俺には絶対に勝てないからね
黒の海竜七武幹であるワルドによれば、今回コルキスタに集まっている七武幹はワルドを含めて四人。
ということは、残りの幹部は三人だ。
『煉獄のカエン』『暴虐のゲドウ』『残虐のヒヤリ』
……『絶壁のワルド』以外は割と普通に海賊っぽいんだけど。奴が特殊だったのね。
『煉獄のカエン』は、名前の通り、炎系属性の魔法やスキルを得意とする特化型。海戦では厄介だとは思うけれど、属性の相性さえ気を付ければ何とかなりそうだ。
カエンには、水属性魔法が得意なリズとシアンさん、水属性の魔剣『水滴石穿』を持っているベアトリスさん、そして回復役にミラさん、時空魔法でヴィオラさんがサポート当たる。
ゲドウは、身体能力特化系、物理攻撃はほとんど効果が無いが動きは鈍い。こちらはスピードと遠距離魔法攻撃が得意なティターニアさん、ウルナさん、ライトニング、魔剣を持っているレオナさんとマイナさんが盾役。ミザリーさんは後方から魔法攻撃。
レムスさん、カスミ&ヴォルフのコンビ、イルマ、マリー、マゼンタさんには、その他の雑魚を任せる。調べた限り、幹部以外は大したことない。あくまで俺の仲間たちにとっては……だけど。
残りのヒヤリだけど、こいつは俺がやる。精神攻撃系、暗殺特化の能力は危険だ。俺なら精神系は効かないしね。
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(くそっ……一体どうなってやがる……?)
突然やってきたこの男……俺のスキル攻撃が効いていない……? そうか、何らかの耐性持ちか。
だが、残念だったな。俺の本当の恐ろしさは、暗殺術――――喰らえ『影縛り』
『チェンジ!!』
は……? な、なんで俺が動けなくなって……いや、違う? ち、ちょっと待て、なんで俺が俺に攻撃され――――ぎゃあああああっ!?
「ふう……お前が正真正銘のクズで助かったよ。心置きなくスキルを使えるからね。さて……次は暗黒皇子の手駒を潰すか……」
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「ギース殿、いよいよ今夜ですな。約束の方、しっかり頼みますぞ」
「ははは、ご安心くださいオンナズキー侯爵。綺麗どころはちゃんと山分けですからな」
「そうか!! 念を押すようだが、牛女はいらん。できるだけ幼ければなお良い」
「もちろん承知しておりますとも。ははは」
ふん……この変態ジジイが。どうせお前は今夜死ぬのだから関係ないがな。
「……閣下、曲者です」
「何? 数は?」
「ひとりです。正面から……来ます」
自殺志願者か? それとも……よほど腕に自信があるのか。まあ、来るとすればこのタイミングだとは思っていたが、何処の手の者だ……一番可能性が高いのは第二皇子派か……。
「お前がギースで間違いないか?」
まだ若干の幼さが残る青年……16、7、成人したばかり……だが、纏っている空気が普通ではない。ふん……私の名を名指しか。答える義理など無いわ!!
「……ダンテ、殺れるか?」
「……問題ありません。生かして捕らえますか?」
堕落のダンテ……ギリム殿下の十二魔将のひとり。念のため付けてもらっていて良かったな。
「ああ、出来れば情報が欲しいところだ。まああまり期待は出来そうにないが」
「どいて、邪魔しないなら多少加減してあげるよ」
「ククク……この私にそんな口を利ける者がいたとは……とんだ田舎者ですね。強いのはわかりますが、動きがまるで素人ですよ?」
ふふっ、ダンテの恐ろしさは、その能力の高さだけではない。相手の能力値を半減させる極悪なスキル。対象がひとりだけという制限はあるものの、一対一なら、無類の強さを誇るのだよ。運が悪かったな、小僧。
『ネガティブ・プリズン!!』
ダンテのスキルが発動したか……。
ああ、これで終わりだ。それにしても容赦が無いな。さすがは十二魔将、油断や驕りとは無縁――――
「グホァっ!?」
・・・・・・へ?
ダンテが殴り飛ばされて、壁に激突……した?
いかん……手足が変な方向に曲がっている。生きていたとしても、もう使い物にならんな。
「ひ、ひぃいぃ……」
腰を抜かしてガタガタ震えているオンナズキー侯爵。チッ、役立たずがっ!!
「……キサマ、名は?」
「……イソネだ。もう一度聞く、お前がギースで間違いないか?」
くっ……能力が半減した状態でダンテを瞬殺するとは……化物め。
「……ああ、そうだ。目的はなんだ? 私の暗殺か?」
「うーん、とりあえずは、コーナン王国へ手を出すなっていうことかな。あとは、帝国の暴走を阻止すること」
「……イソネと言ったな? キサマは帝国の刺客ではないのか?」
てっきり第二皇子派の手の者だと思っていたが……?
「ああ、俺はこの国のS級冒険者。お前たちの計画を阻止するように依頼を受けたのさ」
なっ!? S級……だと? 道理で化物じみた強さな訳だ。
「さあどうする? お前には選択肢をあげるよ。ここで死ぬか、リアン殿下に忠誠を誓って支えるか」
「り、リアン殿下っ!? なぜその名が……? まさか……キサマの依頼主は……?」
「ああ、ご明察。リアン殿下その人だよ。っていうか、あんたがスパイなことも、計画も全部殿下にバレているからね? あ、ちなみに海賊団は幹部含め先に潰したから、もう味方はいないよ」
な、なんだと……泳がせているつもりが、こちらが泳がされていたのか……。
「……リアン殿下を本気で帝位に就けるつもりなのか?」
雇われの冒険者にそこまでの義理も覚悟はないだろうが……。
「当然でしょ? ついでにスタック王国領も取り戻す。リアン殿下の望む帝国の姿は、俺にとっても必要な未来だから」
何のためらいもなく断言するか……。
「だが、ギリム殿下は強いぞ。私の知る限り世界一強い」
あのお方の真の恐ろしさは、単独でも小国を落とせるほどの圧倒的な戦闘力。
「問題ない。ギリム殿下がどれほど強くても、俺には絶対に勝てないからね」
この男……言いおるわ。だが、本気でそう思っているか。ククク……面白い。
私とて、他に生きる道がなかっただけのこと。道が出来たのならば、賭けてみるのも一興か。どうせここで散るはずだった命だしな。




