C級襲撃者 斥候のフォルン
「それで、その襲撃者たちは強いのか? 私もこう見えて元B級冒険者だったからな。腕には多少自信がある」
そう、ティターニアさんは、美人で強いのだ。
魔力に優れ魔法に長じているエルフの中でも高い才能を持つ彼女は、風と水の属性魔法とレイピアの組み合わせて戦ういわゆる魔法剣士だ。
俺の住んでいた山奥には、エルフはもちろん魔法剣士なんていなかったから、おとぎ話の中の英雄みたいで憧れてしまうよ。
「……なんだ? そんなに瞳をキラキラさせて。分かったぞ、今度こそ私に惚れたな? ふふふ、隠す必要などないぞ。ほら早く認めるんだ。認めれば楽になるぞ?」
「だから違いますって。はっきり言って奴ら、かなり強いです。人数はおそらく5人。一番弱いメンバーでもC級なみの力がありますし、特にリーダーのミッテは、A級に近い力があります」
「……そうか……違うのか。もう私は疲れた。なにもかもどうでもよくなった……」
がっくし項垂れると椅子に腰かけ不貞腐れるギルドマスター。
「ちょ、ちょっとギルドマスター!? しっかりしてください。もう……わかりましたよ。惚れてます。好きです、めっちゃタイプです。一緒の空間にいるだけでドキドキします。あまりにもまぶしくて直視できません」
「ふえっ!? そ、そそそうか? こ、困ったな……そんなに想われていたなんて。ふふふ」
駄目だ……こんどはふにゃふにゃになって使い物にならなくなってる!? って痛い痛い!? つねらないでリズ!? 路傍の花の皆さんもジト目止めてくれませんか!? 俺の味方はクルミだけ……って噛まないでクルミ!? えっ? 俺が悪い? そうですか……ごめんなさい。
「なるほど、それほどの強者が5人か……正面切って戦うならともかく、どうせ搦め手てくるのだろうからな……」
「元々、正面切って攻撃してくる連中じゃないですから。でも、来ると分かっていれば十分迎え撃てますよ」
そう。俺たちが襲撃を知っていることを向こうは知らない。これは圧倒的なアドバンテージだ。まさか自分たちの力量と戦闘スタイル、行動パターンまで把握されているとは夢にも思わないだろうね。
俺たちは、さっそく襲撃者たちを迎え撃つ準備を始めるのだった。
***
「見えてきたな。あれがネストか」
襲撃者たちは、いつもの黒づくめではなく、普通の冒険者の格好をしている。もちろんターゲットのギルドマスターに近づくために都合が良いからだが。
「なんだ、お前はネストは初めてだったのか? リンクス」
チームの斥候役のフォルンがあまり興味なさそうに尋ねる。
「ああ、でもなんだかしょぼい町だなおい?」
「そういえば、ターゲットのギルドマスターってすげえ美人のエルフなんだろ? 殺すの勿体なくね?」
「ククク、お前はエルフが大好物だもんなヒンテン」
「そういうお前だって気の強い女をいたぶるのが趣味だろうが」
エルフ大好物のヒンテンが、レヒツをにらみ返す。
「お前たち……そこまでにしておけ。ターゲットのティターニアは、元B級冒険者の凄腕だ。しかも剣技だけでなく、複数の魔法も使いこなす魔法剣士ときている。油断だけはするなよ? まあ、依頼者からは、死体を見せろとは言われていないから、余裕があれば好きにしろ」
「さすがはリーダー。話がわかるぜ」
ネストの町に入った男たちは、ひとまず宿を取り、宿の酒場で今後の行動の打ち合わせをする。
「フォルン、お前はいつも通り町で情報を集めてきてくれ。ヒンテン、レヒツ、リンクスは冒険者ギルドへ行って適当な依頼を受けつつターゲットとその周囲の状況を探るんだ」
「了解。それでリーダーはどうするんだ?」
「俺はこの近くにある拠点に行ってくる。一応挨拶しておかないとうるさいんだよ。それに有用な情報や新しい依頼があるかもしれないからな。夜には戻れると思うが、明日になるかもしれん。くれぐれも俺が戻るまで勝手な行動はするなよ?」
リーダーのミッテは、メンバーに念を押してから一旦町を離れていった。
斥候役のフォルンは、いつものように情報を集めるために町へ繰り出す。特に酒場は、アルコールで口が軽くなりやすいので、情報を集めるのにうってつけだ。表通りから少し外れた酒場を選んで入る。こういう雰囲気の店にはたいてい裏の人間が集まりやすい。
「おっ、この町じゃ珍しい同族じゃないか。同席いいかな?」
景気づけに酒を飲んでいたフォルンに声を掛けてきたのは、同じ豹獣人の美女。おそらくこの町の冒険者だろう。
(ククク、こいつはついてる。こんな田舎町じゃ期待してなかったんだがな)
「もちろんだ、この町は初めてでね。酒を奢るから色々聞かせてもらえると嬉しい。特に貴女のこととか」
「ふふっ、奢ってくれんなら何でも話してやるよ。でも……俺のことは……高くつくぜ?」
そういってウインクする美女にフォルンは笑みを深める。
(これはやれるな。適当に酔わせて薬でも盛ればいちころだ)
「マスター、スペシャルカクテル二つ持ってきて!」
美女がオーダーしたカクテルをイケメンマスターが運んでくる。
「ふふっ、ここのマスターイケメンだろ? マスター狙いの女が結構通ってくるんだぜ?」
(ちっ、少しエルフの血が入っているのか? イケメンは死ね。ついでにこいつも殺したほうが良さそうだな)
フォルンは、心の中で、マスターを殺害リストに加えながら一応情報収集も忘れない。
「なるほどね。そういえば、この町にエルフの美女がいるって聞いたんだが?」
「何だよ、あんたもギルマス狙ってんのか? 悪いこと言わないから止めとけって。俺で我慢しとけ」
豪快に笑いながらカクテルを旨そうにぐいっと飲む美女。
負けじとフォルンも一気にカクテルを飲み干す。
「へえ……いい飲みっぷりだね。俺はレオナ。この町で冒険者をやってるんだ。あんたは?」
「俺は……あれ? ……なんだか目の前が……まさか……薬……」
崩れ落ちるフォルン。
「上手くいきましたね、レオナさん」
「おお、イソネのマスターもなかなか格好よかったぞ」
「でも危なかったんですよ。高くつくぜってセリフとウインクで吹き出しそうになりましたから」
「なっ!? そりゃどういう意味だ? くっ、急に恥ずかしくなってきたぜ……」
盛大に真っ赤になるレオナさん。
「ほら照れてる場合じゃないですよ? 次はギルドへ行かないと」
「別に照れてる訳じゃねええ!?」
「そうですか? でも、演技とはいえレオナさんが他の男に口説かれているのはやっぱり面白くなかったです」
「へ? そそそ、そうか? へへへ、そうか面白くないか……フフフ」
レオナさんが嬉しそうに後ろから抱き着いてくる。えっ? おんぶですか? いやさすがに恥ずかしい……分かりましたよ、途中までですからね!?




