いざ尋常に勝負!!
「……え? イソネさんって女性だったのですか……?」
何やらロザリーさんが大いにショックを受けている。え? 何があったの?
ミザリーさんを見れば、赤い顔してそっぽを向かれるし、何が正解なんだ?
「イソネ、許可は取ってあるから、元の姿に戻っていいわよ」
有り難い。リズの言葉に頷いて元の姿に戻る。
「まあ、まあ、まあ……!! なんて素敵な……ミザリー!! でかしたわね!!」
瞳を少女のようにキラキラさせながら両手をぎゅっと組むロザリーさん。ハーフリングという半妖精亜人種族らしく、見た目はこう言ってはなんだが、中学生くらいにしか見えない……。これが合法ロリというやつなのか?
ロザリーさんの夫で、ミザリーさんの父親の性癖が気になるところではあるが、ミザリーさんが低身長で年下にしか見えないのもすんなり納得できたよ。
「ちょ、ちょっと待て、イソネ殿は……男だったのか!?」
今度はイルマさんが大いにショックを受けている。え? 何でそんなにショック受けているの?
「な、何ということだ、知らなかったとはいえ、肌に触れられ、隅々まで身体を知られてしまった……」
イルマさんっ!? ち、ちょっと誤解を招くような言い方っ!?
「ち、違うんです――――」
「あらあらまあまあ……イソネさん、修道騎士には、厳しい戒律があるのです。イルマはもう修道騎士を辞めなければなりませんね。うふふ……責任はちゃんと取ってあげてね?」
う……微笑んではいるけれど、圧がすごい。助けてリズ!!
「ご安心くださいロザリーさん。イソネは甲斐性のある男です。イルマさんの一人や二人、どんと来いですよ」
助かった…………のか?
「ええええ!! カッコイイ上にお金持ちだなんて、ますます良くやったわね、ミザリー?」
「…………も、もういい加減にしてっ!! は、恥ずかしいんだから……」
「……ふふふふ、私がお嫁さん……憧れのお嫁さん……ふふふふ」
照れまくるミザリーさんとなにやら妄想中のイルマさん。
「……何このカオスな空間?」
アスカさん……だよね、俺もそう思います。
******
結局、ロザリーさんとイルマさんは、俺たちに同行することになった。
そこで俺はアスカさんと相談して、修道院の皆さんを船に招いてお別れのパーティーをすることに。ロザリーさんたちにとって、俺たちに同行するということは、故郷を離れ、家族同然の仲間との別れを意味するのだからね。
「貴女方がミザリーのお仲間ね? 娘が本当にお世話になりました。私に出来ることがあれば一生かけてでも恩に報いましょう」
ロザリーさんは、路傍の花のメンバーに深々と頭を下げる。
そういえば、マイナさんたちは、ずっとロザリーさんの行方をミザリーさんと一緒に探し続けてきたんだよね。だから情報が集めやすい冒険者になったんだって聞いたことがある。
「いいえ、私たちこそ、ミザリーには常に助けられてきました。こうして笑っていられるのも、彼女の力があってこそ。どうか頭を上げてください」
ふふっ、マイナさんらしいな。
「う”う”う”っ……本当によがったなあ……ミザリーいい……」
「良かったな、ミザリー」
「本当に……良かったわね、ミザリー」
ボロ泣きしているレオナさんと、小柄なミザリーさんを持ち上げて両側から抱きしめるベアトリスさんとミラさん。
「ち、ちょっと、苦しいってば……」
位置的に、ベアトリスさんのたくましくもふくよかなモノと、ミラさんの豊満かつたわわなモノに挟まれて呼吸困難になっている彼女は少しだけ悔しそうだ。
大丈夫、俺はサイズにこだわるような器の小さい男ではない。むしろよくやったと褒めてあげたいくらいだから安心してほしい。とはいえ口に出すのは憚られるので、そっと念を送るだけに留めるけれども。
「……イソネ殿、いざ尋常に勝負!!」
終始なごやかなムードでお別れパーティーは続いていたけれど、終わりが迫ってきたころ、マリーさんが完全武装で勝負を挑んできた。え? 何事? 俺なんかしましたか?
「イソネ殿、もし私が勝ったら、私も一緒に連れて行って欲しい」
マリーさんの目は真剣そのものだ。断るのは失礼というもの。とはいえ、ワザと負けるなんてもっとできない。彼女だって、勝てないとわかっても、それでもなお勝負を挑んでいるのだから。
『……イソネ殿、ちょっと良いですか?』
イルマさんが小声で話しかけてくる。何だろう? 彼女はイルマさんの親友だったよね。
『おそらくですが、マリーは勝てないとわかっていながら勝負を挑んでいます』
『…………うん』
『私が騎士団を抜け、ここでマリーまでもが抜けてしまえば、大幅な戦力ダウンは避けられません。彼女は後進を育てる決意をしたのでしょう。ですが、イソネ殿への想いもまた本物。自ら退路を断ち切るために勝負という形を選んだのでしょう。本当に……不器用なんだマリーは……』
そうか……そういうことか。
それならば、やはり俺にできることは正々堂々全力でマリーさんの想いを受け止めることしかない。
「……わかりました。勝負しましょう。いつでも、どこからでもかかってきてください」
「……イソネ殿、私のわがままを聞き入れていただき感謝する。いざ……参るっ!!」
******
「……参った。私の負けだ。本当に……強いな……」
そう言って顔を上げたマリーさんの表情は明るく、迷いのない目をしている。すべてを出し切ったという思いがあるからだろう。
「……とても強かったですよ、マリーさん」
「ふふっ、止せ、まるで相手になっていなかった。正直、勝てないまでも、もう少し通用すると思ったのだがな……」
いいえ、強かったです。貴女の想いが乗った一挙手一投足が俺には眩しくて、このままずっと戦いが終わらなければ良いのにって本気で思ったんですよ。マリーさん。
「……せっかくのパーティーだったのにすまなかったな。では失礼する」
「……待ってください」
「な、なんだ? まだ私に何か……?」
「この町の防衛については、俺もセレブリッチ商会も全力で支援します。すぐには無理かもしれませんが、体制が整ってマリーさんが抜けても大丈夫な状態になったら……もし、そのときになっても貴女の気持ちが変わっていなければ……いつでも俺のところに来てください」
「し、しかし、私は勝負に負けたのだ……騎士が誓った約束をたがえるわけにはいかぬ」
やれやれ……絶対にそう言うと思いましたよ。
「マリーさん、勝負に勝ったのは俺です。勝った俺が望んでいるのですから……ね?」
「…………ならば仕方ないな。前向きに検討する」
くるりと踵を返すと足早に立ち去るマリーさん。
「これで……良かったかな?」
「はい……だって、マリーのやつ嬉しそうに泣いておりましたからね。私の目は誤魔化されません。ただ……」
「……ただ?」
「ただ、張り切り過ぎて、可哀想な後輩が過労死するのではと心配になったのですよ……ふふふ」
うわあ……それは駄目な奴。しっかりと念押ししておかないとね。




