表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人だった俺が神スキル『チェンジ』に覚醒して世界を救う英雄に~命懸けで戦っていたら仲間には愛されるし婚約者は増えてゆくし、幸せすぎて困ります~  作者: ひだまりのねこ
第三章 王都への旅路 ~パクス 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/144

真夜中のフライト


 『氷の翼』の皆さんと一緒に集落へ入ってゆく。


 あたり一帯激戦のあとが生々しく残っていて、早くみんなの無事を確認すべく、自然と足早になってしまう。



「フランツさん、ライオットさん!」


 遠目に知り合いの姿を見つけて、思わず叫んでしまう。


「えっと……どちら様?」


 あ……そういえば姿変わっていたんだったね。


「すいません、イソネです。ご無事でなによりです」

「おおっ、イソネ殿か! 良かった。こうして生きて再会できるとは正直思わなかったよ」


 苦笑いのフランツ隊長。見れば全身傷だらけで、装備もボロボロ。愛剣も折れてしまったそうだ。


「リズさんたちなら、避難用シェルターにいますよ。大丈夫、全員無事です」


 隊長以上にボロボロのライオットさんが笑顔で教えてくれる。とりあえず一安心だ。



「それで、ティターニアさんはどこです?」

「!? そ、それが……」


 二人の表情が曇る。え? ちょっと冗談きついよ、そんな表情しないで下さいよ。



「……行方不明なんです。森の中に入っていったのは確認していたんですが、未だに戻って来ていなくて……」


 良かった。いや良くはないけど、最悪の結果よりは良かった。きっと怪我をして動けないんだよ。そうに違いない。


「分かりました。俺、ちょっと探してきますね」

「あ、ああ、頼むよ。彼女がいなければ、間違いなく俺たちは全滅していただろうから」


 ええ、分かりますよ。あの人はそういう人だから。


 見ていなくてもわかる。きっと誰も死なせないように全力で戦ったんですよね?



(早く……早く迎えに行ってあげないとな……)


「……イソネさん……」

「ごめんねカスミ。俺ちょっと森へ行ってくるから、キタカゼさんたちと待っててくれないかな」

「……わかった」


『……イソネさん、森の中にはもうオークはいませんから、安心していってらっしゃい』

「キタカゼさん……カスミのことよろしくお願いします」

『はい、任されました』



『乗れ、エルフの匂いを探せばいいのだろう?』

「ヴォルフ……ありがとう」

『……気にするな。勇敢な戦士を早く見つけてやらないとな』



 ヴォルフに跨り、真夜中の森を駆け抜ける。



『……このあたりで戦闘になったようだな。エルフとオークの匂いが強く残っている』

「ありがとう、探してみよう」


 付近の木々は無残に折れて、戦闘の激しさを物語っている。


 切り刻まれた無数のオークの死体。おそらくティターニアさんの風魔法でやられたのだろう。



「!? ティターニアさん!?」


 全身に切り傷を受けて絶命しているハイオークを発見した。くそっ、まだいたのかよ。そして、それを一人で倒したのであろう、ティターニアさんの恐るべき実力に驚いてしまう。


「ん? これは……魔力回復ポーション?」


 足元に転がっているポーションの空き瓶。この付近にいるはずだ。胸がざわつくのを抑えながら周囲を探す。


「……ウソだろ……!? なんでハイオークがここにもいるんだよ……」


 並ぶように死んでいるハイオークが2体。目立った外傷が無いことから、倒したのはおそらくティターニアさんじゃない……




 ハイオークの死体の前には、折れたレイピアと彼女が着ていた服の一部が残っていた。



「……ティターニアさん? どこにいるんですか? 迎えにきましたよ?」

 

 俺の声は虚しく夜の森に吸い込まれてゆく。


  


『……エルフのキスはお守りになるんだ。だから……必ず帰ってこい』


 唇にそっと手を触れる。もうあの時の体ではないけれど、ちゃんと残っているんですよ? 約束通り帰ってきたんですから……だから……返事をして下さいよ。ねえ、ティターニアさん。



 返事は無く、あるのは目の前に転がるハイオークの死体だけ。こみ上げる衝動が抑えきれない。やりきれない想いが爆発する。



「…………んだな、お前らが! 喰ったのか!? なあ、おい! ふざんけんな! 黙って死んでんじゃねえよ!!!!」


 ハイオークの死体を切り裂き、引きちぎる。全身が血まみれになるが構わない。


『……イソネ、もういい』

「うるさい! 下がってろ!」


 ヴォルフの言葉にも耳を貸さずにひたすらハイオークを解体する。


「はぁ……はぁ……なんで、なんでいないんだよ……なんでだよ」


 2体のハイオークの胃袋の中にティターニアさんはいなかった。ほっとした思いと同時に、もう見つけられないのではという不安が襲ってくる。



『イソネ、エルフならいたぞ』

「……なんだって? なんで早く言わないんだよ!」


『言おうと思ったのだが、黙らされたからな』

「……悪かった」


『……こっちだ、ついてこい』


 ヴォルフに案内された場所には、大きな大きな木が生えていて、その根元には血まみれのティターニアさんが倒れていた。



『……エルフは、自らが死にゆくとき、なるべく大きな木の下へ向かうらしい。森の加護が受けられるように、生まれ変わってもまたエルフになれますようにとな……』


 彼女の全身は酷い状態で、きっとここまで這って辿り着き、ここで力尽きたのだろう。


 でもさ、なんで顔だけはそんなに綺麗なままなんだよ……まるで生きてるみたいじゃないか。


「ティターニアさん……ティターニアさん……」


 言葉が出てこないよ。なんて声をかければいいんだよ。


 嗚咽と涙しか出てこない。ごめんなさい。間に合わなくて……ごめんなさい。




「……涙がかかって顔がべちゃべちゃなんだが?」

「あ、ごめんなさい……今拭きますってええぇっ!?」 


「どうした? そんな驚いた顔をして? おっ、今度は吸血鬼か? 本当に忙しい奴だな、イソネは」


 面白そうに笑うティターニアさん。


「……ヴォルフ?」

『ん? なんだ? 我は一般論を話しただけで、死んでいるなんて言っていないぞ?』

「うわあああああ!? 紛らわしいこと言わないでよ! ヴォルフの馬鹿野郎おおお!』

『なっ!? 勝手に勘違いしたのはお前だろうが! ふん、まあいい、カスミが心配だから、我は先に帰るぞ』


 そういって、ヴォルフは夜の森へ消えていった。


「なあ、イソネ」

「はい、なんですかティターニアさん」


「お前がここに来たということは、戦いは終わったんだな?」

「はい、終わりました。奇跡的に死者も出ていません。みんな無事ですよ」


「……そうか……そうか」


 静かに目を閉じた彼女の目から涙が零れ落ちる。きっと張りつめていたものが切れたのだろう。


「立てそうですか?」

「いや……無理だな。魔力も切れて、両足も折れてる。すまないが、お姫様抱っこで頼む」

「はい、わかりました。痛むとは思いますけど、少し我慢してくださいね」


 なるべく痛まないようにそっと体の下に両手を差し入れる。


「……イソネ、手つきがやらしい……」

「うえっ!? す、すいません!?」

「ふふっ、冗談だ。気にするな」

「ええ!? 気にしますよ! 意外と元気みたいで安心しましたけど」


「……ありがとう」


「……え?」


「帰ってきてくれてありがとう、イソネ」


「ティターニアさん……はい、しぶとく帰ってきました!」



「ふふっ、なあ、もっとよく顔を見せてくれないか?」

「え? 顔ですか? はい、これで見えます?」


「暗くて見えないな、もっと近づいてくれ」

「ええ……これ以上近づいたら……」


「構わない……ん……」


 どちらともなく唇を重ね合わせる。


「イソネ、このキスは、私が幸せになるためのおまじないだ」

「だったらもう1回しときましょうか。もっと幸せになってもらいたいですからね」

「…………意外と欲張りなんだな、お前は」


 再び重ねた唇は、先ほどより少しだけ甘く、時間も長めだったような気がしないでもない。



「……さあ、帰ろうかイソネ」

「はい、ティターニアさん」


(飛翔!)


 背中からコウモリのような翼が生えて、空へと飛びあがる。


「……なんかどんどん人外化がすすんでいるな、イソネ?」

「……まあ、今更ですよ?」

「ふふっ、そうだったな」



 森の中では気付かなかったけれど、今夜はきれいな満月だったんだな。


 優しい月明かりに照らされた真夜中のフライト。


 二人にとって大切な仲間たちが待つ集落を目指して、イソネは飛び続けるのであった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i566029
(作/秋の桜子さま)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ