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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第六部 終わりの千道

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百四四話 許されざる拉致犯

 それからしばらく待っていると、お馴染みの野性的な気配が森の奥から近付いてきた。当然のように薄暗い森でも乱れのない安定した足取りだ。


「ルカが戻ってきたようだな…………んん?」


 森の奥から姿を見せたルカ。

 宣言通りに一匹のオオカミを伴っているという形なので、結果だけを見れば申し分ないのだが、俺はその光景に罪悪感を刺激されていた。


 なにしろオオカミは諦めた目でルカの肩に担がれている――そう、相手の意思を無視して強引に連れてきたのは明白だった……!


「こら、強引に連れてくるなと言っただろうが」

「いでっ」


 褒められる事を期待していたルカに手刀を放つ。ルカは不服そうな顔だが、俺は横暴な拉致犯に同情などしない。この場で本当に可哀想なのはオオカミのシロウ、諦観の感情を発しながら担がれているシロウこそ同情すべき被害者だ。

 とりあえず拉致犯から被害者を取り戻し、改めてシロウに挨拶と謝罪を告げる。


「お前はシロウだな? 俺の名はビャクだ。強引に連れてきたようで悪かったな」


 賢いオオカミだと聞いていたので自己紹介をしておくと、シロウは言葉を理解しているかのように小さく吠えた。どこか疲れた印象はあるが確かに賢そうなオオカミだ。そしてシロウは、知人であるルカの父親に向き直る。


「ウォンウォン!」

「うむ……迷惑を掛けたな」


 この様子からするとルカに拉致されたクレームを父親に訴えているようだ。

 俺は動物の感情も見えるので、言葉が分からなくとも概要くらいは掴めるのだ。……もっとも、今回は俺でなくとも状況的に分かりそうなものだが。


「へへっ、親父に会えたから嬉しそうだな」


 しかしルカの面の皮は厚かった。

 ポジティブ思考で前向きに受け止めている狼藉者。この図太さからすると『肩に担いで運んでほしいワン!』と言われたつもりで運んでいたのかも知れない。


「あれはどう見ても文句を言ってるんでしょ! 無理矢理に運ぶのは止めなさいって、私がいつも言ってるじゃないの」


 流石にカリンは分かっていた。

 気を利かせて運んできた甲斐があったぜ、と言わんばかりの問題児を厳しく叱責している。カリンも強引に運ばれがちなので他人事ではないのだろう。


 ……しかし、残念ながら現実は非情だ。


 シロウを無理矢理に拉致してきたルカ。そのシロウの味方をしているカリン。

 本来ならばシロウにとっての味方はカリンであるはずだが、この野生のオオカミが恐怖の感情を向けている対象は――――カリンだ。


 事前に予想はしていたが、やはり能力者を嗅ぎ分ける存在にとってカリンは強烈過ぎるという事だろう。カリンに恐怖の感情が見えていないのは幸いだった。


 光人教団の教祖から聞いていた情報。カリンの影響で爆発死したと思われる奇跡の子。これまで直接的な証拠は無かったので僅かに疑念が残っていたが、シロウの反応でカリンが桁外れな能力者という情報に確信が深まってしまった。


「……おっと、そういえば。お近付きの印として土産を持ってきたんだった」


 俺は素知らぬ顔でシロウにドッグフードを勧める。カリンの平穏無事な生活を考えれば、この幼女が強大な能力者という情報は何かの間違いであってほしかったが……状況証拠が増えてしまった以上は受け入れるしかない。

 俺としては陰に陽に、これまで通りカリンの平和な生活を守っていくだけだ。


「っぐっぐ……」


 一心不乱にドッグフードをはぐはぐするシロウ。こちらの都合で対面を願ったので手土産を持参したが、高級ドッグフードを選んだ甲斐あってお気に召してくれたようだ。そんな微笑ましい光景の中、ルカがおもむろにシロウに近付いていく――


「――ちょっとルカ! ドッグフードを食べようとするのは止めなさいっ!」


 そしてカリンの叱責が飛んだ。

 何もしていないのに先読みしての叱責。これにはルカも「ちょっとだけだっ!」と声高に反発である。……ドッグフードを狙っていた事を否定してほしかった。


「こらこら、この後に夕食が控えているのを忘れたのか? あとドッグフードは人間が食べても美味しくないらしいぞ」


 ルカが道を踏み外さないように俺も口を挟んでおく。シロウが美味しそうに食べているので惹かれたのだろうが、少女がドッグフードを食べる絵面は危ういのだ。


 それにシロウにはこちらの都合で恐怖を与えてしまったので高級ドッグフードの独り占めは当然の権利だ。色んな意味でルカに食べさせはしない。


「カァッ、そいやお袋さんはどうしたんだ?」


 まだドッグフードを凝視しているルカの気を逸らす為か、ラスが話題を変えた。

 その話題はルカの母親、ルカを待ちきれないとばかりに森に入った母親だ。


 状況だけを見れば二重遭難の様相を呈しているが、ルカの父親が平然としているので俺も取り立てて気にしていなかった。


「あれの事なら案ずるまでもない。食事の時間になれば帰ってくるであろう」


 まるで遊びに出掛けた子供のような扱いだ。

 元々はルカを捜しに行ったはずだが、ひょっとすると森を走っている最中に目的を忘れてしまったのかも知れない。ルカもよくある事なので容易に想像がつく。


 しかし、それにしても……シロウがカリンに怯える事は想定していたが、ドッグフードを与えただけで恐怖心が霧散してくれたのは幸いだった。食事に夢中になって周囲が見えなくなるあたりは海龍の友らしい。


 ただそれでも、意識が逸れただけでカリンへの恐怖が消えたわけではないはずだ。正直に言えばシロウには『ドレイン事件』への捜査に協力してほしかったが、想定以上にカリンの事を恐れていたので無理は言えない。


 超能力者を見分ける目が無くても捜査は可能なので、シロウの能力という裏技に頼ることなく、これまで通り地道に捜査していくとしよう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百四五話〔成長するソシャゲ〕

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