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村人だった俺が神スキル『チェンジ』に覚醒して世界を救う英雄に~命懸けで戦っていたら仲間には愛されるし婚約者は増えてゆくし、幸せすぎて困ります~  作者: ひだまりのねこ
第五章 王都への旅路 ~リゾート都市コルキスタ

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出発の朝 メイドの秘かな楽しみ


 長い夜が明ける。朝日が部屋に差し込み始め、小鳥のさえずりが聞こえはじめる。


 今日はいよいよこのセバスを出航して次なる寄港地へと向かう予定なのだけれど。


 まだまだ起きる気にはならない。昨夜は色んな意味で疲れたからね。



 周りを見渡すと、静かに寝息を立てる婚約者たちの姿が目に入る。実際にはそんな微笑ましいものではなく、身動きが取れないほどの惨状なのだが。


(ジルが呼びに来るまで、もうひと眠りしようかな……)


 そう決めて目を閉じると、心地よい睡魔が襲ってきて、意識が曖昧になってゆく。



******



「ジル、朝食の時間もありますから、そろそろ皆さまを起こしてきなさい」

「はい、ウルナさん」


 着替えが終わると、メイド長兼侍女長のウルナさんに言われて、イソネさまの部屋へと向かう。


 もちろんこの宿泊施設には、セレブリッチ商会の優秀なメイドたちがいるのだけれど、最低限のことは自分たちがやりますと、ウルナさんが主張したため、こんなことになっている。


 本音を言えば、せっかくお客さま気分が味わえるのにもったいないと思わなくもないけれど、イソネさまのお世話がしたいと無理を言って付いてきたのは他でもないこの私だ。反論の余地などない。


 それに、考えてみれば、イソネさまの寝顔を独り占めできる役得ではないか。他のメイドにその役目を譲るなんて絶対に嫌。



「おはようございます!」


 部屋に入る際、一応あいさつはするが、返事は期待していない。みなさま大抵熟睡されていらっしゃるので、無反応はいつものことだ。


 大好きなイソネさまの匂いと、沢山の甘い香りが混ざり合う独特の空間。


 実際、イソネさまの寝ているベッドを見れば、寝顔を独り占め……なんていう甘い妄想は粉々に打ち砕かれるのよね。

 

 いやまあ、領主様のお屋敷にいた時からわかっていたし、だいぶ慣れては来たのだけれど、中々にすごい光景だとしか言えない。


 まずは、たくさんの婚約者の方々に押しつぶされそうになりながら眠るイソネさまを発掘しなければならない。  


 皆さまは、いつも大変お疲れのようで、多少動かしてもぴくりともしない。一体どんな夜を過ごしたのかと想像すると赤面してしまうので、努めて冷静に、無感情で作業に没頭するのだ。


 あ、居た……のだけれど、ちょっと待って、なんでアスカさまとアリアさまにサンドイッチされて寝てらっしゃるのでしょうか? ていうかいつの間に!?


 ああ、そう言えば、昨日一緒にお風呂に入るという話を聞いたような……。


 ふふふ、もう今更驚きませんが、ちょっと悔しいですね。私の方が先に出逢ったはずなのに。


 

 イソネさまの可愛い寝顔をしばしうっとりと眺めるのが秘かな私の楽しみ。


 ……今なら触っても大丈夫……よね?


 今朝は幸運なことに、ベッドの端の方にいらっしゃるので、簡単に手が届く。誘惑に勝てず、イソネさまの頬に触れてしまった。


 駄目……止まらない、触れるだけじゃ物足りない。


 そっと顔を近づける。今にも重なりそうな唇。緊張で手が震える。


 やっぱり駄目だわ……こんなのいけないこと。


「ふえっ!?」


 離そうとした手をぐいっと引っ張られて、ベッドに引きずり込まれてしまう。


 もしかしてバレていたの? ドキドキしながらイソネさまを見れば、相変わらず熟睡中。なんだ……寝ぼけているだけなのね。


 ほっと一安心、でもちょっぴりガッカリしている私。


「ふにゃああ!?」


 安心したのも束の間、今度はイソネさまに抱き枕のように抱きしめられてしまう。


 どうしよう、顔から火が出そうなほど恥ずかしいけれど、たまらなく嬉しくもある。


 立場上、求められれば拒めないし、拒む気などさらさらない。


 期待に胸が高鳴る。



「……ジル? 貴女は一体何をやっているのですか?」


 無情にも響くウルナさんの声。思わず我に返りましたが、抱きしめられているので仕方がないのですよ? 不可抗力なのです。

 

 ウルナさんは、呆れたように大きく息を吐くと、そんな私をあっさりと救出してくれましたよ。いや本当に無駄に有能ですよねこの方。ええ、余計なことしやがってなんて少しも思っていませんからね。



「みなさーん、朝食の準備が整っておりますよ~!!」


 眠そうに目をこするイソネさまがお可愛い。さきほどまでの温もりが忘れられない。


 近くても遠い、決して縮まらない距離。


 いつかは埋まる日がくるのでしょうか?


「……ジル? 感傷に浸るのも自由ですけれど、今は仕事に集中しなさい」


「はい、申し訳ございません」


 くっ、この人、絶対に心を読む力とか隠し持ってそうですよね?


 おまけに私より美人だし、スタイルも良いし、有能だし、強いし、気遣いも出来るし、こう見えてすごく優しいし……ってあれ? ウルナさんに勝てる要素無いんですけど……!?


「……ジル、若さだけは勝てないわよ?」


 そ、そうか! ふふふふ、若さがあったわね。その割には、ウルナさんも私と大して変わらない見た目だけれども、年齢は単なる数字というのを体現している人だけれども!!


 っていうか、いやあああああ!? やっぱり心を読まれているんじゃないですかあああ!!  



「……ウルナさん、ジルはさっきから何をしているんだろう?」

「ふふふ、きっと若さが溢れているのですよ、イソネさま。それではお着換えさせていただきますね」


 しまったあああああ!! イソネさまのお着換えウルナさんに持っていかれたあああああ!!



「……ジル、元気出す。モフモフして良いよ」


「クルミさまああああああ!!」


 泣きながら無心にクルミをモフる、ジルであった。

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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