第97話/肌色の破壊力。
作ったダンジョンにエルモ、サリシアを連れて行ったらエルモに怒られた。
「うわぁ……いきなりアビちゃん先輩の非常識が炸裂してるぅ……」
「ストレートに酷くない?」
それでは『樹海のダンジョン(さっき命名)』の御開帳! とダンジョンマスターの指輪の権限にて樹木の壁に道を築き、まずは第一の領域をご覧あれとエルモ、サリシアさん、クイーンちゃんをご案内したわけだが。
目の前の光景を見たエルモからの冒頭のアレな第一声。しかも口調が素に戻ってるぞー。
その一方でサリシアさんは困惑気味に周りを見渡し、クイーンちゃんは顔に手を当ててなぜか溜息をついている。
「え? ここってダンジョン……なのですよね? え? なんで『お風呂』があるんですの?」
「やっぱりこういう反応になると思ったのです……」
三者三様のリアクションの前に広がるは、現代のスーパー銭湯のような多種多様なお風呂がある、床が滑らず転んでも安心な特殊な芝生が敷かれた浴場。
いや、よくない? ダンジョンに温泉とか。意外性もあるうえ、この異世界にお風呂なんて上等なものは金持ちや貴族以外には無縁なものだし、なによりオレ様がお風呂に入りたいというのもある。
今までは無属性魔法の『洗浄』にて身綺麗にしていたのだが、やはり生のお湯に入ってリラックスしたいのが日本人の心というもの。
ダンジョン作成の項目に『温泉』系があるのを見つけた時に有無を言わさず選択し、設備的に足りなかったダンジョンポイントについては文字通りオレ様の魔力を消費して補った。
おかげでこの素晴らしい光景になり、オレ様大満足。
尚、今は温泉を直に見てもらうために浴場の中の端っこにいるが、脱衣所も完備している。というわけで。
「まあここで見てるだけじゃわからないし、実際に体験してみるのが一番だと思うわけだよ。
ささ、脱衣所はこちらでございます」
「……何考えてるか丸わかりではありますけど、ええ、調査はちゃんとしなければなりませんからね。目を瞑りましょう」
別に入浴シーンを間近で体験したいとかやましい気持ちはないよ? あるのは正々堂々と一緒に入りたいという気持ちだけ!
しかしこれでオレ様の中身的に思われたエルモからお許しが出たわけで。
この外見に感謝である。
「わ、わたくしこのようなお風呂に入るのは初めてなのですが、大丈夫でしょうか?」
「サリシア様も難しく考えることはないのです。ただ裸になって入ればそれで気持ちいいのです」
お風呂が出来た当初は訝しんでいたクイーンちゃんも、お試しで実際に入浴したところお気に召したようで、それ以来すっかりリピーターと化していた。
そして三人を連れてダンジョンポイントで作成したガラス製のスライドドアを開け、すのこの上で靴を脱いでもらって脱衣所へとご案内。
もちろん靴は所定の靴箱へとしまってもらった。
「わぁ……完全に現代の脱衣所というか、高級温泉宿みたいな感じですね……」
「す、すごいですわ。高級な鏡があんなにたくさん……それに魔道具も……」
「お風呂上がりのイチゴ牛乳は最強なのです」
そうでしょうそうでしょう。感動してもらえてオレ様も鼻が高いよ。
木製ながらも現代と変わらないロッカーや休憩する長椅子に、ずらっと並ぶ簡単な仕切りで区切られた個室使用の化粧台が多数。
もちろん髪を乾かすためのドライヤーに、各種美容液、ついでに瓶に入ったミネラルウォーターをはじめにコーヒー・イチゴ・フルーツなどの牛乳系、果実系の飲料もご用意。
あ、ちなみにお風呂上がりのお酒は危ないので用意していない。
さてそろそろ本題へと入ろうじゃないか。
オレ様は三人に見えないようにあるものを取り出し、それを受け取ってもらおうと振り返って……目の前の光景に思わず叫んでしまった。
「あるぇぇぇ!? なんかもうすでに脱衣してらっしゃる!?」
「え? だって入浴するのに服を脱ぐのは当然でしょう?」
「むしろこんな素晴らしいお風呂を前に入らない選択肢などありませんわ」
「お風呂上がりのイチゴ牛乳があたしを待ってるです」
オレ様が勧めるまでもなく三人ともすでに服を脱ぎ始めていた。
うわーうわー、エルモが服をたくし上げて脱いだだけで白いブラに包まれた胸がぶるんって! ぶるんって弾けて弾けた!
サリシアさんは上品にボタンを外して脱いだら、シースルーの黒のネグリジェっぽいので意外と大胆だった!
ああ! クイーンちゃんまでもそんな無造作に脱いで、幼女から少女に成長したんだしもうちょっと恥じらいってものを……!
「はわ、はわわわわ……」
下着に手をかけて裸になっていく三人を見ているオレ様の脳がショート寸前で、もうどうしたらいいかわからない。
いやだってサリシアさんとクイーンちゃんはともかく、エルモはオレ様の中身が男だって知ってるよね!?
なんでそんな気兼ねなく目の前で全裸になれるの!?
オレ様としては密かに準備していたこの『湯浴み着』を着てもらって、チラ見する谷間や張り付いてみえる身体の曲線美とかを愛でようと思っていたのだけど!?
そんな直接的な女の子のエロスに対してオレ様の辞書に『耐性』なんて文字はないんだけど!?
「ん? アビゲイルさん? なんでまだ着替えてないんですか?」
「アビー姉様、一緒にお風呂に入りましょう?」
「着替え手伝うです?」
「え、あ、ちょっと待って、そんないっぺんに近づかれたら、オレ様の脳内回路が…………あふん」
大きくて、清楚で、慎ましいどこをみても肌色しかない三人が迫ってくるのを見て、自分でもわかるほどに頬が熱をもち目に涙まで浮かんできたところで、極度の興奮になったオレ様はあっさりと目を回したのだった。
アビゲイル『あああああ! は、肌色が! 肌色が近いー!! 〇✕◇△▢!!(脳内混乱中)』
田舎ということもり、こんにちより子供が公衆浴場の男湯女湯を行き来することに緩かった幼少期。
無垢な作者が(ほんとに小さい頃)石鹸だかタオルだかを母親に届けるために女湯へと入っていくと、そこには当時のクラスメイトの女の子がおり。
作者に気づいた笑顔の女の子に手招きされて脱衣所の隅に連れていかれ、
『作者君、男の子が女の子のお風呂に来るのはいけないことなんだよ? わかった? 絶対わかった? そうじゃないと先生に言っちゃうからね?』
と真顔で淡々とお説教されて男湯へ強制送還された思い出があったりなかったり。




