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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第三章【水辺の乙女と青い灯台】

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第八十三話「ララさんのナノマシンの方がすごいと思います」

 旅の空では、野宿が基本となる。

 都合良く人の気配のある村にたどり着くことは、かなり村自体の距離が近い密集地か、馬車や魔導具の乗り物などの高速移動手段を持っていないと難しい。

 そう言うわけでハギルからヤルダにかけての周辺地域ほど人もおらず、のんびり徒歩での三人旅であるララたちは今日も今日とて日の暮れないうちに野営の準備を整えていた。

 見渡す限り青々とした草の繁茂する広大な草原の真ん中、小高い丘の天辺。

 ここは周囲とは違い、局所的に草が禿げて地面が露出していた。

 三人はここを今日の野営地と定め、今ではもう慣れた連携を見せてリズムよく作業を進めていた。


「しかしまあ、毎日毎日建てては片づけて面倒くさいわね」


 ララはロッドの背中から大きな布をおろしながら辟易したように言う。

 彼女が持っているのは野営の肝である雨風をしのぐテントだ。

 テントとは言ってもそれほど大がかりなものではなく、船の帆のような撥水布と二本の支柱と太いロープをセットにしたものだ。


「そんなこと言ったって、これがないと急に雨でも降ってきたら一瞬でずぶ濡れだぞ」


 ララから支柱を受け取り地面に突き刺しながら、イールが言う。

 彼女は鎧を脱ぎ捨て、長い赤髪も何度か折る様にして小さく纏めて少し白いうなじを見せている。

 一応腰に剣を佩いてはいるが、武装よりも動きやすさを優先した作業モードである。

 ハギルから出発して数日。

 これまでも何度か野宿を経てきたが、幸い雨に降られることは無かった。

 とはいえ天気と女の機嫌ほど変わりやすい物はないというほどであるからして、野ざらしで寝るのはララでも気が引けた。


「まあ、それはそうなんだけど……」


 納得はしているが面倒なものは面倒に変わりなく、ララは唇を尖らせながら作業を続ける。

 支柱の間に撥水布を一枚敷き、支柱の先にロープを渡す。

 ロープの上にもう一枚撥水布を真ん中を通すように置けば、簡易的ながらも誰が見てもこれはテントであると断言できるような三角屋根の寝床が完成した。


「初めて見たときは随分簡単にできるから楽そうだと思ったのにな」

「あはは。やっぱり毎日野宿だと大変ですよね」


 酷使した腰を労るララに笑いかけるのは、野営地をぐるりと覆う大きな円を地面に描いていたロミだった。

 彼女もまたイールと同じく身軽な服装だった。

 いつもの分厚く重い神官服はララたちの荷物と纏めて置かれ、その下の簡素な内着だけになっている。

 神官服が重たい分、内着は極力軽く動きやすく作られているため、その装飾などを徹底的に排した上下は、普段のロミとはまた違う、明るい雰囲気を醸していた。


「あ、ロミもお疲れさま。しかしキア・クルミナ教秘伝の祓魔陣だっけ? これこそ描くのも消すのも一苦労よね」

「ありがとうございます。でも、慣れればあまり難しい作業でもないんですよ」


 ララとイールがテントの準備をしている間、ロミが地面に描いていた円。

 それは、魔物が入ることのできない聖域を簡易的に再現し、結界を形成する魔法陣だった。

 今日の野営地は見晴らしのいい草原。

 それも小高い丘の上だ。

 視界が開けているということは彼女らを餌と見なす飢えた魔獣たちからも見つかりやすいと言うことだった。

 そのためロミは野営の準備に入る際、野営地を草原の中でも土の露出したこの場所を提案した。


「草地だと陣が描けないので見張りを立てる必要がありますが、ここなら陣も描けるのでみんなでぐっすり眠れます」

「ロミの魔法は便利だな」


 イールはしげしげと地面に描かれた二重の円とその縁の間に隙間無く並べられた魔法的な意味を持つ模様を見る。

 その分野はからきしなララやイールには、その模様がどのような意味を示し、どのような作用でこの陣が機能しているのかはわからなかったが、とりあえず”なんだかすごい”ということだけは分かった。

 祓魔陣は一応、キア・クルミナ教の神官にのみその扱い方が伝授される秘術の一つである。

 そのため以前はロミもララたちの前で使うことは無かったのだが、先日ハギルの神殿でレイラへと伺いを立てたところ、あっさりと使用許可が降りた代物でもある。

 そのときドキドキと激しく胸打つ鼓動を隠しながら緊張の面もちで尋ねたロミとは対照的に、レイラは「え? まだ使ってなかったの?」という極めてフランクかつ力の抜ける言葉を放った。


「えへへ。でもわたしよりララさんの方がよっぽどすごいと思いますよ」

「どうかなぁ。とりあえず、私にはこんな事できないよ」


 どこまでも謙虚なロミは謙遜してそんなことを言うが、ララは首を傾げる。

 以前二人にも話した様に、彼女の使うナノマシンは基本的に個人の範囲でしか効果を発揮できないものなのだ。


「さて。テントも張ったし次は火の準備だな」

「あ、それなら私が取ってくるよ。さっき調査したときに手頃な石をいくつか見つけたの」


 寝床が終われば、次は火である。

 イールの言葉を受けてララは立ち上がり、颯爽と陣を飛び越えていった。

 そんな彼女の後ろ姿を見て、ロミはやっぱり一番すごいのはララなのではと首を傾げた。

 並の人間を凌駕するその身体能力は、それだけで大きな力だ。


「あっという間に行っちまったな。石を集めてる間にこっちも準備しようか」


 ララの小さな背中を眺めていたイールが、またロッドの背中から荷物を降ろし始める。

 ロッドも慣れたもので、おとなしく姿勢を動かさず、のんびりと首だけで雑草を食んでいる。


「あ、お鍋も降ろしますね」

「おう、頼むよ」


 仕事を探していたロミもロッドの背中から鍋を降ろすのを手伝う。

 底の丸い鉄の鍋は黒く油の染みた、長い時間丁寧に使われてきたことが分かる物だ。

 イールが旅を始めるときに買い揃えたものの一つでもあるそれは、ロッドの背負う旅荷の中でも特に年季が入っている。


「ついでに、鍋に水も汲んできてくれないか?」

「分かりました。じゃあ、ちょっと行ってきますね」


 イールに頼まれ、ロミは快く受ける。

 鍋を抱えて陣を跨ぎ、彼女は近くを流れる沢まで駆け下りていった。

 沢は野営地を決める際に重要視される項目の一つで、今回も丘にほど近い場所には小さな水の流れがあった。

 綺麗な水は、それだけでも重要な資源だ。

 人間が生きるためには水が必要で、旅の際に持ち歩ける量には限界がある。

 無限に水を手に入れることができる沢は、旅の中でも特に重要なのだ。

 しかも、今三人が目指しているのは海に面した港町だ。

 ララたちはこの沢にそって今後の道を進むことを決めていた。


「イール、石取ってきたわよ」


 イールが荷物を降ろし封を解いていると、無数の石を抱えてララが戻ってくる。


「おう、早かったな」


 流石の機動力と腕力のごり押しで凄まじいスピードを発揮したララは、これだけの石をものの数分で集めてきた。


「それじゃあ簡単にでいいから作っておいてくれ」

「分かったわ」


 ララは陣の中の一角、テントの前に石を円形に並べ始める。

 その円の中が火の領域、薪をくべて煮炊きをする場所になる。

 下が土であるため延焼の心配はないが、万一草原に燃え広がったら三人も生命の終わりである。

 火の手が届かないように十分距離を離した場所で、隙間無く石を並べる。


「ついでに薪も取ってきたから並べるよ?」

「ああ。火も付けといてくれて構わないぞ」

「はーい」


 今晩の食事となるベーコンや乾燥させた野菜を取り出すイールを尻目に、ララは並べた石の中に細かい枝を敷き詰める。

 周辺にまばらに生える木々の根本で拾ったそれは、連日の晴天で乾ききったものだ。

 薪も並べ終え準備を完了させたララは、おもむろに片手をかざす。


「『着火(イグニッション)』」


 白い光が稲妻のように走る。

 パンッと何かが弾けるような音がして、細い枝に小さな火がついた。

 白い煙をあげて徐々に大きくなる火を見つめ、ララは満足そうに笑みを浮かべた。


「……やっぱりわたし、ララさんのナノマシンの方がすごいと思います」


 そんな様子を、鍋に水を入れてようやく戻ってきたロミが羨ましそうに見ていた。

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