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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第六部 終わりの千道

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百四十話 不穏な影

「なるほどなるほど……それで、その捕まえた犯人は何者だったんだ?」


 雨音のやり方はさておき、ここで気になるのは捕まえた犯人の素性だ。

 超能力者をミイラ化している異常事件。現象的に奇跡の子の『ドレイン』と無関係とは思えないので、空柳警察に捕まった犯人の供述は興味深いところだ。


「犯人の能力は千道さんから伺っていた『ドレイン』に酷似しています。実際に犯人の身体から気泡を生み出せる事を確認しました」


 まさかとは思ったが、やはり奇跡の子と同じような能力だったようだ。

 同じ能力を持つ人間は珍しいと聞いていたにも関わらず、よりにもよって『ドレイン』という危険な能力が被ってしまうとは最悪だ。


 既に犠牲者が出てしまったのは残念な事だが、それでも早い段階で捕縛出来たのは不幸中の幸いだったと言える。……しかし、雨音の報告には続きがあった。


「犯人の供述によると、自分の能力は『仕事の前に与えられた能力』との事でした。その能力で標的を始末するように、と依頼を受けたようです」

「……超能力を、与えられた?」


 それはにわかには信じ難い言葉だった。

 超能力関連に詳しい海龍家や天針家でもそんな話は聞かなかった。そもそも超能力を後天的に得られるとは考えた事もない。


「その黒幕は何者だ? 超能力を与えて殺人を依頼するとは尋常ではないぞ」


 これは何から何まで異常な事件だ。

 他人に超能力を付与する存在が、その与えた能力で超能力者を襲わせている。仮に超能力を他人に与えられるにしても、ただの殺人依頼に超能力を与えるのは大袈裟過ぎる話だ。殺人依頼なら銃を与えるだけで事足りるだろう。


「お恥ずかしい話ですが、未だ黒幕の特定には至っていません。どうやら実行犯の男は雇い主に監視されていたようです」

「それはつまり、こちらが犯人を捕まえた事によって警戒されたという事か?」

「ええ、その通りです。かなり早い段階で異変を察知されたものと思われます。実行犯の体内には発信器が埋め込まれていましたから」


 麻酔銃で捕獲する非人道的現場を見られたのかと思ったが、雨音の話によると敵側も非人道的な監視を行っていたようだ。最新の薬で正直になった実行犯の話によると、本人も知らない間に発信器を体内に埋められていたとの事らしい。


「寝て起きたら超能力が使えるようになっていたという話でしたので、おそらくその時にでも埋め込んだのでしょう」


 実行犯の男は、大金で雇われた元傭兵。ある建物の一室で薬を投与され、次に目覚めた時には超能力を身に付けていたそうだ。

 超能力の大半は『なんとなく使えるような気がする』と自覚出来るはずなので、元傭兵の男も目覚めてすぐに気付いたのだろうと思う。


 ちなみにその建物は廃屋であり、雨音の部下が駆けつけた時には何も残っていなかったとの事だ。手際が良いので個人ではなく組織的な犯行なのかも知れない。


「しかし、超能力の付与か。その時に投与された薬の影響なのか、眠らせてから何かをしたのかは知らないが……これを放置するわけにはいかんな」


 黒幕側の思惑は分からないが、状況的に考えれば奇跡の子にも関与していた可能性が極めて高い。あの少年は多くの人命を奪っていた事であるし、このまま黒幕を放置していると犠牲者は増え続けるはずだろう。


「そうですね、我々も座視しているわけにはいきません。今回の黒幕は将来的にお嬢様へ害を及ぼしかねませんから、早期に排除しておくべきでしょう」

「ああ、まったくだ。今回の敵は明らかに超能力者を狙ってるからな」


 実行犯が受けた依頼は『シャボン』だけではない。雨音の監視網に引っ掛かった事からも分かるが、他にも超能力の秘匿意識が低い人間が二人ほど狙われていた。


 空柳警察の迅速な対応が無ければ犠牲者が積み重なっていたはずなので、そう考えれば毒をもって毒を制したと言えるだろう。


「雨音に尻尾を掴ませないとなると並大抵の相手ではないが、俺に協力出来ることがあったら遠慮なく言ってくれ。多少の汚れ仕事であっても快く引き受けよう」

「ふふ、お言葉に甘えさせていただきます」


 雨音が捉え切れていないとなれば相手は尋常な存在ではない。カリンは神桜家の人間として権力を持っているが、雨音に関しては『権力の使い方』を知っている。


 空柳家の人間として権力を持っているだけでなく、雨音はカリンの後見人として神桜家の力も利用しているのだ。これだけの力があって苦戦しているなら相手側も相当なものだと考えるべきだろう。……しかし、それにしても。


 超能力者を狙う組織が存在しているなら、カリンの事以外にも考えねばならない問題がある。そんな俺の悩みを読み取ったのか、雨音が先んじてそれに言及する。


「敵の狙いは能力者という事ですから、以前の調査対象には全て監視の目を付けています。――はい、綿貫ミスミさんもその対象です」


 雨音の報告を聞き、俺は思わず胸を撫で下ろした。自衛能力がある俺やカンジ、ルカという護衛が付いているカリン。これらに関しては不埒者に襲われても撃退出来るが、ミスミはノーガードに等しかったので心配していたのだ。


「……それは有り難い。雨音の配慮に感謝する」

「いえいえ、敵を捕らえる為の網は大きいに越した事はありません」


 薄い笑みを浮かべて首を振る雨音。

 敵を捕らえる為の網と言っているが、過去の調査対象のようにミスミは超能力を大っぴらに使ってはいない。あの少女が敵に目を付けられるリスクは低いはずなので雨音の厚意だと考えるべきだろう。


「とは言え、当面は敵側も警戒しているはずです。現状では手掛かりは少ないですが、敵が動きを止めている間に先手を打ちたいところですね」


 実行犯が薬を投与されて意識を失った廃屋。

 現在はその廃屋付近の監視カメラを徹底的に洗っている段階との事だ。


「……そういえば、今回の実行犯の処置はどうするつもりなんだ?」


 情報共有の最中、ふと気になったので聞いてみた。罪の無い『シャボン』を手に掛けた元傭兵の男。本来なら殺人犯として法で裁かれるところだが、しかし超能力での犯行となると証拠不十分で不起訴になりかねない。


 それに実行犯を解放すると空柳警察の非道が公になるという問題もある。果たして、雨音裁判はどのような裁定を下したのか。固唾を飲んで返答を待っていると、なぜか雨音は口を開くことなく――――ニッコリと笑った!


 ふ、ふむ、なるほど……。

 この曇りのない笑顔だけで、俺には実行犯の悲惨な最期が分かってしまった。


 恐るべきは空柳雨音。普通の警察が『抵抗はムダだッ!』と投降を呼び掛けるように『抵抗はダムだッ!』と絶望の未来を叩きつけるが、犯人が抵抗しなくともダム送りになってしまうのが雨音クオリティなのだ。


 まぁしかし、敵に回すのは恐ろしくとも味方ならば心強い。今回の黒幕についての手掛かりは少ないが、俺も空柳警察に負けないように捜査に励むとしよう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百四一話〔終わらない夏休み〕

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