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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第六部 終わりの千道

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百五二話 壁を超えた能力者

「――よし、ここは俺に任せておけ」


 敵の行動には不可解な点があるものの、今は考えている場合ではない。まだ襲撃前なので作戦中止という選択肢はあるが、この機会に決めなければ今後は警戒されて手出しが難しくなる。ここは名探偵の力で制圧させてもらうとしよう。


「分かりました。ご武運を」


 もちろん空柳警察は四の五の言わない。

 俺一人に任せることに抵抗感を覚えている感情は見えるが、有事の際に問答しているようでは雨音の部下は務まらないのだ。


 空柳警察は優秀であっても人外の域には達していない。無用な犠牲を出さない為にも、今回はバックアップに専念してもらうのが最善だろう。


 それに単身で挑むことにはメリットもある。


 なにしろ相手は巨大な宗教団体の幹部。樹神教団は表向きには真っ当な団体なので、反社会的勢力と違って世間体には気を遣わなければならない――そう、こちらが単身で丸腰となれば銃火器を使いにくいという訳だ。


 俺は社会的体裁という盾を持ち、偶然に通りかかったかのように標的の前に出る。どこにでもいる普通の一般人になりきっているので極めて自然体だ。


「ッ!? 撃てェッッ!」


 そして護衛から一斉射撃が飛んできた!

 なんて非常識な連中だ……と憤りを覚えたが、今は目出し帽を被っているという事を思い出した。流石に強盗マスクで通行人に扮するのは無理があったのだろう。


「喝ッッ!」


 俺は呑気に考えながらも反射的に反撃していた。相手の殺意が見えた瞬間、懐から飛び道具を取り出して「ぐあッ!」と護衛の一人を潰していたのだ。


 射線が二本になれば回避は難しくない。

 新装備の手甲を使うまでもなくユラユラと銃弾を躱してしまう。手甲を使おうとすると服に穴が空いてしまうので基本的に使わないのだ。


「な、なんだこいつは!?」


 護衛たちは動揺していたが、俺も内心で動揺していた。なにしろ咄嗟に禁断の『飛び道具』を使ってしまった。俺が放った飛び道具は護衛の手に突き刺さり、結果的には射線の一本を防いだという形だが……このままではまずい事になる。


 その理由は他でもない。

 俺が放った飛び道具はカード――そう、千道探偵事務所の名刺だからだ……!


 現状では名刺を確かめる余裕は無いようだが、このままでは俺の正体が露見してしまうのは明白だ。ここは早急に連中を片付けなくてはならない。


「こいつ速ッ、ぐぇァ!?」


 銃撃が止んだ隙を突いて一気に踏み込み、護衛の一人を叩きのめす。そのまま流れるように最後の護衛にハイキックを放つ――――が、俺の蹴りは空を切った。


「ッ、貴様は何者だ」


 襲撃前に警告を発した護衛の男、その男は一撃必倒の蹴りを躱していた。

 只者ではないと思っていたが、予備動作の少ない俺の蹴りを躱されたのは久し振りだ。しかもこの男は、俺が攻撃のモーションに入る前から動いていた。


「……お前、()()()()()()()()()?」

「ッ!?」


 もしやと思ったが予想通りだった。

 俺のハイキックを躱した事もそうだが、事前に襲撃を察知しながら襲撃者に気付いていなかったので不自然だと思っていたのだ。


 樹神教団は超能力と関わりがある事は予想していたので、樹神教団の幹部に超能力者の護衛が付いていても不思議ではない。それならそれでやりようはある。


「周囲の心を読んでいる? 未来予知? 時間、機会、場所――そうか、危険な場所が分かる『限定的な未来視』と言ったところか」

「ッッ、お前も同類か!?」


 相手の手札を知る為に質問を重ねていると、同じ超能力者だけあって俺の能力にも勘付かれてしまった。だが、情報収集をしただけの価値はあった。


 この男の能力は限定的な未来視、言うなれば危険察知だ。俺が読み取った情報によると『その場所』が危険だと感覚的に分かる能力らしい。完全な未来視であれば襲撃者の場所に見当がつくはずなので納得がいく。


 樹神教団の幹部を守っているだけあって相当な能力だと言えるが、そのタネが分かってしまえば恐れる必要はない。あとはいつも通りにやるまでだ。


「その能力でどこまで凌げるか試してやろう」


 俺は相手を揺さぶりながら攻撃を仕掛ける。予備動作を抑えた鋭い蹴り。数多くの敵を倒してきた攻撃を、しかし護衛の男はあっさりと躱してしまう。

  

 意外に思いながらも矢継ぎ早に連撃を放つが、それらの攻撃も読めているように躱していく。それどころか攻撃に切れ目に銃撃を返してくるほどだ。限定的な未来視にしては異常な回避能力だが、これまでの応酬で回避能力の真相は察せられた。


「苦しそうな顔だな。その様子から判断すると、お前も『壁』を超えているな?」

「ッ……」


 俺の攻撃が当たっていないのに、男は鼻血まで出して苦しそうな顔をしていた。明らかに不自然な状況だが、俺にも身に覚えがあったのでピンと来た。


 超能力は壁を超えて行使すると肉体に負担が掛かる。この男の異常な回避能力と併せて考えれば、俺と同じく『超能力の壁を超えている』としか思えなかった。


 この男の能力はパッシブで数秒先の危険を察知するものだと推察していたが、現在はアクティブで直近の危険を察知しているのだろうと思う。


「その力量は敬意に値するが、俺にも引けない事情がある。すぐに終わらせるぞ」


 壁を超えた能力は負担が大きいので時間さえ掛ければ自滅するはずだが、今回の襲撃に時間は掛けられない。ここは手札を一つ切らせてもらう。


 俺は改めて攻撃を再開する。相手に攻撃を読まれている事を承知の上で、圧倒的な手数によって反撃の隙を与えない。まだ男の先読み能力は生きているが、俺は無策でラッシュを仕掛けているわけではなかった。魚を追い込み漁で網に追い込むかのように、護衛の男を『その場所』まで巧みに誘導していた。


「ッ、クッ……ぐァッ!?」


 大振りの回し蹴りを放って追い込んだ直後、護衛の男は『見えない攻撃』で吹き飛んだ。直前に危険を察知したのか焦っていたが、絶え間ない攻撃で追い込んでいたので逃げる余地はない。男は激しく吹き飛び、ドゴッと壁に叩きつけられた。


 サイコパラドックスと名付けた奥の手。

 今回は手加減していたので装甲車を吹き飛ばすほどの威力は無かったが、護衛の男を戦闘不能にするには適度な威力だったようだ。


 本当はバタフライパペット――思考誘導で追い込めば完璧なのだが、壁を超えた超能力を併用するのは負担が大きいので使わなかった。今回は物理的な力で『念動力を仕込んだ場所』まで追い込むだけで充分だったという事もある。


 ともあれ、これで敵は全て片付いた。


 最初に名刺を喰らわせた相手はこっそり麻酔銃の餌食になっているし、護衛が劣勢になって逃げようとしていた標的も麻酔銃で仕留められている。やはり空柳警察がサポートに専念してくれると安心して立ち回れるというものだ。


 首尾良く無力化を終えたとなれば、後は空柳警察の拠点に連行するまでだ。

 標的の尋問で何が出てくるかは分からないが、樹神教団の関東支部長ともなれば重要な情報を得られるはずだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百五三話〔屋上の作戦会議〕

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