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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第六部 終わりの千道

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百四一話 終わらない夏休み

 子供の夏休みは長い。


 社会人には難しい一カ月以上の休暇を実現している夏休み。もちろん育児休暇などを利用すれば社会人でも長期休暇を可能とするが、実際には職場の無言の圧力的に育児休暇を取得するのは強い精神力を要求される。


 中には毎年のように子供を産んで連続休暇コンボを決める剛の者も存在しているが、そんな鋼のメンタルの持ち主は限られているのだ。


 まぁ、それはともかく。将来的に貴重となる夏休みを有効利用するというわけではないが、俺たち一行はまたしても旅行に――――龍の里へと向かっていた。


「んん? カリンがちょっと重くなってるな」

「そこは成長したって言いなさいよ!」


 例によって騒がしいカリンとルカ。

 あの村へは一般的な移動手段が存在しないので恒例のおんぶスタイルだが、当初は微妙な顔をしていたカリンも今では素直に受け入れている。おんぶは子供っぽいと意地を張ったところで仕方ないと諦めたのだろう。


「カァーッ、しかしユキの嬢ちゃんは一緒に行けなくて残念だったな。学生の身分で予定が詰まってるとは嘆かわしい限りだぜ」

「あれで一応は良家のお嬢様だからな」


 今回はユキ主従が不参加なのでラスは残念そうだ。前回のシアポール旅行でもスケジュール調整が大変だったらしいので致し方ない。

 カリンのように暇を持て余しているお嬢様の方が異端と言えるだろう。


「多忙なユキはともかく、暇そうなカンジに断られたのは意外だったな。どうもカンジは自分の縄張りから動きたがらない性質があるらしい」


 都会に出てくる時には散々に渋っていたカンジ。そのカンジを龍の里への旅行に誘ってみたが、今度は都会から動きたくないという姿勢を見せていたのだ。……まぁ、都会では両親も一緒なので悪い事ではないのだが。


「カァッ、カンジの気持ちも分からなくはないぜ。あの村の居心地は悪かないが、ちょいと立地がいただけないからなぁ」


 シティカラスへと成り果てたラスは手厳しい。

 おそらくお気に入りのスマホが使えなくなる事に抵抗を覚えているのだろう。


 人工衛生通信は可能なので無線LANルーターを介して接続するという手はあるが、龍の里にそんな機器が存在しているはずもないのだ。


「そう言うなラス。少なくともアクセス面は前回より改善されているぞ」


 過去の訪問時には森の中を数時間走っていたが、今回は一時間ほどで到着する予定となっている。この時間短縮の要因は、前回の訪問時に樹海を訪れた事にある。


「カァッッ、自衛軍の駐屯地から村に行った方が早いとは盲点だったぜ」

「直線距離で言えば遠回りだが、やはり車で距離が稼げるのは大きいな」


 そう、今回は森に入る場所が異なっている。これまではルカに案内されて国道の外れから入森していたが、前回に村から樹海に行った時に気付いてしまった――駐屯地まで車で行ってから森に入った方が早い、と。


 もちろん、この件については野生児のルカを責められない。

 基本的に走って移動するルカにとっては間違いなく最短ルートだったし、そもそも龍の里が地図に載っていない事が問題だったのだ。


「――おっ、クマがいるぞ! カリン、ちょっとクマ狩ってこうぜっ!」

「ちょ、ちょっと止めなさい!!」


 おっと、これはいけない。

 問題の野生児が『山菜を採ってこうぜっ!』くらいの気軽さでクマ狩りを敢行しようとしている。これは背中のカリンが慌てているのも当然だ。


「こらこら、ここで大きなクマを狩ったら道中の荷物になるだろうが。ちゃんと獲物を持ち帰ることも考えないと駄目だぞ」


 遠目に見えているクマは全長二メートルを超えている。これほどの大物を狩ってしまったら運搬に苦労するのは明白である。やはりルカには思慮が足りていない。


 とりあえず反発したいカリンが「そういう問題じゃないでしょ!」と口を挟むが、もちろん反抗期の幼女の言葉は全く気にしない。


「そっか、それもそうだな!」

「よしよし。では、行くぞ」


 素直なルカを促して先を急ぐ。

 クマを狩って食料にするならともかく、相手の縄張りに踏み入っておいてトロフィー狩りは許されない。クマの方も戦闘意思は無さそうなので無視一択だ。


 ここが人里に近ければ害獣として処理する必要性があったが、この近くに存在するのは自衛軍の駐屯地と、戦闘一族が住む龍の里。

 いずれもクマ程度では揺るがないはずだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百四二話〔新しい村人〕

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