白衣のリッカ
「久し振り、ティターニア。あとレムス……貴方は初めまして」
執務室に座っていたのは……白衣の美女。ん? 白衣? この世界にそんなのあったっけ? それに……この人、俺が知っている人にそっくりなんだけど……。
白髪にライトブラウンの瞳。
最年少ヌーベル賞受賞者で世界的な研究者でありながら、その妖精のようなルックスで世界中にファンクラブが勝手に作られていたとかなんとか……。
っていうか、先日会ったばかりのあの人に本当によく似ている。
カケルくんの幼馴染で、婚約者の白崎刹那さんに……。彼女もまた、この世界にやってきた日本人の異世界人の一人だ。
「イソネ? どうした?」
挨拶もせずに固まっていた俺を不審に思って、ティターニアさんが肘を突いてくる。
「あ、す、すいません、初めまして、イソネと申します」
「イソネ……そうか、情報は色々集まっている。お前が噂の英雄……」
―――――ザシュッ!!
ほとんどノーモーションで投じられたナイフが、背後の扉に刺さり、腰を抜かした谷間お姉さんの別の谷間もバッチリ見えてしまった。
おおっ!? ラッキー!! ってそうじゃない。見切りで避けなければ、額にナイフが生えていたところでしたよ!?
「……なるほど、その反応、実力は確かなようね」
無表情で見つめてくるリッカさん。怖いよ。
「ふふふ、リッカよ、イソネの実力はそんなことでは測れないぞ。ちなみに、私とレムスが二人がかりでも軽くあしらわれるほどに強い」
ティターニアさんっ!? お願いだから煽らないでっ!?
「……ティターニア、私にはわかっているから。それに……イソネという名前、その強さ……貴方、転生者でしょ?」
マジかっ!? 初対面でいきなり当てられた……!?
「……リッカさんこそ、何者ですか? 白崎刹那さんにそっくりなんですけど?」
―――――ガシッ!!
ガッ!? ウソでしょ……!? 一歩も動けなかった? これは……転移?
「……今、何と言った? 答えろ……」
今までとは違う一段トーンが上がった様子で両肩を掴んで離さない。女性の細腕からは信じられないような万力のような力で、筋肉が、骨が悲鳴を上げている。
「ちょ、ちょっと、リッカさん、痛いですって、白崎刹那さんにそっくりだって言ったんですよっ!!」
「……マスターを知っているのだな?」
ようやく力を緩めてくれたリッカさん。ヤレヤレ、殺されるかと思ったよ……。
「はい、この間、会いましたし」
邪神のときに、挨拶しただけなんですけどね。
「あ、会っただとおおおオオオ!?」
「痛い痛い痛い痛い!!」
さっきの数倍の力で両肩を握りつぶすリッカさん。近い、近いけど美女を堪能する余裕ナッシングッ!?
「教えろっ!! 居場所を今すぐに!!」
額と額がくっ付いているけど、全然嬉しくないっ、むしろ怖いっ!? わ、わかりましたって!!
「まて、リッカ。教えてやっても良いが、条件がある」
「……聞こうかティターニア」
「イソネをS級冒険者に推薦してくれたら教えてやっても良いが?」
「承知した」
結論早っ!? えっ!? 目的達成?
「というわけだ、教えてやれイソネ」
……ありがとうございます。おかげで痛い思いをした甲斐がありました。
「居場所は、ここからは遠すぎてこちらから行くのは無理ですね。でも、近いうちにカケルくんが迎えに来るので、そのときに会えると思います――――」
「か、駆さまだとおおおおっ!?」
「痛い痛い痛い痛い!!」
今までのが遊びだったとでもいうような強烈な力で両肩を握りつぶしながら身体を揺さぶるリッカさん。し、死ぬ……な、なんなんですか……この人ッ!?
「……すまなかった、イソネ」
しばらくして、ようやく普段通りのクールなリッカさんに戻ったらしい。とはいえ、俺の知っているリッカさんは、今のところクールとは真逆な印象なのだけど……。
「いや、別に良いんですけどね。でもやっぱり何か関係があるんですか?」
白崎刹那さんにそっくりな容姿、どうやら駆くんを知っているらしい……駆さまとか言ってたからね……。
「……私は、マスター刹那によって生み出された。個体名『六花』。マスターが休眠に入っている間の情報収集と駆さまの捜索が最優先事項としてプログラムされているオートマタ、いわゆる人工生命体」
マジか……!? どうみても、普通の人間にしか見えないんだけどっ!? あ、そういえば、この世界だと、伝説の錬金術師として有名なんだっけ……。他人の知識だけど。
「ティターニアさんたちは知っていたんですか?」
「いや、知っているわけないだろう? まさかリッカが伝説の錬金術師によって生み出されたとは初耳だ」
そりゃあそうか。さすがのティターニアさんとレムスさんも呆然としている。多分、リッカさんがオートマタだったこと、それを生み出したのが伝説の錬金術師だという両方に衝撃を受けているのだろう。
「……とりあえず、イソネに同行していれば、駆さまに逢えるのだな? よし、ギルドマスターは今日で辞める」
「待て待て待て!! 今辞められたら困る。イソネをS級冒険者にするまでは辞めるな。せめて王都での総会までは続けてもらうぞ」
「……たしかに約束した。仕方がない、総会までは続けることを約束する」
現役のギルドマスター三人の推薦があれば、S級冒険者にはなれるのだけど、王都の本部で正式に受理されるまでは、現役であることが求められるらしい。
「……はい、これでイソネもS級冒険者」
リッカさんの推薦状によって、俺はとりあえずS級冒険者になった。
「ふふふ、これでコーナン王国に二人目の現役S級冒険者が誕生したわけだな」
「え……!? 国内にS級って二人しかいないのっ!?」
「……そのもう一人は、目の前にいるけどね……」
レムスさんの視線の先には、相変わらず無表情のリッカさんが立っている。
「ん? どうしたイソネ? 別に現役冒険者がギルドマスターをやってはいけない決まりはない」
ああ……なるほど、たしかにリッカさんならS級で間違いないですね……はい。




