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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
後日談

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粛清的新聞配達

 暗い未来を斬り裂くようにバイクを走らせていると、向かう先から不穏で物騒な音が聞こえてきた。


 誰かに助けを求めるようなブレーキ音。罪人に判決を下すような激しい衝突音。魂を締め付けられたような絶望の悲鳴。……これは間違いない、既にコクロウの時間が始まっている!


 そして俺の名推理は正しかった。焦燥感を抱きながらも法定速度を守って現場に到着すると、夜の路上では異様な光景が広がっていた。


 それはまるで現代アート。


 只人では理解が難しい高尚な作品の如く、ある者は頭部をアスファルトに突き刺し、ある者は民家の壁に脳髄の花を咲かせている。パッと見たところ、八人中四人が確実に死亡している。――よしっ、全滅していない!


 いやぁよかったよかった、とポジティブ思考で安堵しつつ、五人目の男を芸術に変えようとしていたコクロウの拳をすすっと逸らす。


「そこまでだ、コクロウ。若者の未来をこれ以上奪わせはしないぞ」


 思えばルカの拳も同じように逸らした事があったなぁ……と妙な懐かしさを覚えていると、なぜか横から介入されたにも関わらずコクロウは口元を吊り上げた。


「ほほう、面白い。次はビャクが相手になるという訳か。いいだろう。――行くぞ、千道ビャクッッ!!」

「そんな訳あるか。話の流れがおかしいだろ。それに殺人現場で俺のフルネームを大声で叫ぶのは止めるんだ」


 隙あらばバトル展開にしようとする少年漫画の編集者のような男を冷静に窘めておく。よくある事なのでもはや慣れたものだった。


「やれやれ、危ないところだったな…………うん? お前、妙に老けているな」


 これで連続殺人は止まったと安堵する中、あわやという所で一命を取り留めた男に違和感を覚えた。


 とりあえず自然な流れで「歳は幾つだ?」と問い掛けると、怯え切った声で「よ、よんじゅう、です」と返ってきた。


「――――ドクズがぁッ!!」

「ぶぼぁぁッ!?」


 おっと、これはいけない。正義心が溢れて一撃必殺拳を炸裂させてしまった。


 いい歳して迷惑暴走行為を行っていた事もそうだが、若者を悪の道に引きずり込む大人が許せなかったのだ。……まぁ、死亡者が四人から五人になっても誤差のようなものだろう。


「うむうむ。あとは、お前たちの処遇だな」

「ひぃぃっ……」


 俺は生き残りの三人に視線を向ける。見るからに紅顔の少年。年齢確認をしてみても、確かに未成年の若者だった。


 三人共に恐怖で震えながら股を濡らしているのは、唐突に白い着物姿の男に襲われて仲間が虐殺されたからだろう。コクロウは新種の都市伝説のような男なので怯えるのも無理はない。


 まぁ、ともかく。問題は彼らの処遇だ。


 官憲に任せるという選択肢はない。明らかに迷惑で身勝手な暴走行為であっても、真っ当な人々の安眠が理不尽に阻害されても、この国ではユルユルな処罰で済まされてしまう。なんなら『サツに捕まったぜ!』と武勇伝にされるくらいだ。


 罪には相応の罰を。安眠を阻害された世の人々の為にも、過ちを犯してしまった若者の為にも、この俺が手を汚して適正な罰を与えなくてはならない。


「――――三カ月だ。そう、お前たちは全治三カ月にしよう」


 俺は心を鬼にして裁定を下した。

 若者たちは理不尽に直面した被害者のように震え上がっているが、俺だって若者を殴るのは拳が痛い。そう、むしろ俺が被害者と言えよう。そんな中、完全加害者のコクロウがここぞとばかりに声を上げた。


「ふふん、いいだろう。我に任せるがいい。歪んだ性根を叩き直してやろう」

「いやいやいや、ダメだダメだ。それだけはない。コクロウは絶対に殺すだろ」


 まるで俺が依頼したかのように暴力を快諾するコクロウを止める。当のコクロウは「殺さんぞ!」と抗弁するが、俺は絶対的信頼で「いや殺す」と即論破。しかし発言だけを切り取ると俺が死刑推進派のようであった。


「…………仕方ないな。三カ月、三カ月だぞ?」


 結局のところ、俺は大いに迷いながらもコクロウの執行を認めた。


 非常識人の成長の糧になるかも知れないという思いもあったし、そろそろ警察が来そうなので説得の時間が足りないという事もあった。この男は平気で警察官にも手を上げそうなので仕方ない。


「こ、ころさ……あがァ!?」


 コクロウは若者の命乞いを気にも留めずに殴り飛ばした。そう、この男は戦意喪失者でも容赦なくブチのめせる暴力の権化なのだ。


 暴走バイクに衝突されたように激しく吹き飛ばされる若者。これはどうだろう……と、俺はハンマー投げの測定員のように迅速に駆け寄る。


 頭部や腹部は死にやすいから殴るな、と忠告した甲斐あって腕を殴っているが、コクロウの人間離れした力は上腕を砕いて胴体に至っていた。


 見るも無惨にぐっちゃりしてしまった腕。臓器を損傷したのか口元から溢れる血液。……ふむ、なるほど。なるほどな。


「――――判定、全治六カ月!」


 俺は容赦無く失格判定を下した。どうしようもないコクロウは褒められたかのように「そうだろう!」と上機嫌にニッコニコだが、もちろん俺は褒めてなどいない。というか治療が遅れたら普通に死にそうだった。


「いや俺の指定は三カ月だぞ? 明らかにやり過ぎだ。もう少し手加減を覚えろといつも言ってるだろう」


 いつものようにコクロウに戒めの小言をぶつけた後、真っ青を通り越して真っ白な顔色になっている執行待ちの二人に向き直る。


 なにやら恐怖と絶望に塗れ切った様子だが、しかし心配は無用。俺は慣れているので『ピッタリ三カ月じゃ!』と医者を唸らせる処置を施してみせよう。


「――――ヨシッ! これで終わりだ」


 ふぅ、と思わず安堵の息を吐く。

 コクロウが先走った時はどうなる事かと思ったが、無事に悪を処断して若者を正しい道に導いた。唯一の心残りは、俺の現場到着が遅れた事くらいか。それが為に、導くべき若者を無惨に減らしてしまった。……いや、待てよ?


 暴走集団の中には中年も混じっていた。そしてコクロウが処断した人間は、どれも頭部の原形が無くなっていた――――そう、つまり『死亡者は全て中年だった』という可能性がある。いわゆるシュレディンガーの中年だ。


 冷静に考えると、その可能性は十二分にある。


 ルカは父親から『大人は構わないが子供は殺すな』という教えを受けていたので、兄のコクロウが同じ教えを受けていないと考える方が不自然だ。


 いやはや、まったく……初めて聞いた時はクレイジーな父親だと思ったものだが、非常識人に最低限の線引きをしたと思えば評価せざるを得ない。


 未来ある若者は死んでいなかった。俺の心魂の棘は取れた。世は並べて事もなし…………これにて、一件落着!


 最後に若者たちに「人に迷惑を掛けないように」「警察に余計な事を言わないように」と言い聞かせ、どこからともなく聞こえるサイレン音を尻目に、やり遂げた気持ちでコクロウを連れて配達に戻るのだった。



気晴らしがてらの後日談でした。またカクヨムで新連載を始める時にでも何か書くかもです。

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― 新着の感想 ―
相変わらず素敵なギャグセンスが光っていて、楽しかったです。
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