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村人だった俺が神スキル『チェンジ』に覚醒して世界を救う英雄に~命懸けで戦っていたら仲間には愛されるし婚約者は増えてゆくし、幸せすぎて困ります~  作者: ひだまりのねこ
第六章 王都への旅路 ~S級冒険者イソネ

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大丈夫、これは感謝のしるしなのです。


 トラキア王国の別邸は、スタック王国の別邸とご近所さんだ。立地的にはほとんど隣同士と言っても差し支えないが、数百メートルは離れているので、距離感で言えば隣町な感じらしい。



「友好の証と言えば聞こえはいいのですが、実際に戦争でも始まろうものなら、真っ先に矛先が向かうわけで、いわば人質といっても過言ではありません」


 ウルナさんが言う通り、ある意味命懸けの仕事なのだと思う。それだけに普段の行いや交流が大事になってくる訳で、平和の使徒としての役割は計り知れないほど大きいはずだ。


 特にトラキア王国のように、はるか遠方にある国であればなおさらそうだろう。ここに赴任している人物のイメージが、そのまま国民の、ひいては国家へのイメージと直結するのだから。



「トラキア王国の代表はどんな方なんですか?」


「……悪い人間ではないです」


 ん? どうしたんだろう。なんだか歯切れが悪い。まあ、ウルナさんが悪い人間じゃないと言うなら大丈夫だろう。


 ちなみにトラキア王国の別邸には、俺、クルミ、ウルナさんの三人だけで向かっている。ロザリーさんたちも行きたがったのだけれど、ウルナさんにやんわりと断られてしまったからだ。



「着きましたよ。ここがトラキア王国の別邸ですね」


 深紅に銀狼と黒狼が描かれたトラキア王国の国旗がたなびく重厚な造りの建物が眼前にそびえ立つ。スタック王国以上に、要塞感が強い印象だけど、騎士たちが巡回しているということもなく、門番があくびをしているぐらい平和的に見える。


「トラキアの建国神話には、銀と黒の狼が登場するのです。そのため、トラキアでは、狼が神聖視されているのですよ」


 なるほどね……あれ? ということは、クルミとウルナさんの組み合わせは、まさに神話のまんまってことだよね? もしかして、クルミのお母さんが嫁いできたのは、そういう背景があったのかな……?



「お久しぶりねモンバン、お勤めご苦労様です。全権大使に会いたいのだけれど?」


「ふわっ!? あ、あああ……う、ウルナさんっ!? お、お久しぶりですっ!! は、はい、すぐに取り次ぎますんで、お待ちくださーい!!」


 どうやらウルナさんの知り合いだったらしく、すぐに取り次いでくると中へ消えてしまった。どうでもいいけど、門番としてこれ以上ないほど最適な人選だと変なところで感心してしまう。




「うおおおおおん、ウルナあああああああ!!」


 雷でも落ちたかと思うような遠吠えが聞こえて、真っ黒の塊が二つ空から落ちてきた。



「ああああ、良かった、ウルナちゃん……」

「あああっ!? ずるいぞウルフェ、私にもウルナ成分を……」


 真っ黒なふさふさの尻尾をちぎれんばかりに振りながら、ウルナさんを抱きしめる男女の黒狼獣人。

 

 俺もクルミも訳が分からず呆然と眺めていることしか出来ない。


「ち、ちょっと、父上、母上、クルミさまの前ですよ?」


 やっとのことで声を出すウルナさん。彼女も感極まっていたようで、言葉が途切れ途切れになっている。目も真っ赤だ。っていうか……えっ? ウルナさんのご両親なの?



「む? おおおっ!? これは、大変申し訳ございませんでしたあああ、クルミ殿下」


 すごい勢いで土下座を決める黒狼獣人の男女。


「あ、はい、こんにちは……?」


 動揺しながらもぺこりと頭を下げるクルミ。うん、礼儀正しい挨拶は大事だよね。


「お初にお目にかかります。私は、ウルナの父にして、この別邸の館主を務めております、ファング・クロゲと申します。以後、お見知りおきを」


「あ、はい、よろしくお願いします」


「そしてこちらは妻のウルフェです」


「よろしく、ウルフェ」


 歓喜に震えているウルフェさんの気持ちが伝わってくるよ。わかります、クルミを抱きしめたいんでしょう?



「それで……クルミさま、ウルナ、こちらの方は?」


 ようやく俺の存在に気付いたのか、困惑した様子のご両親。



「父上、母上、こちらの方が、クルミさまと、私の命の恩人で、S級冒険者のイソネさまです」


「え、S級冒険者っ!? こんなに若いのに? まだ成人したばかりに見えるが……?」


 そうだよね……見た目だけなら、日本で言うならまだ高校生になったばかりぐらいだからね。普通なら、冒険者引退まで頑張って、C級まで昇級すれば御の字なんだから。常識的にはまずありえない話。


「あなたっ!! そうじゃないでしょう? 命の恩人ってどういうことなのウルナ?」


「母上、実は――――」



 簡単にこれまでの話を伝えるウルナさん。


 びっくりするぐらい話し上手で、ご両親は怒りで赤くなったり、恐怖で青くなったり忙しい。俺たちも自分たちのことなのに、ハラハラドキドキ、聞き入ってしまった。本当に多才な人だよね、ウルナさん。

 

 

「――――というわけです」



「うおおおおおん!! イソネどのおおおお!!」

「うわああああん!! イソネさまああああ!!」


 話が終わるや否や、抱き着いてくるご両親。


 え……ち、ちょっと落ち着いて……!?



「ありがとうございます~ペロペロ」

「ありがとうございます~ペロペロ」


 俺の顔面をべろんべろん舐めてくるお二人。


 ま、まあお母さまは構わないというか、むしろご褒美だ。しかし、お父さまのはかなり厳しい。

 

 感謝の気持ちがダイレクトに伝わってくるので、嬉しいのだけれど、オジサマにべろべろされるのは、俺の耐性が試される展開だと言える。



「イソネさま、狼獣人の最大限の感謝のしるしです」


 ウルナさんが少しだけ申し訳なさそうに教えてくれる。


 うん……知ってる。クルミとかウルナさんにしてもらったことあるからね。あれは良いモノだったね……。



 現実逃避することで、耐え凌ぐイソネであった。   

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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