予期せぬ再会
「ねえアズライト、いきなり訪ねて行って大丈夫なのかな?」
アズライトもヴィオラも、コルキスタの別邸には一度も来たことが無いらしいし。王族だと言っても信じてもらえないんじゃないかな?
「……言われてみればそうですね。ヴィオラ、私、心配になってきました!!」
「大丈夫ですよ、基本的にコルキスタの別邸には、必ず王族を知る人物が配置されておりますし、玉璽もありますゆえ。まあ、いざとなれば力づくで……」
……最後のは聞かなかったことにしよう。
どちらにしても行かないという選択肢は無いのだし、今更考えても仕方ないことだけど。
「その点、トラキアの別邸の方は、ウルナさんが滞在していたから安心だね!」
実際に彼女が滞在していたのは、かなり前だけど、別邸の人員は、よほどのことがないと交代しないらしいから、知り合いが誰もいないということはないだろう。
ましてや、トラキアは、カケルくんが開放するまで、グリモワール帝国に実質支配されていたらしいし……。人員交代どころではなかったはずだ。
「そうですね、皆元気でいてくれれば良いのですが……」
懐かしそうに目を細めるウルナさん。
「ねえウルナ、本当に私も行っても大丈夫なの?」
一方のクルミは不安そう。そりゃあそうだよね……親の顔も覚えていない状態で、いきなり王女とか言われても困惑しかないよ。
「もちろんですよ。きっと皆大喜びしてくれるはずです。だって、貴女はクルアさまにそっくりなのですから」
「……そっか、お母さんに早く会いたいな」
「そうですね、きっとクルアさまもクルミが帰ってくるのをとても楽しみにしていらっしゃると思いますよ」
そうだよな……クルアさまにとっては、まだ幼かったクルミと生き別れになったままなんだよな……母親の記憶がほとんどないクルミと違って、どれほど心配して、どれほど会いたいと思っているのか、俺には想像もつかないよ。
早く会わせてあげたいけど、こればっかりは、カケルくん次第なんだよね……。
近いうちに迎えに来るとは言っていたけど、その近いうちが、いつなのかはわからない。明日なのか、来月なのか、さすがに来年ということはないと思いたいけど……。
「……ところで、なんで私まで付いてこなきゃならないの……?」
ずっと無言で歩いていたミザリーさんが不満そうに口を開く。
「あらあら、ミザリー、貴女だって、立派なトラキアの貴族の令嬢なのですから、クルミさまのお供をするのは当然ですよ」
ロザリーさんが、クルミの頭を撫でながら微笑む。うーん、二人とも見た目がロリだから、女の子同士がじゃれ合っているようにしか見えない……。
「うーん……そんなこと言われても、実感が無いんだけど……ねえ、クルミ?」
「ううん、クルミはロザリーとミザリーと一緒で嬉しいよ?」
「はうぅ……抱きしめても良い?」
ミザリーさん母娘に抱きしめられてぬいぐるみ状態のクルミ。
そういえばロザリーさんの夫で、ミザリーさんのお父さんは、トラキアの筆頭宮廷魔導士だったらしくて、その類まれな功績によって、伯爵にまで出世したんだって聞いた。
彼女たちが王都から追いやられた理由については、ロザリーさんが教えてくれたから、今はもうミザリーさんも父親を恨んではいないようだけど、だからといってそう簡単に割り切れるものでもないよね。
なんだかんだで、結構な大人数になってしまったけど、これはこれでなんだか遠足みたいで楽しい。
さてと、地図の通りならそろそろ見えてくるはずなんだけど……。
スタック王国の別邸は、中心街から少し離れたなだらかな丘陵地帯の一角にある。
普通のお屋敷をイメージしていたのだけれど、あれ……思ってたのと全然違うんですけど……?
とにかくデカイ。もはや宮殿と言ったほうがイメージは近い。
周囲は頑丈そうな高い塀に囲まれていて、正門だけでなく、周囲には常に騎士たちが巡回をしている。
「あの……何だか本格的なんですけど?」
もっと寂れて誰もいない、手入れが行き届いていない感じの屋敷を想像していたんだけど……?
お屋敷貰っちゃえみたいなノリだったけど、え……いやいや、これを貰うとか無理だから!!
バリッバリの現役じゃないですかっ!!
「それはそうでしょうな。この別邸は、万一の時には反攻拠点となるべく準備されたいわば王国最後の砦。最低限の戦力と政治機能を備えているのですよ。年単位で籠城戦も可能です」
ヴィオラさん……知ってたなら、早く言ってくださいね?
「……でも、そんなことよくコーナン王国が許可しましたね?」
自国内に他国の戦力が常駐しているのはどうなんだろうって思ってしまうけれど。
「ふふっ、イソネさま、トラキア王家の別邸も似たようなものですよ」
「えっ!? ウルナさん、マジですかっ!?」
ええ……なんだか大げさなことになりそうで嫌だなあ……。
「トラキア王国やスタック王国は、コーナン王国にとっては、重要な貿易国ですから特別ですよ。その代り、治安や海賊の対処など、防衛協力と引き換えですから、お互いにメリットがあるのですよ」
なるほどね、コルキスタは重要な緩衝地帯でもあったということか。防衛コストも抑えられ、その一方で税収は上がるわけだし、たしかにメリットの方が大きいのかもしれない。
「……ここから先は、スタック王国の別邸となります。何か御用でしょうか?」
若い騎士が小走りでこちらへやってきて用向きをたずねてくる。こんな大人数で押しかけたらそりゃあ警戒するよね。
「お勤めご苦労。私はスタック王国宮廷魔導士団所属のヴィオラだ。こちらにおわすは、アズライト王女殿下である、急ぎ責任者に伝えよ」
「あ、アズライト王女殿下っ!? こ、これは失礼いたしました、す、すぐにお通しいたしますので、し、しばしお待ちくださいっ!!」
すごい勢いで走り去る騎士。
「あ、ちょっと待て……まったく……殿下を待たせるとは良い度胸だな」
少しすると話が伝わったのか、にわかに騒がしくなる別邸内部。
そして――――騎士たちをかき分けて、走りこんでくる空色の髪のメイドさん……あの……そんなにスカートを捲り上げたら、見えちゃいますよ?
「アズライト~っ!!」
「うそっ……!? イスカ……お姉さま?」
どうやら知り合い……いや、もしかしてどう姉妹? 雰囲気もどことなく似ているし。
であれば、なんでメイドの格好しているのかとか、色々疑問は尽きないけど、泣きながら抱き合っている二人を見ていたら そんなことはどうでもよくなってきたよ。
良かったね、アズライト。




