最強の刺客ミッテ
「……イソネ来たよ。もうすぐ」
クルミが匂い察知でミッテの接近を教えてくれる。
「ありがとうクルミ。よしみんな配置について!」
ミッテがやってくるのは、大森林側の出入り口。こんな時間にやってくる人なんて基本的にいないから、間違える心配もないだろう。
そして日が落ちて暗くなり始めた森の方から、人影が町のほうへ接近してくる。
「イソネ、間違いないよ。あれがミッテだ」
リズが念の為鑑定で最終確認してくれる。
だけど、まだだ。もう少し……あと少し……今だ!!
『ファイヤーボール!!』
昨日からミザリーさんに特訓してもらった初級火魔法をミッテに向けて発射する。
俺のファイヤーボールが合図となり、仲間が一斉にミッテに攻撃を仕掛ける。
『ウォーターバレット!』
『ウインドカッター!!』
リズとティターニアさんの魔法が同時にミッテを襲う。
さらにマイナさん、レオナさん、ベアトリスさんは弓矢を放ちミッテに反撃の隙を与えない。
「…………やったか?」
誰だよフラグ立ててんのは? ごめんなさい。俺です。
「ぐおおおおおおお!?」
さすがは戦闘集団のリーダー。無傷とはいかなかったようだけど、攻撃のほとんどを躱してしまう。まったく不意打ちしたのにどんだけ強いんだろうね。この人。
でも、想定通りなんだよね。
一斉攻撃の瞬間、安全地帯は一か所しかなかった。だからミッテはそこへ飛ぶ。
―――― ずぼっ!!
「くそっ!? 落とし穴だと!? ぐはぁあああ!?」
先日まんまと引っかかった落とし穴リターンズ。落ちた穴にはミスリル製の剣や槍がびっしり。ごめんね。一斉攻撃は囮で、落とし穴が本命だったんだよ。
まあミッテもまさか町の入り口に落とし穴があるなんて想定できるはずもないしね。お前は強かった。けど相手が悪かったね。ご愁傷さま。
***
「イソネ、リズ、クルミ、そして路傍の花の諸君。ありがとう。これで今回の件は、一件落着だな」
ティターニアさんの笑顔がまぶしい。そりゃそうだ。殺し屋に命を狙われるなんて想像しただけで恐ろしい。夜も怖くて寝られなくなりそうだよ。
当然5人の冒険者カードは取消され、彼らがギルドに預けていた資産の半分はギルドの収入となり、半分は俺たちの報酬となった。特にミッテの資産は日本円で10億を超えており、半分でも5億。いやあ悪いことすると儲かるんですね。リズもご機嫌だし、良かった良かった。
その夜は、俺たちがネストに滞在する最後の夜だ。ギルド主催で盛大にバーベキューパーティーを開催した。少しでもネストの町に活気が出るように俺たちも資金提供したよ。お金は使ってこそだしね。
***
そして翌日俺たちは、いよいよ次の街ポルトハーフェンを目指して出発する。
「イソネさんたちもマイナたちも元気でね。絶対またネストへ戻ってきて。約束よ」
涙ながらに別れを告げるシャロさん。大丈夫、絶対戻ってきますとも。
短い期間ではあったけど、本当にいろいろな事件があった。俺なんて身体変わりまくったしね!? この町が好きだし、この町の人々が大好きだ。先のことなんかわからないけど、なんとなくまた戻ってくるような気がしてならないんだ。
「……ところで、ティターニアさん? なぜ貴女が馬車に乗っているんでしょうか?」
いつの間にか、ちゃっかり馬車に座って談笑しているギルドマスター。
「ん? 聞いてないのか? ちょうど私もギルドマスター総会が王都で行われるから、一緒に行こうと思ってな。イソネたちと一緒なら安心快適間違いなしだ。旅の間よろしく頼む」
ええ……マジですか!? っていうか俺以外全員知ってたな? 誰も驚いていないし。でもまあ、凄腕のティターニアさんがいれば旅もより安全になるし、なにより楽しくなりそうだ。
「ふふふ、安心しろイソネ。私は一緒の部屋で構わないからな。何が起きてもウエルカムだ」
いやそれは嬉しいんですけど……って痛い痛い、ってなんでティターニアさんがつねってるんですか!? え? 楽しそうだからやってみたかった? まったく……思ってないですよ? 美女につねられるのが気持ちいいなんて思ってないですから!!
新しい仲間といえば、俺たちの馬竜も数が増えて4頭になった。
拠点を潰した時に見つけたんだけど、リザとザードと名付けた。なんかそのまんまでごめんね。
馬車も俺たちが乗る用の客車と、戦利品やその他の荷物が積んである荷馬車の2台になった。客車の方をトーカとカゲが、荷馬車をリザとザードが担当する。
港街ポルトハーフェンまでは、馬車で2日ほどの距離だ。予定では、途中で野宿することになる。
「よし、みんな恒例の買い物タイムだ」
屋台で買えるだけ食べ物を買ってゆくのだ。娯楽の少ないこの世界で、食べることは最高の娯楽だからね。マイナさんたちも慣れたもので、各自思い思いに屋台で買い物している。
「ティターニアさんも好きなもの買ってくださいね。せっかくの旅ですから楽しみましょう」
「ふふっ、私はイソネさえ一緒であれば楽しい旅になる。それでは足りないか?」
ティターニアさんの真っ直ぐで熱のこもった視線に思わずドキッとしてしまう。
「……とはいえ、やはり私も買ってこようかな。ほら、イソネも一緒に行くぞ!」
次はいったいどんな街なんだろうって言いたいけど、すでに記憶で知ってるんだよな……でも、知ってるのと実際に行くのではまた違うはず。
ポルトハーフェンは、これまでで一番大きな街だ。どうか何事もなく楽しい旅が続けられますように。
俺は女神さまにそう祈らずにはいられなかった。




