへ復活して戻って来るシュヴァインさん。本当にすごい人だ。いったいどんな鍛え方をしているのだろう。


『シュタルク、この豚には、泥水でも飲ませておけばいいのです。どうせ味も香りもわからないのですから……』

 

 氷すら凍り付きそうな冷たい声色で酷いことを言い放つキタカゼさん。シュヴァインさんに大事に取っておいたおやつのプリンでも食べられてしまったことでもあるのだろうか?


『ま、まあまあ、そのぐらいにしてあげたら? ハルクはおかわりいる?』

『うむ、そうだな、せっかくだからもらおうか。砂糖山盛りで!』


 苦笑いしながらオーダーを確認するシュタルクさん。ハルクさん、そんな硬派な見た目なのに、砂糖めっちゃ入れるんですね。いや、別にいいんですけどね。


『お待たせ~、特製の焼き菓子だよ。うまく焼けていると良いんだけど……』


 小動物系イケメンのハルトさんが、焼き立てのクッキーを運んでくる。バターの香りが部屋いっぱいに漂って、絶対美味しいと分かってしまう。なんか俺だけ食べるの申し訳ないな……


『あ、大丈夫だよイソネさん。ちゃんとお土産用のクッキーも焼いてあるからね』


 思わず抱きしめたくなるが、ぐっとこらえる。血迷うな、彼は男だ。いや女性だったら抱きしめて良いわけではないけれども。


 なんかお茶会に招かれたみたいな雰囲気になっているけど、本題はこれからだ。そもそも、俺だけ呼ばれた時点で、何か内密な話があるのだろう。気を引き締めないとね。



***



『さて……どこから話したものでしょうか……』


 キタカゼさんがその美しい眉をわずかに寄せてから話を切り出す。


『単刀直入に言えば、私たちは、(あるじ)より命じられて、イソネ殿を探していたのです』

「……はい」 

 それは昨日もそんなようなことを言っていたので知っている。こんなすごい人たちの主なんて怖くて想像も出来ないけれど。



『目的は、貴方の持つユニークスキル『チェンジ』の力を借りること。そしてその時が来るまで、貴方がたを守ること。それが私たちに与えられた使命です』

「お、俺の力を借りる? キタカゼさんたちのほうがずっと強いじゃないですか?」


 確かにチェンジの力は、使い方によっては強力だけど、正直微妙な力だ。恩恵は俺個人にしかないし、いまいち目的がわからないな。


『いいえ、主が求めているのは、チェンジスキルの力であって、イソネ殿の戦力ではありません。そもそも、主は、私など足元にも及ばぬほどお強いですから……』


 うっとりとした表情で主とやらを称賛するキタカゼさん。あの……その主って、魔王かなんかじゃないですよね!? やばい、なんか怖くなってきたんですけど!!



 恍惚な表情を浮かべるキタカゼとは対照的に、恐怖におののくイソネであった。


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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