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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第六部 終わりの千道

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百四三話 危なかったネーミング

 仁寛から樹海の近況について所感を聞き、カリンとラスが衛星通信でユキとチャットを交わした後、俺たちは仁寛の屋敷を一旦辞去した。


 仁寛の奥さんが狩りの獲物を持ち帰るはずという事で、夕食時にはまた訪れて食事を御馳走になるつもりだ。そして俺たちは遅ればせながら海龍家の門を潜る。


「――カリンじゃないか! ちょっと大きくなったねぇ。うんうん、安心したよ」

「わ、私を持ち上げるのは止めなさいっ!」


 玄関で顔を合わせた直後、ルカの母親は実の娘をそっちのけでカリンを抱き上げていた。元護衛対象の孫という事で家族感覚になっているのもあるだろうが、この様相からするとカリンの善良な性質を気に入っている面もあるのだろう。


「親父、久しぶりだなっ! 親父はあんまり大きくなってないな!」

「久しいな、ルカ」


 母親と同じような言い回しで再会を喜ぶルカ。

 とても父親に対して言うような事ではないが、ルカの父親は自由な娘に慣れているからか平然と返している。この境地に至るのは良い事なのか悪い事なのか。


「再会の挨拶はそれくらいにしておいて、そろそろ中に案内してくれるか?」


 海龍家の一族はライブ感で生きているので常識人として仕切っておく。

 この家族に任せていると、そのまま玄関でバーベキューをしかねない危うさがある。数少ない常識人枠としては場を仕切らざるを得なかった。


 俺たちはぞろぞろと居間に招かれ、ルカの父親手作りの茶菓子を摘まみながら近況を語り――その後、海龍家の屋敷の庭に出てきた。


 近辺の森林と地続きの庭。この開放的な庭にやって来た理由は他でもない、前々から興味のあった『超能力者を見分ける能力』を持つ能力者と会う為だ。


「過去の訪問時には村を留守にしていたようだからな、ようやくのご対面だ」


 超能力者を見分ける能力。

 かつての光人教団には『視覚』で超能力者を見つける能力者が存在し、救世聖者の会には『触覚』で能力者を判別する少年が存在していた。……そして、この村の超能力者は『嗅覚』で能力者を嗅ぎ分けるとの事だ。


 もっとも、その能力者は龍の里に住んでいるわけではない。基本的には森に生活圏を持っており、ルカの父親と親交があるので定期的に顔を出しているとの話だ。それだけを聞けば希代の変人のようだが、能力者の詳細を知れば納得させられる。


「……それにしても、まさか()()()()が超能力を持っているとはな」


 そう、問題の能力者は野生動物だった。

 なんとなく無意識の内に『超能力は人間の専売特許』と思っていたが、それは他の種族を軽んじた傲慢な考えだったという事だ。


 常人には難しい種族間の交流を実現させたのはルカの父親。その外見に見合わない『動物との会話能力』が遺憾なく発揮された結果である。


「たしかオオカミ……それも群れを率いてる個体だったか? この国でオオカミが群れを成しているという事は、動物園から逃げ出して繁殖したのだろうか」

「うむ、大方そんなところであろう。この国の固有種ではない故にな」


 超能力者を見分けるオオカミ。

 本来なら動物がそんな能力を有していても気付かないはずだが、ルカの父親の存在によって秘められた能力が明らかになったという訳だ。


 ――――いや、待てよ。


 ふと、脳裏に恐ろしい仮説が過ぎった。

 それは充分にあり得る可能性。出来れば気付かないフリをしたかったが、来たるべき未来の為に確認しないわけにはいかなかった。


「つかぬ事を聞くが……そのオオカミには、あんたが名前を付けているのか?」


 天針死犬、天針死鷹の兄弟に代表されるように、天針家の人間は名前に『死』を付けてしまう傾向がある。その奇抜なネーミングセンス自体は構わないのだが、しかし今回の場合はデリケートな問題が生じかねない。


 なにしろ対象のオオカミは犬科。そしてルカの父親は名前に『死』の単語を絡めがちな男。それらの条件から導き出される仮説は一つ――――そう、死鷹の兄である『死犬』と奇跡のマッチングを果たしかねないのだ……!


「いかにも。死狼(しろう)と名付けておる」


 ニアピンでセーフ……!

 俺が胸を撫で下ろすのも当然だ。将来的には死鷹を村に招待するつもりなので、亡くなった兄と名前が被っていたら気まずい思いをするところだったのだ。そんな事になれば死鷹も動揺を隠せなかったはずだろう――『おにいぬちゃん!?』


「死狼、シロウか……。良い名前だ」


 俺が安堵感を覚えながら名付けを褒めると、ルカの父親は名付けに自信があったのか満足げに頷いた。これで中々に微笑ましい男なのだ。そんなこんなで俺とルカの父親が雑談する中、薄暗い森を見ていたカリンが不安そうな声を漏らした。


「……ルカ、遅いわね」


 この場に居ないルカを心配するカリン。ルカは単身で森に入っているので不安になってしまったようだ。そんな心配症な幼女をカラスがフォローする。


「カァッ、森でオオカミを捕まえようってんだから遅いのは当然だろうよ」

「こらこら、人聞きが悪いぞ。ルカは友達のオオカミを呼びにいっただけだろう」


 そしてラスの失言を俺がフォローした。実際のところラスの発言は正しいと予想されるが、それは正しくとも胸中に秘めておくべき事なのだ。


 思い起こすのは奇跡の子。あの子供は『身体がビリビリする』と触覚で能力者を見分ける事を可能としていたが、突然に身体の痛みを訴えて爆発死してしまった。


 その要因になったと推測しているのが、カリンだ。

 つまるところ……超能力者を見分ける能力者からすると、規格外の能力者は刺激が強過ぎるのではないか? と推測している。


 おそらくだが、これまでオオカミと対面が叶わなかった理由もそれだ。

 問題のオオカミ――シロウは嗅覚で能力者を判別するらしいので、強大な能力者と目されているカリンの接近を察して近付かなかったという訳だ。


 だからこそ、ラスの不用意な『オオカミ捕獲発言』は聞き逃せなかった。

 カリンは強気な態度に反して自分を責めがちな子供なので、自分が他者に迷惑を掛けていると察したら気に病みかねないのだ。


「カァッ」


 俺の言わんとするところが伝わったのか、ラスは自らの非を認めるように一声鳴いた。ラスは賢いのでカリンへの気遣いが足りなかったと察したのだろう。


「まぁしかし、野生のオオカミにも生活があるだろうからな。ルカが探しに出掛けてはいるが、シロウと対面が叶わなくとも仕方あるまい」


 俺が興味を持っていたので――『アタシが連れてきてやるよ!』とルカが気を利かせてくれた形だが、それでもシロウの意思を尊重するように念を押してある。


 無理矢理に連れてきて奇跡の子のような事態になったら大変なので当然だ。ルカとも昔から付き合いがあるオオカミらしいので無茶な真似はしないはずだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百四四話〔許されざる拉致犯〕

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