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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第二部 躍動する海龍

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六九話 成長していた野生児

 地方の小さな寒村。公共交通機関は一日に数本のバスのみという辺鄙(へんぴ)な場所。

 龍の里に比べればマシであっても世間からは隔絶している寒村――この田舎の村こそが、探し求めていた天針家の本拠地だった。


 死鷹は車でホテルを訪れていたので、その車に同乗しての本拠地入りだ。

 ちなみにラスは都心で留守番している。暗殺者一族の村ともなれば電柱から見守るだけでも危険かも知れないので仕方ない。


「ここが天針家の本拠地か……想像していたよりも普通の村だな」

「はい、普通の村です。天針家は村のまとめ役という立場ですが、天針の本業を知らない者も数多く居住していますから」


 この死鷹の返答が意味するところは明白だ。

 これは言外に『村には一般人も多いので配慮してほしい』と伝えているのだ。


 俺は平和主義者だと何度も訴えているのだが、部外者を招き入れている死鷹としては不安な思いが拭えないのだろうと思う。


 村への案内を渋っていた死鷹。

 その死鷹を説得するのは、思っていたよりも難しい事ではなかった。これは俺の交渉力の高さもあるが、どちらかと言えば死鷹が聡明だったおかげだ。


 俺が読心能力を持っている事を証明しただけで、死鷹は無駄な抵抗をすることなく諦めてくれたのだ。素直に従った方が望ましい結果が得られると悟ったようだが、実際に隠し通せるものでもないので正しい判断だと言えるだろう。


「ルカ、ライゲン、分かっているな? 決して非戦闘員を傷付けるような真似はするなよ。戦闘員であっても殺意を向けられない限りは殺すんじゃないぞ」


 俺としても若者の想いに応えたいと思っているので、不安要素がてんこ盛りの海龍兄妹に釘を刺してしまうのは当然だ。


 ちなみにこれは海龍兄妹に念を押すという目的もあるが、それと同時に死鷹を安心させる為の発言でもある。


「はっはひまえあろっ!」


 いつも返事だけは優秀なルカ。おかきを口いっぱいに頬張りながら『あったりまえだろっ!』と強気に豪語である。


 ライゲンはライゲンで重々しく頷いているが、この男も暴力に躊躇いのない危険人物なので油断はならない。海龍一族は常人とは隔絶した感性を有しているのだ。


「こらルカ、おかきを車内に零すんじゃない。……それにしても、まさかルカと死鷹が従兄妹の間柄だとは思わなかったな」


 何ものにも縛られない野生児と、落ち着きのある思慮深い若者。実はこの二人は従兄妹にあたる関係だ。ルカの父親の弟、その子供が死鷹という事らしい。


 しかし、考えてみれば不思議な話ではない。


 ルカとライゲンの父親は天針家の元当主で、死鷹は末席を自称していても天針の姓を持つ若者だ。ルカたちが親戚関係であるのは自明と言える。


「私は先代当主だった叔父と面識は無いのですが、先代は一族の間で『歴代最強の天針』と呼ばれていたそうです」


 死鷹が複雑そうな顔でルカの父親の過去を語る。優秀過ぎるが故に次代の当主選びにも支障が出てしまったという事なので、ルカの父親はよほど図抜けた存在だったのだろう。……本人の話では息子たちは全盛期の自分以上らしいが。


 そして程なくして、死鷹が運転する車は駐車場で駐まった。田舎の余った土地を利用した広大な駐車場、その横には武家屋敷のような天針家の邸宅だ。


「歴史のある一族だけあって立派なお屋敷だな。……まぁしかし、まずは車内の掃除からだ。このハンドクリーナーを借りるぞ」


 天針家の邸宅を前にしても真っ直ぐに向かうわけにはいかない。

 ルカがおかきをボロボロと零しているので、良識ある大人として車内を掃除する必要があるのだ。放任主義のライゲンの代わりに俺が保護者役を務めなくては。


「別にそのままで構わないのですが……」

「それは駄目だ。たとえ死鷹の所有する車でなくとも粗略に扱ってはいかん」


 この車は死鷹の愛車ではなく天針家が所有する車の一台らしいが、ルカの教育の為にも非常識な振る舞いはフォローせねばならないのだ。


 俺を車内のマットを引き出して掃除を始める。

 素直なルカも言われるがままにお手伝いだ。


 この面子で掃除をすると犯罪の証拠隠滅をしているようだなぁ、と呑気な感想を抱きながら大掃除をしていると――同じ駐車場に、新たな車が滑り込んできた。


「あれは兄の車です。……どうかこの場は私にお任せ下さい」


 死鷹の申し出に「ああ」と素直に頷いておく。

 この若者には長老会への取り次ぎを頼んでいるが、天針家の邸宅に入る前に騒ぎを起こしてしまうのは得策ではないのだ。


 俺たちの訪問で大騒ぎになるのは致し方ないにしても、話を付けるべき長老会の面々に逃亡されると面倒な事になる。ここで騒ぎになっては非礼を承知でアポ無しで訪問した意味がない。


 とりあえず俺たちは掃除を続行する。相手がこちらを気にしなければ手間も掛からなかったが……しかし、車から降りた男はのっしのっしとやって来た。


「あぁん? おい死鷹ぁ、なんで余所者がここにいんだよ?」


 それはチンピラのような男だった。

 死鷹が礼儀正しい好青年だったので家族にも期待していたが、残念ながら死鷹の兄は好ましい人物とは言えないようだ。


 しかし決して悪い事ばかりでもない。

 死鷹は一目見ただけで『海龍ライゲン』の存在に気付いたが、兄の方はじろじろとこちらを見回していても気付く様子がないのだ。


 ここに海龍の一族が居るはずがないという先入観もあるのだろうが、その立ち居振る舞いからしても死鷹より隙の多い男だと言えるだろう。


「この方たちは……」

「能無しの分際で言い訳すんじゃねぇッ!」


 これはひどい、死鷹の言葉に聞く耳持たずだ。

 どうやら死鷹が非能力者なので『能無し』と罵倒しているようだが、傍から聞いていても気分の良いものではない。


 これは俺が一言言ってやらねばならない、と口を挟もうとした瞬間――チーム海龍の切り込み隊長が先んじて動いてしまった。


「――ぶっ飛ばすぞテメェッ!」


 そう言った時には殴っていた。

 野生児には迷いがない。かつてカンジが『ルカは躊躇なく顔面を殴るから良いよな!』と歪んだ性癖を披露していたが、今日も元気に顔面パンチである。


 自分の車に「ぶごぉっ!?」と叩きつけられてしまった男。お約束のように大量の鼻血を流して失神しているが、幸いにもまだ息はあるようだ。

 俺は驚愕に震えてルカを見据える。


「ルカ……お前、死鷹の為に怒ったんだな」


 俺は問題児の成長に感動していた。

 ルカは好き嫌いが極端なところがあり、興味のない人間に対してはドライな一面があった。カリンやラスは友達なので大事にするが、赤の他人が傷付けられていても目の前のカツサンドを優先しかねない危うさがあったのだ。


 そのルカが、手の付けられない問題児だったルカが……今日会ったばかりの死鷹の為に怒ったのだ。これを喜ばないわけがなかった。


「偉いぞ。他人の為に怒れるのは立派な事だ」


 すっかり嬉しくなってヨシヨシと頭を撫でてやる――外敵排除、ヨシッ!

 うむ、テンションが上がりすぎて指差確認してしまうのも仕方ない。ルカも目を細めて喜んでいるので何よりだ。


 もちろん喜んでいるのは俺たちだけではない。ライゲンも心なしか柔らかい雰囲気であるし、死鷹に至っては感激のあまり言葉を失っているのだ。


 なにやら憧れの名画を前にした少年のように呆然としているが、これはルカの異常な力を初めて見たからという事もあるのだろう。


 なにしろ相手は死鷹の兄、おそらくは天針家の超能力者だ。そんな相手を圧倒したとなれば死鷹が驚くのも無理はない。


「……さて。それではこの男をトランクに詰めておくか。万が一にも俺たちが襲撃に来たと誤解されては大変だからな」


 殴暴組の訪問時、今回と似たような状況になったのは記憶に新しい。あの時は被害者を放置したばっかりに、殴暴組の面々と交戦する事態に陥ってしまったのだ。


 名探偵として同じ轍を踏むわけにはいかないので、今度はしっかりと車のトランクに押し込めておくという訳だ。これで不本意な誤解を受ける心配はない。


 過去の教訓を活かした名采配。

 あらかじめ交渉のウィークポイントを潰すという周到な態勢なので、もはや天針家との和平交渉は成立していると言っても過言ではないだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、七十話〔平和への武力外交〕

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