百三六話 揺るがない関係
俺とサティーラは『チャイクル教の信者』という理解で納得したのか、むすーっと不満そうだったカリンは落ち着きを取り戻した。
そんな中、ラスが意外な単語を掘り下げる。
「カァァッ。宗教と言えば、もうすぐ選挙の時期だな。政教分離の建前があるから宗教の単語で想起したらまずいんだろうがよ」
国会中継の視聴が趣味だけあって選挙にも関心が強いラス。なにやら危うい発言をしているが、ラスの言いたい事は分からなくもない。建前上では政治と宗教は切り離すことになっていても、現状では公然の事実としてまかり通っているのだ。
「……樹民党か。おそらく今回も圧勝だろうな」
二十年前の緑化後に生まれた政党、樹民党。
当初こそ議席数は少なかったが、現在では単独過半数を超える議席を持つ巨大政党にまで成長している。その躍進の要因となったのが――【樹神教団】だ。
樹神教団は国内最大手の宗教団体。そんな巨大組織が背後に控えているとなれば、圧倒的な組織票によって選挙で圧勝するのも必然という訳だ。
「なに、ビャクは樹民党が嫌いなの?」
「そういうわけではないぞ。樹民党は可もなく不可もなしという印象だからな。俺も消去法的に樹民党を選ぶことになるだろう」
政府が教団関係の企業に仕事を回すといった問題があったりするが、他の政党が問題だらけなので別の選択肢が無い。対抗勢力に手の者を紛れ込ませてネガティブな活動をさせているのでは? と疑うくらいに他の政党が酷いのだ。
「ただ……樹民党はともかく、支持母体の樹神教団がキナ臭いからな。あまり大きな権力を持たせたくないのが正直なところだ」
樹神教団の教義はその名の通り『樹海』の神聖視。個人的には受け入れられない考えだが、他人に迷惑を掛けていないなら文句を言うつもりもなかった。
「カァッ、連中は国がやってる樹海の調査に反対してるからなあ……。文明の敵を野放しにしようとは常軌を逸してるぜ」
「樹海を刺激しなければ再緑化は起きない、というのが教団側の主張だからな」
現状では樹海について何も分かっていないので、樹神教団の主張が正しいという可能性は否定できない。だが、教団側の主張が正しいという根拠も全くない。
希望的観測を信じたい気持ちは分かるが、樹神教団が『樹海の完全封鎖』を求めているとなれば話は別だ。未知の存在から目を背けるのは論外である。
樹海の完全封鎖は世論に反しているので強行はできないようだが、巨大政党とズブズブの関係となると不安が残ると言わざるを得ないだろう。
しかし、そこでカリンが浮かない顔をしている事に気付いた。
「……でも、神桜家は樹民党を推してるのよね」
なるほど、そういう事か。
実家が樹民党を推しているという事で、樹神教団を警戒している俺やラスと対立するのではないかと心配しているのだろう。もちろん、その心配は杞憂だ。
「ふふ、安心しろカリン。政治的、宗教的に対立していても仲良くなれないわけではない。俺たちの関係は主張の違いくらいで揺らぐものではないだろう?」
「っっ……」
心配症な幼女を安心させるように優しく微笑みかけると、カリンは友情を疑ったことを恥じるかのように真っ赤な顔になった。
よしよしと柔らかい金髪を撫で、謎のドライフルーツを口に押し込み、もごーっとカリンが立ち直ったところで話を続ける。
「ともあれ、樹民党とて民意は無視できないはずだ。再緑化の噂は気になっているが……そうだな、近い内に樹海調査員の友人を訪ねるから意見を聞いてみるか」
樹海調査員であり俺の友人でもある仁寛。めでたくも龍の里で結婚したとは聞いているが、友人として結婚を祝いたいので村を訪ねてみるつもりだったのだ。近況を聞くついでに樹海の話を聞いてみるのも悪くないだろう。
「おうっ、行くぞ!」
なぜか一緒に行くことになっているルカ。
難しい話には興味がないとばかりにドライフルーツをもぐもぐしていたはずだが、俺が龍の里に行くという情報は聞き逃さなかったようだ。
まぁしかし、俺の私用のついでにルカが実家に帰るというのも悪くない。
必然的に護衛対象の幼女も同行する事になりそうだが、カリンも樹海に関心を持っているので樹海調査員の話には興味があるはずだろう。
明日も夜に投稿予定。
次回、百三七話〔鉄人的新聞配達〕




