第96話/勢いが付いたままノーブレーキ。
ゴブリンから助けた魔物娘ちゃんに、ダンジョンポイントのために魔力供給したらゲロった。
オレ様の魔力の一時的な過剰供給により、吸収の限界を超えた魔物娘ちゃんであるラーシアが吐き出した白濁としたゲロにまみれてしまったクイーンちゃんを、洗い乾かし慰めることにしばらく時間を費やした。
ちなみに白濁としたゲロのようなものはラーシアちゃん曰く『人間の吐瀉物とは違うもので、いわゆる樹液化した魔力』らしく、あとでラーシアちゃんの触手が改めてそれを吸収して綺麗にしていた。
そして再びラーシアちゃんに供給していたオレ様の魔力が半分ほどになった頃、そこで一度ストップがかかってダンジョン構築の話が再開する。
「それで結局ダンジョンポイントとやらはどれくらい溜まってる?」
「すごいとですよ。これなら丸々一フロア分賄えるとです」
「アビーって、ほんとに意味不明なくらいすごいのです」
「はっはっはっ、さすがはオレ様。ついでに魔力供給、もう一本いっとく?」
「ひいっ!」
気をよくしたオレ様の発言に、バッという勢いで距離を取ったクイーンちゃんが青い顔をしている。
どうやら先ほどの件ですっかりとトラウマになってしまったらしい。
「さすがにこれ以上は許容量を増やしてからにするとです。それでダンジョンはどんな風に作るとです?」
「どんなって言われても……ここはアビーにお願いするです」
「ん-、オレ様としてはフィールド型、階層型、塔型がスタンダードだと思うんだけど――――」
ゲームでの知識を掘り出しつつ二人に説明していく。
フィールド型は主に森や火山、海等の自然を生かした広域なもので、階層型はその名の通りに様々な魔物や罠を階層ごと分けらたもの。塔型は一階ごとに難関な問題や戦闘をしていく、という感じで大雑把ながら各型の特徴をあげてみた。
「管理としてはフィールド型が楽そうだとです」
「でも階層型なら冒険者がなかなか辿り着けないと思うです」
「塔型にして最上階から一階まで没シュートでやり直しとか?」
「「いやさすがにそれは可哀そうだと思う(と)です」」
『嘘だろおおおおっ!?』とか言いながら落ちていく姿は見ていて面白いとおもうんだけどなぁ。
そうして話し合う中でどんどんと新しい案や考えが出てきては弾み、オレ様がアイテムボックスから提供したお菓子等で小休止しつつ、ダンジョン作成計画は進んでいった。
そう、進んでいった。それはもう『自重』という言葉を忘れたかのように進んでいった。
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ダンジョン作成計画の話し合いから数日後。
広大なもはや樹海ともよべる森を前にした草原にオレ様ご一行は到着していた。
ぽかぽかと暖かい日の光に優しくそよぐ風が頬にあたり、レジャーシートでもあったら寝転がってうたたねしてしまいたいほどのいい天気。
「とりあえず、アビちゃん先輩はそこに土下座してください」
「……はい」
そんな中、樹海が目前に広がる草原の一画で笑顔が怖いエルモの前に土下座を敢行することになったオレ様です。
なんでこうなったかというと、原因はすべて目の前の樹海というかすぐそこで気まず気に目を反らしているクイーンちゃんも関わった、ダンジョン作成計画の結果による弊害というか。
「『ちょっと見て欲しいものがある』ということで連れてこられて、なぜか領主代行のサリシア様まで一緒な上に『ちょっとダンジョン作ったんだけど、どう?』とか言われたあげく、全然『ちょっと』じゃない規模の『ダンジョン』を前に私はいったいなにをどうしたらいいんですか?」
あ、やばい。マジで激おこでいらっしゃる。あの微笑みながらこめかみに青筋浮かんでるのは『休み前日の終業間際に上司から急な休日返上の仕事を振られた』時に見た顔だ。
あの時は休日返上で仕事した晩に『あたしが奢りますから!』と呼び出され、上司の愚痴を肴に強いお酒を次々と空けてぐでんぐでんに酔ったあげく、締め?のゲームセンターでオレ様と適当に遊んだパンチングマシーンを『こんのバカ上司の頭頂部薄らハゲがーっ!』という一括のもとにビンタを叩き込んだら、ものすごい音を立てて倒れた機械がエラー表示で動かなくなったりしたっけ。
その翌日にかかってきた電話で酔った後の記憶がないというエルモから『先輩、なんか右手と手首がものすごく痛いんですけど……』と言われた時にはいい接骨院を勧めておいたけど。
まあ懐かしい思い出はともかくとして、今は目の前の怒られ案件をどうにかしないといけない。じゃないと永遠と怒られる未来しか見えない。
「アビ姉さま、さすがにわたくしもこの状況は理解が及ばなく、ご説明をお願いしたいのですが……」
腕を組んで激おこのエルモの隣にいるサリシアさんはどこか困惑気味な顔でいらっしゃる。
ちなみに本来なら領主代行に護衛が必要なんだけど『オレ様とエルモがいれば問題ないよね?』とオレ様が言ったところ、サリシアさんと兵士一同が『まあ、そうですね』とあっさり了承した為、この場にいるのはオレ様とエルモ、サリシアさんにクイーンちゃんだけだったりする。
ちゃんとダンジョン喰らいや変態騎士団長を張り倒した実力は認められたからだろう。
決して『魔物とかと戦ってるときに護衛もまとめてぶっ飛ばしても事故だよね?』なんて、口からぽろっと出た言葉を聞かれたからではないと思う。
あとクイーンちゃんはギルドの調査員という名目でエルモに同行している。
ともあれエルモからのお説教を回避するには、早めにダンジョンへと案内したほうが良さそうだ。
なので説明!
「かいつまんでいうと、三日前にダンジョンコアと知り合って意気投合したので勢いでダンジョン作成してみた! あ、それとオレ様ダンジョンマスターのリングっていうのを貰って、ある程度ダンジョンを好きにできたりする」
正座のまま気軽に、ほれ、と皆にオレ様の細くしなやかな右手の薬指に嵌まっている飾り気のない金色の指輪を見せた。
ダンジョンの作成中にラーシアから『アビーも直接弄れた方が早いとです』と、けっこう気軽に渡されたダンマスの権限を付与された指輪である。
「……もう情報量が多すぎてどこから突っ込んでいいかわかりません」
「……アビー姉様の規格外がここまでくると最早笑うしかありませんわ」
やだなぁ。二人してそんな困った生徒を見るような目で見なくても。
まあとりあえず直にダンジョンを見てもらうことにしよう。ついでに正座してる膝がニーソ履いてるとはいえ地面の小石にあたってて地味に痛いんだこれが。
しかしこれでエルモからのお説教は止まった! そのままの流れでダンジョンへと案内するために立ち上がる。
「それじゃこっからは見学会ということで、オレ様が案内するから。あ、はぐれた子は迷子になって森の養分になっちゃうので気を付けるように」
「アビー! アビー! それって冗談なのですよね!?」
「……なんかさらっと怖いこと言ってますけど、大丈夫なんでしょうかエルモ様」
「まあ、あの人は基本的に女の子を危険な目に合わせるようなことはないので、大丈夫でしょう。多分」
はいはいー。皆遅れないようについてきてねー。
こうして三者三様に微妙に不安げな表情をする三人を連れて、オレ様は意気揚々と樹海ダンジョンへと案内する為にダンマスの指輪を樹海へ向けて光らせたのだった。
ふう、お説教はなんとか誤魔化せた!
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学生の頃、パンチングマシーンをグローブつけずに「空手やってるオレの実力みせてやる!」って意気込んで一撃見舞った同級生。
翌日、病院で小指の亀裂骨折という診断の元、小指にギプスで登校してきました。
作者がやったパンチングマシーンの数字見て「うわ、ひっく。ダサw」なんて応援されたんで、作者もギプスに『ねー今どんな気持ち?♡』ってお見舞いメッセージをマッキーで書いてあげました。




