第91話/我が生涯(選択)に一片の悔いなし。
夏の暑さで今までへばってました!
あと食欲は落ちるけどアイスがおいしいのはなぁーぜなぁーぜ。
残念天使から元の世界に帰れることを教えられた!
元の世界に帰れます、なんて急に言われてもなぁ。
目の前の残念天使ことエルミナスの表情を見ても、どうします?と小首を傾げるだけで嘘をついてるような様子はない。
しかしそもそも論として思うことがあり、
「元の世界に帰れるのはわかったけど、異世界に来れたのって、自分が死んだから来れたんじゃないの?」
異世界転生物の定番としてなんらかの原因で死ぬか、転生を目論んだ何者かに謀殺されるとかあるしね。
「いえいえ、アビゲイルさんの本体というか元の世界のご自身はばっちり生きてますの」
え、それってつまり、
「今のオレ様って本体のコピーかなんかなの?」
「今のアビゲイルさんは本体の魂から分割した魂で新たな肉体を構成しているので、コピーではなく本体の一部と言えますの」
エルミナス曰く魂を分割しても十から一を引くようなもので、元の身体の寿命やら体調やらには影響がないとのこと。
「ちなみに元の世界に帰るっていうのは、分割された魂が一つに戻ると思ってくれたらいいですの。 その場合は異世界にいた記憶はなくなりますけど」
そんな勿体ない! 異世界転生の記憶をなくすなんて。
異世界転生もののラノベを読むたびに「自分がそうなった場合の物語」を幾度妄想したことか。
「ここだけの話、実は転生者様にはなるべく異世界に留まって欲しいんですの。 この世界の住人では対処できないなんやかんやをお願いしたくて。
でもやっぱり人や魔物を倒したり、元の世界のような文化的な生活が出来ない事が不満でなかなか・・・・・・」
ん-、確かにこの異世界には電化製品とかないもんなぁ。
コンビニもなければネットカフェもない。
ついで一歩外に出れば魔物や盗賊なんていう、自分の命を狙ってくる存在もいるわけで。
元の世界ではほとんどない血なまぐさいことも日常茶飯事とくる。
それに適応出来なければ、強い弱い関係なく不便で辛い世界だろうとは思う。
しかしオレ様は不便を楽しいと思ってしまう性分なわけで。
「とは言うものの選ぶ権利はアビゲイルさんにありますので、元の世界に戻るか異世界に残るか選んで欲しいですの」
「じゃあ異世界に残るってことでよろしく」
「わかりましたの。元の世界に戻るということで・・・・・・今なんて!?」
やっぱり戻りますよねそうですよねーと、手元を操作しながらブツブツ呟いていたエルミナスが急激にグリンと顔をこちらに向ける。
瞳孔が開かんばかりに目を見開いてる顔がちょっとホラーちっくで怖い!?
「さっき異世界に残るっていいましたの!? 言いましたね!? 撤回はできませんですの! ほんとにいいんですのね!? 」
なんか確認の圧が凄い。
「そ、そうだけど。やっぱりやめた方がいいとか・・・・・・?」
「いえいえ! こちらとしては非常に喜ばしい事ですの! では早速契約をして欲しいですの!!」
こちらにサインを! とエルミナスから胸元から取り出した紙を手渡される。
一応書かれてる内容を確認してみるも「私は異世界へと残ることを承諾します」の一点のみ。
・・・・・・シンプルすぎない?
そう思いつつも署名欄に名前を書いて手渡す。
エルミナスはそれを大事そうに受け取り署名を確認すると、折りたたんでまた胸元へとしまい込む。
「これで契約は結ばれましたの。後は自由に過ごしてもらって構いませんですの。
たまに神託という名のお願い事を聞いてもらえれば嬉しいですけど。
あ、それとここからは異世界に残る方へのちょっとした講座というか注意事項になるのですが――――」
そこからエルミナスの話は続いたが、その内容はそんな難しいものではなかった。
まずこの世界の成り立ちについてというか、ゲームとの関係性について。
簡単に言うとオレ様が転生するきっかけとなったゲームは、異世界を元にして作られたものなのでアイテムやスキルや魔法はもちろん、エピソードやイベント等も過去に実際にあったものだという。
なのでゲーム知識の大半は異世界でも通用すると聞いて一安心。
次に異世界での生活だけど、基本的に自由に過ごしてもいいけど節度は守ってね? とのこと。
特に世界が滅ぼすようなことに加担すると、リアルに天罰が下るようだ。
あと元の世界に帰れることは”転生者同士”以外では話したり伝えたりできないように、言動が制限されるらしい。
これは基本的に転生システムの外からの召喚や転生転移してきた者は、元の世界との繋がりが断たれている状態なので戻ることが出来なく、ついでに言えば戻れないことを知った者が早々に自暴自棄に陥って暴走したりしないような予防策でもあるという。
ま、そういう者がいたら陰ながら手助けするのも吝かではない。
それとGPは異世界に残る場合は使用不可になると言われ、ちょっと残念だった。
「注意事項は以上になります。あとはアビゲイルさんに対する報酬のお話になりますの。 ぶっちゃけ、なんでも一つだけ願い事を叶えることが出来ますの」
なんか七つ集めたら出てくる神の竜みたいなことを言われた。
しかしなんでもか。逆にそれって悩みどろころである。
「例えるなら能力アップでも新しい魔法の習得でも可能ですの。 あとはお城が欲しいでも伝説の武器が欲しいでもいいですし、あ、過去には容姿や性別、種族の変更を叶えた方もいますの」
そんな話を聞いてしまうとますます選択肢が無限大になるんだけど。どうしたもんか。
・・・・・・あ、ちょっと待てよ。
「なあそれって、元の世界のオレ様にも適用されたりする?」
「あー、元の世界のアビゲイルさんに関することでも確かに可能ですが、その場合世界が違いますので叶えられることにすごく制限がでますの」
エルミナス曰く、制限の幅は大きく自身に関するささいなことしか叶えられないようだ。
でもまあそれで充分。
確かに新たな能力や魔法等は魅力的だけど現状に不満はないし、もし力が及ばない敵が出たら即逃げればいいと思ってる。
というわけで、オレ様はほくそ笑みながら決めた願いをエルミナスへと告げるのだった。
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その日の昼休みも返上してやるべき最低限の仕事をこなしたオレは、会社を定時で上がりゲームセンター前へと来ていた。
なぜならこの日は好きなファンタジーゲームのキャラフィギュアが、UFOキャッチャーに設置されるからである。
メインキャラではないけどオレは一目見た時からそのキャラを気に入り、それがUFOキャッチャーに登場するという情報を掴み、今日という日を楽しみにしていた。
店に入り日々の買い食いを控えて捻出した諭吉さんを一枚、両替機にてお金と替えていざ目的の戦場へ。
店内にある三か所の戦場はすでに二か所が押さえられていて、ギリギリ最後の戦場を確保することが出来た。
そして、いざ、出陣!
――――10分後。
ちくしょー・・・・・・もはや20枚の弾丸を消費しているにも関わらず、仕留めることが出来ていない。
しかしここで諦めるわけにはいかない。
なにしろ三台あるうちのこの一台しか目的のキャラフィギュアがなかったうえに、ポップに「在庫なし! 現品限り!!」と書かれていたらやるしかないだろう。
追加で10枚を消費したところで、オレの隣にすっと並ぶ影が一つ。
いかん、もしかして順番待ちの人だろうか。
目的のフィギュアを取るまでは譲りたくはないけど、気づいた以上はずっと独占しているというのは小心者の心情的に罪悪感が・・・・・・!
あ、やめて! そんな近くで覗き込まないで!
これで「次いいですか?」なんて言われたら譲るしかなくなってまう! モラルとして! 大人として! 小心者として!!
って、ちらっとみたら高校生くらいの女の子!?
うっわ、髪が腰ほどで長くて艶っぽくて綺麗だしその学生服っぽい白シャツに赤と黒のチェックのミニスカートも似合ってるし、なによりニーソと絶対領域が素敵と言うかこっち向いた!?
チラ見だったけどすごく可愛い上に細い身体のわりに強調される胸がけしからんというかここで譲ってなんて言われたらもう不可避ー!!
「ねえ、お兄さん。オレ様、じゃなくて私も一緒にやってもいい?」
「別にいいけど・・・・・・って、はい?」
疑問に対して脊椎反射でYESしたけど、まさかの提案に思わず聞き返してしまう。
そんなオレに、にひっと悪戯っぽく笑う女の子の顔は、どこかでみたことあるような気がしてならなかった。
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女子高生と目が合ってじっと見つめられるドキっとする作者です。主に通報されないか的な意味で。
いや、作者はなにもしてませんよ?




