三人目のギルドマスター
「でも、あのネイビス大臣がそんなことをするタイプには思えないのよね……」
宿に戻って、部屋で作戦会議の続きをしている俺たち。
ミラさんによれば、彼女が知っているネイビス大臣は実直な武人で、そういう姑息なことを裏でやるような人物ではないという。
「うえっ!? そ、そんな……は、破廉恥ですよっ!!」
なぜか赤い顔をして挙動不審なシアンさん。どうやら、ベッドに触れて、俺とミラさんのイチャイチャの記憶を読んでしまったらしい。あの……恥ずかしいんで、口に出さないでもらえますか?
「…………」
マゼンタさん!? 黙ってモジモジしてないで、話に参加してください。
「……まったく、これじゃあ使い物にならないわね。イソネさん、やるわよ」
へ? やるって……何をです?
「へ? い、いや、待って、心の準備がっ!?」
「ひぇっ!? わ、わわ私もですかっ!?」
ミラさんが有無を言わせずシアンさんとマゼンタさんの服をひん剥いている。あの……何をしてらっしゃるんでしょうか? とか言いつつしっかりガン見している自分が情けないんだけど仕方ないよね?
「さあ、イソネさん、この二人をさっさとモノにしてしまうわよ。イチャイチャ耐性を上げるの」
駄目だ……ミラさんの言っている意味がわからない。
「イソネさん、理解しようとしたら駄目!! 感じるのよ!!」
そうか……考えたら駄目なのか。ただシアンさんの絶壁とマゼンタさんのメロンをありのまま感じれば良いんだね。
なんだか目から鱗が落ちたような清々しい気分だよ。昔有名な登山家が言ってたっけ。なぜ山に登るのか? そこに山があるから……そういうことだよね。
よく見るんだイソネ、二人の期待するような潤んだ眼差しを。お前は英雄だろう? 期待に応えてみせろ!! いっけぇ~!!
「イソネ!! たっだいま~!!」
……みんなが帰ってきた。そうだよね、もうそんな時間だよね。
「…………イソネ? これは……一体?」
リズの感情の無い問いかけに心と身体が凍り付く。まともに目を合わせることが出来ないよ。
全裸の女性三人とベッドの上にいたら、それはねえ……。
「……えっと……作戦会議?」
みんなからのジト目が痛い。ウソではない、ウソではないんだっ!! ミラさんも何か言ってください~。
「へえ……よくわからないけど、面白そうな会議ね? 私たちも参加してもいいかしら?」
「もちろんよ、リズ。この娘たちにたっぷりと教育してあげないといけないから、手伝って欲しいわ」
その後、シアンさんとマゼンタさんにとって、試練の作戦会議が実行された。内容に関しては、俺の口からは何も言えない。言えることがない。
******
翌日、俺は、ティターニアさんとレムスさんと一緒にこの街の冒険者ギルドへ向かう。
他のみんなは、引き続きお買い物&温泉巡りに行く。あの……俺も温泉巡りしたいんですけど? 冒険者ギルドの用事が終わったら、行けるかな?
「ふふっ、安心しろイソネ。二人っきりで入れる貸し切り温泉を予約してある」
ティ、ティターニアさん……さすがですね。拝んでも良いですか?
「……ティターニア、一応私もいるんだから、そういうことは聞こえないようにやってくれ!!」
レムスさんがジト目でにらんでくる。なんかごめんなさい。
「まったく、一緒に入りたいならはっきり言えばいいのに……」
「えっ!? 良いのか? わ、私も一緒に……」
「……だが断る」
「…………」
可哀想なレムスさん。上げて落とされて静かになっちゃったよ。
「ところで、ここのギルドマスタ―は、一筋縄ではいかないと言ってましたけど、そんなに気難しい方なんですか?」
気になっていたことをたずねてみる。
「ん? ああ、そうだな……気難しいというより、融通が利かないといった方がいいな」
「イソネくんも会えばわかるさ。あの人間離れしたギルドマスターにね」
人間離れしている? なんか怖くなってきたんだけど……。
街の中心部にそびえ立つ冒険者ギルドの建物は、さすが世界有数のリゾート地だけあって、趣もずいぶんと異なっている。
受け付けはまるで高級ホテルのフロントのようだし、受付嬢のレベルもとびきり高い。
飲食が出来るスペースも、酒場というよりは、ラウンジのようなお洒落な造りになっていて、心なしか、冒険者たちも、衣服に気をつかっているような印象だ。
依頼人のほとんどが王侯貴族だということも影響しているのだろうね。
「ネスト冒険者ギルドマスタ―ティターニアだ。ギルドマスターのリッカに面会したい」
「これはティターニアさま、ご無沙汰しております。すぐにご案内出来るかと思いますので、少々お待ちください」
深々とお辞儀する受付嬢のお姉さん。このギルド、制服の切れ込みが大きいので、お辞儀するとバッチリ谷間が見えてしまう。誰が決めたのか知らないけれど、グッジョブ。
「……イソネ、そんなに見たければ、遠慮するな」
俺の顔を谷間に押し付けるティターニアさん。ち、ちょっと待って呼吸が……。甘い香りにクラクラしてしまうよ。
「イソネくん、ティターニア、目的を忘れないでくれよ? そういうのリッカが嫌いだって知っているだろう?」
やばっ!? もしかして、リッカさんって相当な堅物……いやまて、普通目の前でイチャイチャされたら誰だって怒るよね? 最近常識がおかしくなってきているから注意しないと。
「お待たせしました。お会いになるそうですので、ご案内させていただきます」
谷間お姉さんが再び深くお辞儀をしてくれる。これはあれだよね? ワザとだから見ても良いんだよね?
とまあ、冗談はともかく、出来ればリッカさんに推薦をもらって、首尾よくS級冒険者になってしまいたいところだけど……。
「ギルドマスター、お客様をお連れしました」
「……ご苦労さま。どうぞ入って」
執務室の中から無感情な返事が聞こえる。
中に入ると、そこは一面ガラス張りの明るくシンプルな空間。執務室だからもっと書類や資料が積み上げられているのかと思っていたけど、良い意味で驚かされた。
「相変わらずだな、リッカ」
「久し振り。ティターニア。あとレムス……貴方は初めまして」
執務室に座っていたのは……白衣の美女。ん? 白衣? この世界にそんなのあったっけ? それに……この人、俺が知っている人にそっくりなんだけど……。




