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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第四部 消失する綿貫

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百九話 華麗なる侵入者

 光あれば闇があるというわけではないが、どのような施設にも人口密度が低い場所は存在する。今回の目標などは横に広いタイプの施設なので『穴』が出来るのは当然だ。というわけで、ラスは首尾よく施設の死角と言える場所を見つけてきた。


「……うむ、なるほど。この辺りなら人気も少ないから侵入しやすいな」


 そこは教団施設の側面。

 施設の周囲は塀で囲まれているが、この程度の高さなら乗り越えることも難しくはない。監視カメラも見当たらないので絶好の侵入スポットだ。


「カァッ。この北東側は一般信者の立ち入りが禁止されてるからな、相棒が侵入しても信者と遭遇するリスクは低いぜ」


 その辺りの情報は一般向けのパンフレットに記載されていた。なんでも北東側のエリアは組織の幹部が住んでいる居住区画という事らしい。


「標的の男が入ったのは二階のあの部屋だ。例の子供と護衛も一緒だったぜ」 

「よくやった、実に見事な仕事だな。あとは侵入するタイミングを教えてくれ」


 優秀な斥候の頭に手を置き、親指で優しく額を撫でてやると、ラスはむずがりながらも「クアッ」と嬉しそうな声だ。


 しかし、恐るべきはラスの斥候能力。

 廊下に窓がある建物では人の動きが筒抜けになるので、標的の居場所の確認だけでなく、塀越しであっても侵入のタイミングを計りやすいという利点もあるのだ。


「――よし、では行ってくる」


 ラスの合図を受けた直後、俺は壁を蹴ってひらりと塀を乗り越えた。すかさず施設の壁面に駆け寄り、常人の域を超えた跳躍力で跳び上がる。


 ガシッと掴んだのは二階の窓枠。

 懸垂の要領で身体を持ち上げ、窓のカギを動け動けと念じて解錠。そして素早く窓を開け、華麗にスタッと二階の廊下に侵入を果たした。


 この間、十秒にも満たない早業だ。


 我ながら探偵スキルより空き巣スキルの方が高いような気がしないでもないが、家族の為に役立っている技術なので悪い事とも言い切れない。


 俺の最優先事項はミスミの平穏な生活。その為には組織の思惑を知る必要があったので、俺には似合わない空き巣スキルを発動してしまったのだ。


 もちろん俺は平和主義者なので積極的に敵対するつもりはない。邪魔の入らない状況を得たところで、組織の幹部と平和的に会談するつもりでいる。

 しかし、そこで状況は予想外の方向に転がる。


「――そこに居るんでしょ? 遠慮しないで部屋に入っておいでよ」


 その子供の声が聞こえたのは、俺が部屋の前に立った直後だった。

 キツネ男たちが入室した部屋。俺は物音を立てていないにも関わらず、部屋の中から見透かしたような声が聞こえてきたのだ。


 廊下に隠しカメラでもあるのか? と、首を捻りながらも心を切り替える。

 俺は話し合いに来ただけなので、機先を制されたところで何も問題は無い。

 ここは堂々と入室すべきだろう。


「うむ、失礼するぞ」


 俺が毅然とした態度で入室すると、部屋に居た三人から視線が集中した。

 キツネ顔の男、護衛らしき男、それから『奇跡の子』と思しき少年。そして俺と目が合った直後、その少年は狂ったように笑い出した。


「アハハハハッ! すごい、すごいよパパ!!」


 底知れぬ狂気を感じさせる少年の哄笑(こうしょう)

 何がそれほど愉快なのか、粘ついた悪意を放ちながら歪んだ顔で笑っている。


 傍らのパパ――キツネ顔の男に顔を向けながらも、獲物を逃がさないかのように俺から視線を外していない。俺を前にしてこんな態度を取る子供は初めてだ。


「こんなの初めてだ、()()()()()()()()()()()()()()()()! パパ、このおじさんはすごいギフト持ちだよ!!」


 なるほど、そういう事か。

 少年が『ギフト』と呼んでいるのは超能力。

 そして発言内容から察するに、この少年は触覚で超能力者を見分ける能力を持っているのだろう。それならば俺が部屋に入る前から知覚していた事も納得がいく。


 まだ若者と言える俺がおじさん呼ばわりされているのは少々気になるが、とりあえず大事な事を確認しておくとしよう。


「――――()()()


 少年の声に差し挟んだ言葉。この三人の立ち位置を確かめるには最適な単語だ。

 ミスミと無関係な人間であれば人名である事すら分からないはずだが、あの少女に何らかの思惑を抱いている人間であれば反応を見せるに違いない。

 そして、俺の思惑は的中していた。


「ミスミ? お前は綿貫ミスミの関係者か?」


 俺が感情を読むまでもなく、キツネ男はあっさりとその名を口にした。

 組織の上層部がミスミに関わっていると考えていたが、これで確証が取れた形だ。おそらく信者にミスミの母親を名乗らせて調査依頼を出していたのだろう。


「その通りだ。お前たちが密かに調査していた、綿貫ミスミの関係者だ」

「どうやってここが……」

「なぜお前たちはミスミを調査していた? その子供の能力でミスミを見つけたようだが、同じ能力者として仲間に引き入れるつもりなのか?」


 困惑するキツネ男に構うことなく質問を放つ。

 俺の家族をストーキングするような輩に礼節は無用だ。手っ取り早く情報を引き出してから対応を考えさせてもらう。


「……ミスミを組織に勧誘する意思はない? では、危険因子として警戒していた? それとも能力とは無関係?」


 しかし俺は相手の反応に戸惑っていた。ミスミを組織に勧誘することが目的だと考えていたが、三人の反応は『否』だったのだ。


 危険な超能力者としてマークしていたのか、能力とは無関係に興味があったのか、と思いついた事を次々に並べてみるが……そのどれもが空振りに終わった。

 俺が頭を悩ませる中、こちらをじっと観察していた存在が口を挟んだ。


「ねぇねぇ、おじさんはどんなギフトを持ってるの? ぼくに教えてよ」


 一連のやり取りを意に介していない子供の声。キツネ男や護衛と違って、この少年だけは初対面から今に至るまで感情に変化がない。


 そこにあるのは圧倒的な悪意。

 小悪党臭が漂っているキツネ男と比べれば、この少年は桁違いの難敵だ。


「人に尋ねる時は、まず自分からだ。お前が正直に言ったら俺も教えてやろう」


 それでも俺は少年の更生を諦めない。

 たとえどれほど歪んでいようとも、この少年はまだカリンやユキと同年代の子供だ。少しずつでも正しい道に導いてやるのが大人の役目だろう。


「ふ~ん、じゃあ後から聞こうかな。たぶん泣きながら教えてくれると思うよ」


 少年は口元を吊り上げてそう言った。

 これは怒っているわけでも脅しているわけでもない。ただ純粋な気持ちで、俺が屈服する事を楽しみにしている。

 元より分かってはいたが……やはり一筋縄ではいかない相手のようだ。


あと三話で第四部は終了となります。

明日も夜に投稿予定。

次回、百十話〔恐るべき能力〕

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