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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第三部 守護する真星

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九十話 家宝の守護者

「――やれやれ、まさか早くも推理ショーを披露する事になるとはな」


 ひと仕事終えて、さりげなくカリンたちの元へと戻ってきた。

 推理ショーを披露するのは積年の夢だったが、罪状も分からない内から吊るし上げるのは心臓に悪い。危うくクレイジー探偵になるところだったので一安心だ。


「ほんっと無茶苦茶なんだから。結論ありきで強引にまとめてるじゃないの」


 当然の如く、カリンには裏事情を見抜かれていた。一連の流れを見ていたのだから当然と言えば当然だ。恐るべきはルカの即断即決である。


「俺とて綱渡りの推理ショーは避けたかったが、事が起きてしまったからには仕方あるまい。むしろ円満解決で終わらせた手腕を褒めるべきだろう」

「どこが円満解決よ……」


 溜息を吐くカリンの視線の先には、円満的暴力を受けた青スーツの男。

 治療の為なのか事情聴取の為なのか、重傷の被告人は警備員に担架で運ばれている。雰囲気からすると別室で治療しながら事情聴取をするのかも知れない。


「少なくとも誕生パーティーに水を差さずに済んだことは間違いない。ほら、主役の爺さんを見てみろ。ニッコニコのご満悦だぞ」


 爺さんにとっては面白い余興だったのだろう、遠目に見ても上機嫌である事が分かる。そして主役がご機嫌なので会場の空気も悪くない。

 理不尽な暴力を『詐欺犯への制裁』という名目にしたのは大正解だったのだ。


 素直になれない幼女が「う、う〜ん……」と反論の言葉を探すように唸っていると、そのパーティーの主役がこちらに悠然と歩いてきた。


「カッカッカッ。千道よ、大儀であったな」


 初対面時とは別人のように気さくな態度になっている爺さん。

 まるで自分の部下を労うかのような言い草だが、さりげなく面倒事を押しつけてしまったので文句など言えない。


「爺さんのお気に召したようで何よりだ。しかし、それにしても……爺さんは毎年そんな恰好をしてるのか?」


 それは遠目に見た時から気になっていた。

 思わず二度見してしまったほどの異質な恰好。周囲はスルーしているので爺さんの平常運転なのだろうが、初見の良識人には違和感が著しい恰好だった。


「うむ。真星家の正装は和服と決まっておる」


 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの態度。

 爺さんの息子夫婦もユキも洋装なのでツッコミ待ちとしか思えない発言だが、しかし俺が気にしているのは和洋の問題ではない。


「当然のような顔をして()()するんじゃない。しかも二本差しとは何事だ」


 そう、爺さんは腰に刀を差していた。生きる時代を間違えてしまったのか、現代のパーティーにまさかの武士スタイルである。


 近年では銃刀法が緩和されているので法律違反ではないが、人斬り爺さんが凶器を持ち歩いているのは驚異と言う他なかった。


「ふふん、案ずるな。厚顔な盗っ人に備えて二本とも研いであるわ」


 流石はクレイジー爺さんと言うべきか、恐ろしいほどに会話が成立していない。

 凶器を所持している事を咎めたのに、なぜか刀の切れ味を心配した事にされている有様だ。そんな事は誰も心配していない。


「それに盗っ人を生け捕りにすべく医者を待機させておる。万事に抜かりはない」


 更に見当違いの事を言い出した爺さん。

 怪盗を斬ってから治療する事が前提になっているという驚異の発想だ。


 これで抜かりはないと豪語するのは中々のものだが……しかし、その医者は先の暴力事件で役立っているので文句も言いにくかった。

 だがそれでも、言うべき事は言っておく。


「爺さんが人を斬りたくて仕方がないのは分かったが、ここは俺に任せて大人しくしているがいい。――ユキが心配するからな」

「っ、ぐぬぅぅ……」


 反射的に言い返そうとした爺さんだったが、ユキの名前を出した途端に言葉を飲み込んだ。実際にユキが不安そうな顔をしている事も大きいのだろう。


 俺としても爺さんの剣術の腕は認めているが、それとこれとは話が別だ。わざわざ爺さんが矢面に立つ必要性はないのだ。


「ちょっと、ユキのおじいちゃんを異常者みたいに言うのは止めなさいっ!」


 そこで口を挟んだのはカリン。

 反抗期真っ盛りなので反発する機会を見逃さないのは分かるが、俺に反論する事に拘りすぎて、カリンの方が酷い事を言っている気がしないでもなかった。

 きっとカリンも内心では爺さんのクレイジー性を認めているのだろう。


「うむうむ……儂を気遣ってくれるとは、相変わらず優しい子じゃのぉ」


 もちろん爺さんは暴言など気にしない。

 二人は面識があると聞いていたが、爺さんは孫の成長を喜ぶかのように相好を崩している。……カリンは孫指数が高いので老人受けが良いのだろう。


「ところで、そろそろ家宝を運び入れるんじゃないのか? 家宝のお披露目を中止するならそれに越した事はないが」


 爺さんがすっかり緊張感を失くしていたところで本題に戻った。

 問題が全て片付いたかのような雰囲気になっているが、まだ怪盗ロスター問題は何も解決していない。むしろこれからが本番だ。


「ふん、真星が盗っ人に恐れをなすものか。家宝の公開は予定通りに執り行うぞ」


 孫効果で厭戦的(えんせんてき)になってくれればと思ったが、やはり引く気はないようだ。

 ちなみに問題の家宝――金のうどんは、会場の中央でショーケースに入れて展示する予定と聞いている。予定通りという事なら間もなく運び入れられるはずだ。


「まったく、好戦的な爺さんだな……。たしか家宝の周りに警備員を二人立たせる予定だったか? どの警備員に守らせるつもりなんだ?」


 家宝の警備体制は厳しいとは言えない。家宝の周囲をロープで区切るわけでもなく、ショーケースの傍らに警備員を立たせるだけとの事だ。

 

 腕利きの警備員に守らせるにしても不用心な話だが、人斬り爺さんとしては怪盗を誘き寄せて斬りたい気持ちが強いのだろうと思う。


「家宝の守りは、あそこの二人じゃ。儂ほどではないが筋はいいぞ」


 隙あらば自分を上げてしまう爺さんが指し示す先には、二人の警備員が居た。

 他人に厳しそうな爺さんが褒めるだけあって、警備員たちの立ち居振る舞いは中々のものだ。爺さんと同じく帯刀しているので同門の剣士なのかも知れない。……だが、俺は爺さんの言葉に耳を疑っていた。


「いや、待て待て。あの角張った顔の男、()()()()()()()()()()()()()()?」


 家宝を守るはずの警備員。

 その一人に、確かな悪意が見えていた。


 この会場には悪意を持った人間が多いので珍しい存在とは言えないが、それが家宝を守る警備員となれば話は変わってくる。

 まさかと思って確認してみたら悪い意味で大当たりだったという形だ。


「なにを戯けた事を抜かすか。あやつが盗っ人に与するわけがなかろう」


 鼻で笑って否定する爺さん。

 なんでもあの男は親の代から真星家に仕えているらしく、爺さんが剣術の同門として稽古をつけているほどの間柄らしい。

 信頼の置ける者だからこそ家宝の守護を任せているという事なのだろう。


「だが、あの男に二心があるのは間違いない。なぜあんな男に警備員をやらせているのか不思議だったくらいだ」


 ルカが成敗した男の悪意は強かったが、あの警備員の悪意も相当なものだ。

 悪意の第二候補として揺さぶりをかける予定だったほどなので、そんな男が護衛候補となれば、あの男と怪盗ロスターとの関係性を疑わざるを得ない。


「貴様に何がわか――」

「――そうは言っても、にわかには信じられまい。ここは俺に任せておけ」


 爺さんが怒りの言葉を発する前に畳み掛ける。

 自分が信頼する者を貶められて腹を立てるのは当然だが、爺さんと口論したところで不毛なだけだ。ここは実際に本性を暴いてみせるべきだろう。


「爺さんはここで待っててくれ。――ルカ、カリンたちを頼んだぞ」

「んぐっ!」


 ソーセージをもぐもぐしているルカに一声掛けると、そこはかとなく不安を覚える返事が返ってきた。これまでの話を聞き流していたようだが、それはそれで構わない。ルカが真面目に話を聞いていたら被害者が増えていた可能性もあるのだ。


「待てっ、あやつに危害を加えるつもりか!」

「ふふ、そう心配するな。俺は爺さんと違って暴力を好まない。ちょっとあの男と話してくるだけの事だ」


 自分を基準に考えているのか発想が物騒でいけない。すぐに暴力と結び付けてしまうとは嘆かわしい限りである。

 爺さんのお手本になるように、俺のスマートな手法を見せてやるとしよう。


あと二話で第三部は終了となります。

明日も夜に投稿予定。

次回、九一話〔スマートな解決策〕

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