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村人だった俺が神スキル『チェンジ』に覚醒して世界を救う英雄に~命懸けで戦っていたら仲間には愛されるし婚約者は増えてゆくし、幸せすぎて困ります~  作者: ひだまりのねこ
第六章 王都への旅路 ~S級冒険者イソネ

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絶体絶命 暗黒竜


 マズい……下手をすると、一瞬で殺られる。


 いくらチェンジがあるとはいえ、意識を飛ばされたり、一撃で殺されたら意味がない。


 そして……目の前の相手は、それを簡単に実行できるバケモノだ……。


 迷うな……俺が死んだらみんなはどうなる? 王都やトライデンはここから近い、今はみんなを守ることだけを考えるんだ。




――――チェンジ!!





 ……え? そ、そんな……チェンジが……効かない!?


 そんな馬鹿な、有り得ないよ、だって邪神にだって通用したんだよ? なんでっ!? ヤバいヤバいヤバい……。



『……なんだ矮小な人間……いや吸血鬼か? 我の前に立ちふさがるか?』


 うわっ、喋った!! いや……頭の中に直接言葉が響いてくる。念話のようなものか?


 ……とにかく、話が通じるなら可能性はある。


 問答無用に攻撃するつもりなら、俺はとっくに殺されているはずなんだから。



「いや、俺はイソネ、戦う意思はありません。珍しい暗黒竜さまがいらっしゃったんで、ご挨拶をしておいたほうが良いかな~なんて?」


『……ほう? 挨拶とは殊勝なり。我はクロドラ。イソネと言ったか? 気に入った。ちょっと付き合え』


 うわあ……まさかの名前持ちとは……激しくヤバい。え……何? もしかして喰われちゃうなんてことはないよね?



「あ、あの……どちらへ?」 


『ん? 飲み食いに決まっているだろう? 近くに街はあるか?』


 たしか近くに宿場町があったはず。王都やトライデンに連れて行くわけにはいかないからね。


「ああ……飲み食いでしたか。いや、街はありますけど、クロドラさまが街へ行ったら大混乱になると思いますよ……?」


 怖い……めっちゃ怖いけど言わなければ。街が大混乱になって飲み食い出来なくなったら、俺が喰われそうだし。


『フハハッ、何を言うかと思えば。安心せよ、我は古代種の暗黒竜。人型になることなど造作もないわ』






『フハハッ、美味いっ!! 中々美味いぞっ!! おい店主、もっと酒を持ってこい、樽ごとな!! フハハハハハッ!!』


 すっかりご機嫌な様子で酒と料理に舌鼓を打つクロドラさま。


 その艶やかな漆黒の黒髪と地獄の炎のような魅惑的な瞳の美女。その姿を見て、この方が暗黒竜だと思う人はいないだろうね……。店主はデレッデレだし、店内のお客さんも男女問わず目が釘付けになっている。


「あの……クロドラさまはお金をお持ちで?」


 次々と運ばれてくる料理の山に少しだけ心配になってくる。竜がお金を持っているイメージもないし、食べ終わったら街を焼き払えば良いとか言われても困る。


『お金? なんだそれは? 美味いのか?』


 クッ、鉄板のボケか……。これはワザとなのか素で言っているのか判断できない。だが、確認することなど出来るはずもない。


「大丈夫ですよ、ここは俺がごちそうしますから、好きなだけ食べてください」


『悪いなイソネ、お小遣いが残り少ないので助かる』


 ……お小遣い……だと!? 竜の世界も世知辛いのか? っていうか、やっぱりワザとだった……。


 

 その後もクロドラさまは食べ続け、飲み続ける。最初の店の在庫が尽きると、また別の店に行ってはしごする。参ったな……お金はともかく、早く王都へ行かないといけないんだけど。

 

「あの……クロドラさま? 俺、そろそろ……」


『ア゛ア゛!? なんだって?』


「……なんでもありません」



 結局、朝方まで付き合わされてしまった……。まあ、美女と一晩お付き合い――――飲み食いしただけだけど――――できたと考えれば安い――――いや……全然安くない件。



『フハハハハハッ、久し振りに外食も悪くないな。イソネ、また付き合ってくれ!!』


 そういう意味の付き合ってくれじゃなければ、喜んでOKするところなんだけどね。


 あれ……結局、クロドラさまは何をしに来たんだ? まさか奢ってくれる人を探していたわけじゃないだろうし。


「クロドラさまは、何か用事でもあったのですか?」


『ん? ああ、主を迎えに王都コルドヴァへ向かっていたのだ』



 ……ちょっと待て、主って何? それに目的地が同じなら、最初から王都へ行けば良かったよ……。



「そ、そうですか、クロドラさまも王都へ向かっていたのですね」


『ほう……イソネ、お前も王都へ向かっていたのか? よし、奢ってもらった礼に、我の背に乗せてやろう』


 マジですか!? 暗黒竜の背に乗った人間なんて、きっと俺が初めてかも?


『どうした? 安心しろ、我はいつも主たちを乗せているから慣れておるわ』


 ……初めてじゃありませんでした。


 だが待ってほしい、今なら美女の背中に抱き着いてもOKということ。いざ搭乗開始!!


「お邪魔しまーす!!」



 むふふ、このゴツゴツした肌触り、全然柔らかくない背中……変身するの早いよ!?


『しっかり掴まっていろよ? なあに王都までなら一瞬だ』


 巨大な翼を広げ天空へと飛び立つ暗黒竜の姿に、宿場町は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。


 だが、そんなことに構っている余裕は俺には無い。


 振り落とされないように掴まっているので精一杯。


 雲の上まで上昇したところで、ようやく呼吸ができるようになる。



「く、クロドラさま、もう少しゆっくりでお願いします」


『フハハッ、だらしのない奴め。この程度、主なら鼻歌交じりで女といちゃついているぞ?』


 嘘だろ……いや、もちろんその主もだけど、女の方もおかしいだろ?



「……あの、つかぬことを伺いますが、もしかしてクロドラさまって、カケルくんを知ってます?」


『知っているも何も、我が敬愛する主そのひとである。何だ、お前は主の知り合いだったのか?』



 なるほどね……道理で。そう言えば召喚獣にはチェンジは効かないって言ってたっけ。その時点で気付くべきだったよ。


 でも、待てよ。なんでカケルくんが王都にいるんだ?


「でもカケルくん、何で王都にいるんですか?」


『我も詳しくは知らんが、なんでも縁談だとか言っていたな。さすがは我が主、世界征服も近い!!』


 

 え? まさか……マイナさんたちが王宮に呼ばれたのって……? 


「クロドラさま、なるべく急いでくれませんか?」


 そんなはずないとは思いたいけど、嫌な予感が拭えない。


『……まったく、ゆっくりにしろと言ったり、急げと言ったり注文の多い奴だな……掴まっていろ』


 

 放たれた黒い弾丸のように、音速をはるかに超えたスピードで飛翔するクロドラであった。


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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