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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第五部 飛翔するランバード

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百一五話 完成してしまうソシャゲ

 何かとストレスを抱えがちな現代社会。気を張ってばかりでは心が保たないので、どこかで心を休めてやらなくてはならない。


 ストレス発散方法は人によって様々だ。

 自室で寛ぐ者、湯舟に浸かる者、他人からすれば無益な時間であっても当人にとっては有益という事は往々にしてある。


 そしてカリンとユキ。この二人は探偵事務所での歓談を息抜きとしている節があるが、それについて取り立てて文句を言うつもりはない。


 依頼者も一向に訪れない事であるし、神桜家や真星家の令嬢ともなるとストレスも察するに余りあるのだ。……だが、今日のカリンは様相が異なっていた。


「また雨音のお見舞いに行ったらしいわね」


 そのカリンの声音には、俺を責めるような響きがあった。

 カリンはお見舞いを制限されているので羨ましいのかも知れない。なんでも雨音がカリンの来院を避けるべく裏から手を回しているらしいのだ。


 もちろん、これはカリンが意地悪をされているわけでない。

 雨音は瀕死の重傷を負っていた身。医者から『生きていた事が奇跡だ』と言われただけあって、今でも身体を満足に動かせないような状態だ。


 だからこそ雨音はカリンの来訪を拒んでいる。

 過酷なリハビリによって順調に快復しつつあるが、自分の付き人が弱っている姿をカリンが目にすれば……この優しい子供は、間違いなく自分を責めるからだ。


「俺は自由業で時間的余裕があるからな。もうしばらくすれば雨音の面会時間も伸びるらしいから、その時にはカリンも一緒にお見舞いだ」

「えっ、本当なの?」


 雨音の画策によって学園の授業中が面会可能時間になっているが、順調に快復している様子なので、近い内にお見舞いも解禁されるはずだろう。

 雨音とてカリンを溺愛しているので会いたくないわけがないのだ。


「大体、あの病院の面会時間は短すぎるのよ。面会が十五時終了なんて怠慢よ」


 病院に不平不満を漏らしながらも嬉しそうに頬を緩めているカリン。

 毎日のようにメールでやり取りしているらしいが、やはり雨音と直接会って話したいという気持ちがあったのだろう。姉のように慕っているので当然ではある。


「病院側としてもリハビリの時間との兼ね合いなどがあったのだろう。――ところで、ユキの調子はどんな感じだ?」


 病院が責められるのは理不尽なのでフォローしつつ、さりげなく話題を変える。

 その話題の行き先はユキ。黙々とスマホを弄り続けているメガネっ娘だ。


 これは現代っ子に見られる『友達と一緒に居る時もスマホに集中している』的なものではない。むしろ、友達から依頼された事に応えているという形だ。


「えっと、今は()()()の途中です」


 スマホから顔を上げて素直に答えるユキ。その答えは事情を知らない者には要領を得ないものだが、もちろん俺には伝わっている。


 第四話――これは他でもない、カリンが作成した『千道探偵事務所の事件簿』なるソシャゲの進捗状況の事だ。


 以前にカリンが作ってしまった幻のソシャゲ。

 その骨子を利用してイラストやボイスなどの体裁を整え、近日中に正式な形でリリースされる事になったので、改めてテストプレイをしているという訳だ。


 ソシャゲ運営に関しては雨音が如才なく取り計らっている。カリンにソシャゲ運営絡みの雑事をやらせるわけにはいかないという事で、カリンを代表にして息の掛かった運営会社を設立してしまった。……しかし、それはそれとして。


「第四話? という事は、ユキは第三話の難問を解いたのか。まさか俺が後発のユキに抜かれているとは思わなかったぞ」


 ユキの進捗状況は予想より遥かに進んでいた。

 俺が行き詰っている第三話の謎解きパート。これは難易度調整がおかしいと考えていたが、ユキが既に解いていたとは予想外だった。


「い、いえ、私はラスちゃんをパートナーに選んでましたから……」


 はにかみながら謙遜するユキ。ラスが口出しをしていたのか? と一瞬だけ考えたが、ユキのスマホを見せてもらった事で合点がいった。


「ああ、課金パートナーのラスか。そういえばヒントを出してくれるんだったか」


 課金アイテムのラス。

 実はこのラスはお助けキャラになっているらしく、キャラをタップすると事件解決のヒントを与えてくれるらしいのだ。というか、謎解きの難易度が高いのは『ヒントが前提』という事なのかも知れない。


「そうです。千道さんはシロフクロウがパートナーでしたよね?」

「俺は前回のデータから始めているからな」


 サングラスにアロハシャツ、肩にはシロフクロウが乗っているというアバター。

 個人的には気持ちを切り替えて新規スタートでも良かったが、せっかく順調に進めていたので、前回の続きからそのままプレイしているという形だ。

 ユキのコーディネートを変えるのも悪いのでチンピラ千道のままである。


「しかしそうだな……。俺もフクロウにヒントを聞いてみるとするか」


 後発のユキに遅れを取ったままでは沽券に関わる。名探偵としてヒントに頼るのは避けたかったが、このままではユキに『まだ第三話なんて草生えます!』と煽られかねない。ここはプライドを捨ててお助けキャラの出番だ。

 だがしかし、俺のお助けキャラであるフクロウは予想外の反応を見せた。


「……おいカリン。このフクロウ、ホーホー鳴くだけでヒントをくれないぞ」

「何言ってんのよ。そんなのフクロウなんだから当たり前でしょ」


 くっっ、正論……!

 なんという事だ、課金フクロウはお助けキャラではなかったのか……!


 カラスはヒントを喋ってくれると聞いたのに、なぜこんなところでリアリティを追求してしまったのか。しかも無駄にリアルなフクロウボイスである。


「カァッ、この鳥畜生が役に立つわけねぇぜ!」


 ここぞとばかりに大見得を切ってしまうラス。

 俺がフクロウを選んだことを根に持っているようだが、軽いジョークで選んだばっかりにフクロウが敵対視されているので申し訳ない気持ちだ。


「拗ねるな拗ねるな。ところで、ラスの場合だとどんなヒントが貰えるんだ?」


 ふと気になったのでユキに尋ねてみた。

 課金パートナーのラスはお助けキャラとして有用だと聞いているが、果たしてどのような形でヒントを出してくれるのか。

 俺の素朴な疑問を受け、ユキは実演がてらラスをタップしてくれる。


『――カァッ、犯人は山本だぜ』


 なっっ!?

 そんな、ダイレクトに犯人を教えている……!


 犯人を特定していながら遠回しに教えるのは嫌らしいとは思うが、この身も蓋もない所業は推理ゲームとして許されるのか。


「ある意味では現実準拠なのかも知れないが、フクロウとの性能差が尋常ではないな……。狩猟でトドメだけを任されるようなものだろうか」


 このチートカラス、完全なマスコットキャラであるフクロウとは雲泥の差だ。あまりにも優秀過ぎて盛大なネタバレを喰らってしまったほどである。


「カァッ、今からでも遅くねぇぜ。その鳥畜生をお役御免にしてやりゃあいい」


 さりげなくフクロウを解雇させようとする狡猾なカラス。

 フクロウを解除して自分を選ばせる魂胆なのだろうが、ゲーム性を考慮するならフクロウとラスの中間くらいのお助けキャラが良いと思わなくもない。

 それにラスの提案には大きな問題がある。


「いや、それがだな……このフクロウを解除しようとすると『保健所に送りますか?』という選択肢が出てくるんだ」


 そう、お助けキャラの変更には非情な決断を要求されるのだ……!

 俺としては軽いジョークでフクロウを選んだだけだったが、このような非情な選択肢を迫られては『はい』を選べるはずもなかった。

 そんな不満に、カリンが訳知り顔で応える。


「ふふん、ペットを飼うって事には責任を伴うのよ。中途半端な気持ちでペットを飼うなんて事は許されないわ」

「ソシャゲなのに厳しすぎるだろう……。せめて動物園で引き取るという形にしてやってくれ。そちらの方がリアリティがあるだろう」


 カリンの倫理観の高さは評価すべきだが、ユーザーの心にトラウマを残しかねない仕様には賛同しかねる。なぜゲームで厳しい世界を突きつけてしまったのか。


「そもそもこのゲームは序盤から難易度が高過ぎるな。カリンは賢いから基準が高いのだろうが、商業展開するなら一般ユーザーに合わせねばならんぞ」

「……し、仕方ないわね。そこまで言うなら考えておいてあげるわ」


 趣味でお助けキャラを選んだユーザーには攻略困難なので指摘しておく。ゲーム進行で行き詰って保健所送りに葛藤してしまうのは明白なのだ。


 雨音の手配によるソシャゲ運営会社は内容に踏み込まないようだが、俺は公平なテストプレイヤーとして物申さずにはいられない。


 まぁしかし、このゲームは難易度調整の問題さえクリアすれば完成度は相当なものだ。このソシャゲが宣伝になって千道探偵事務所が繁盛するとは思えないが、カリンの趣味で作ったソシャゲが利益になるなら喜ばしい事だろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百一六話〔見逃さない不審者〕

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