第90話/降臨せしは残念天使?
長らくお待たせしました!
五月病って怖いですね!(大嘘)
ヴィンセクト(変態)と対峙して退治したら、魔剣が覚醒して魔剣獣になったのでみもふたもなくぶっ飛ばした。
空の茜色が夜の黒へと塗り替えられ、街の明かりが建物の影を地面に移す頃。
突如現れた魔剣獣なるものが滅びた後、負傷者の手当やヴィンセクトの捕縛等を終え、ようやく一息つけた。
ちなみにそのヴィンセクトなのだが、捕縛されても暴れることもなく、それどころか、
「騎士として人として恥ずべきことをした。ここで首を切り落としてくれまいか?」
などとのたまう始末。
すわ演技か変な状態異常か、と思って鑑定してみると、
状態:賢者モード(大きな欲望が失われ、無駄に冷静沈着、消極的になる)
使用後か! とツッコミたくなるくらいに、ある意味で妙な状態異常になっていた。
確かに魔剣獣が欲望をなんちゃらと言っていたけど、どうするんだコレ。
「害がないならむしろそのままでいいのでは?」
というエルモの言があり、そのまま捕縛。
今度は脱走やら何やらできないように、エルモが内外的に影響を受けない呪符による封印を施して兵士へと引き渡した。
「さて、これでようやく休めますね」
「それがフラグじゃなかったらねー」
オレ様の言葉を聞いてエルモの肩がビクリと跳ねる。
――――お仕事は、終わったあとに、追加くる――――
元の世界のブラック会社で学んだオレ様の格言である。
「そ、その時は、一緒に着いてきてくれますよね?」
そんな不安げな声を出すエルモに、オレ様は笑顔でサムズアップして、
「大丈夫。エルモならきっと出来るって」
「やだーっ! それって「応援するけど、だが断る!」って暗に言ってるやつじゃないですか!!」
「ハッハッハッ」
さすがはエルモ。裏の意味に気づいたか。
迂闊に「はい」と言質を取らさず躱す、これがオレ様の余計な仕事を負わない出世術。
伊達に幾度となく「あ、いまちょっと時間ある?」「はい」的な会話の流れで、追加で仕事をさせられてきた経験があるわけでない。
「ギルド長殿! 少しよろしいでしょうか」
「ひいっ! まさかフラグがやってきて・・・・・・!?」
今まさにそんな会話をしている時にやってきた兵士の一人から声に、エルモがビクリと小さく飛び上がり引きつった笑顔で恐る恐る振り向く。
「あ、あの、これは別に仕事をしたくないわけではなくてデスネ・・・・・・?」
「サリシア様よりお二人に「要請に応えて頂き感謝いたします。報告等は後日で構いませんので、ご
ゆっくりお休みください」とのことです! それでは失礼いたします」
それだけ言うと兵士のおっちゃんは敬礼してどこかへ去っていった。
エルモ、ビビりすぎである。
「さ、さすがはサリシア様ですね! わかってらっしゃる!」
「あ、でもさっきのおっちゃん兵士がまた戻ってきたよ?」
「なんでーっ!?」
どうしよう。更にビビり倒して焦るエルモが面白すぎる。
ちなみに嘘だけど。
「ちょっと、誰も来てないじゃないですか――――って、なに顔そらして肩震わせてるんです!? ひどっ! 嘘つきましたね!?」
「ごめん、必死なエルモが面白くて、つい・・・・・・ぶふっ」
「もーっ! こんなことやってないで帰りますよ! ファンナが待ってるんですから!!」
「わかったわかった」
早く行きますよ! とぷりぷり怒って歩き出すエルモの後ろを、オレ様は追いかけるのだった。
=====
「・・・・・・オレ様、確かエルモやファンナさん達と宴会まがいのことして、そのまま流れで空き部屋で寝たはずなんだけど」
それがなにゆえこんな真っ白な空間にいるのか。
自分の姿は転生した我が子のまんまなんだけど、他はどこを見ても白い空間が続く地平線ばかり。
あれー? 確かヴィンセクト脱走事件の後、エルモが住む大きなお屋敷まで連れて行かれて、そこの一室でファンナさんの手料理をご馳走になって。
んで、手料理のお礼にとGPでお酒やらお菓子をお返ししてたら、屋敷の共同管理の名目で他の部屋に住む受付嬢さん達がいつの間にかこっちを扉の隙間からじっと見ていて。
野郎ならまだしも、女の子達の参加は歓迎なので「おいでおいで」したところ、そっからお酒も入って宴会まがいの事になって。
うん、お酒の勢いもあって高級チョコレートを賭けて冗談で提案した野球拳が行われたのは、大変眼福でした。
皆の名誉のために言っておくけど、下着姿が限度です。
ともあれ、今日はそのままお泊りすることになり、空いている部屋で寝たはず・・・・・・だよね?
夢にしては意識も揉んでみた自分のお尻の感触もはっきりしている不思議空間。 「んー、別に敵意のある空間でもないけど、誰も何もないのはどうしたもんか」
さっき試しに全力で気配探索の範囲を広げてみたけど、まるでなにも引っかからなかった。
しかしまあ、それならそれでやってみたいことがある。
「ここなら気軽に魔法を試し撃ちできそう!」
小魔法や中魔法のような単体や複数みたいな小規模の魔法はまだいいとしても、範囲系やゲームでは派手なエフェクトの大魔法はぶっつけ本番だと怖いものがある。
実際、ダンジョン喰らい相手にぶっぱなした<ボルゲート>なんか、余波だけでけっこうな破壊力があったし。
てなわけで、
「暗き冥獄より来たるは、無慈悲な破壊の殲光、雷冥崩滅旋!」
以前はエルモに止められたものだが、オレ様のお気に入りの大魔法を発動させる。
そして手前に翳した手の先に収縮された黒紫に輝く魔力を一気に前方へと解き放つ。
「異世界からの転生者よ、よくぞ試練を乗り越え――――」
その直後、突然前方の空間が光り、そこから白い翼を持つ白いワンピース姿の水色の髪をした美少女が姿を現した。
しかし解き放った魔法は急に止まらない止められないわけで。
「あ」
「え?」
じゅ。
一瞬にして水が蒸発するかのような音を立て、天使っぽい美少女が破壊の雷光の渦に飲み込まれてしまった。
「・・・・・・・・・・・・」
やべえどうしよう相手の飛び出し事故みたいな感じだけど、頭が真っ白になってなんも考えらんない。
しかも魔法がやんだその後には・・・・・・。
どうしよう。なんかヤム〇ャみたいなポーズで全身から煙だして倒れてるんですけど。
どうしよう。ついでに手羽先が焼けたみたいな香ばしい匂いがして食欲をそそられるんですけど。
・・・・・・この状況はどうしたら?
「・・・・・・・・・・・・跡形もなく消し飛ばしたら何もなかったことになるかも?」
「なにさらっと怖い事言ってますの!? 証拠隠滅ですの!?」 ツッコミと共に復活してきた!?
どうでもいいけど、近くに来られると香ばしい匂いがすごいんだけど!
「ここが神層領域だったから復活できたものの、下手をすれば天に召されてますのよ!?」
「天使だけに?」
「洒落じゃありませんのよ!?」
でもまあ生きてたし元気だからオレ様無罪ってことで。
「いやうん、それは悪かったけど。出落ちのごとく現れたあんたは誰?」
「出落ちっていいましたの!?」
あの登場にそれ以外の何があるのだろうか。
なんだろう。美人なんだけどそこはかとなく残念な感じがしてくる。
「上級天使であるわたくし、エルミナスがこの世界にて試練を達成した貴方に報酬を差し上げに来ましたのよ」
「試練? 報酬?」
なんか異世界にきて特別な事したっけ?
なんて疑問を抱いていると、エルミナスが胸の谷間からなにやら紙を取り出して広げて読み始める。
「えっとですね。アビゲイルさんはこちらに転生されて、すでに二度の”邪神の欠片”の浄化に貢献されましたので、このまま異世界へ留まるか元の世界へ帰るかの選択が可能になりましたの」
今なんて? 元の世界へ帰る、とか言わなかった?
「え、元の世界に帰る事って出来るの? 言っちゃなんだけど、こういう異世界転生って大体が元の世界に帰れるもんじゃないと思ってたんだけど?
あと、邪神の欠片とかってなに? いつの間に浄化、だっけ? みたいなことやってたの?」
「えーっとですね、実はひと昔前までは転生させっぱなし、というものだったんですの。
こことは別の世界の話なのですが、勝手に転生させられて帰れないと知った転生者が大変お怒りになりまして――――」
エルミナス曰く激怒した転生者は自身の【限界突破】というスキルでまさに神に匹敵する力を手に入れ、転生させた神のところまでカチコミに行ったらしい。
無論神も対抗するがそれも虚しくフルボッコにされ、さらにスキルで力を得た転生者は「こんなシステムをどげんかせんといかん」と神の上司とも言える存在のところまで直談判しに行ったとか。
そこで行われた拳で語る話し合いの末、今後は転生システムに条件付きで元の世界に帰還可能という仕組みを組み込ませたという。
恐るべし転生者の執念。
「あと邪神の欠片の浄化というものですが、簡単に言うとこの世界を滅ぼしかねない力の結晶を破壊するというものですの」
さらに説明を聞いていくと、その邪心の抜け殻が世界を構成する元になっているらしい。
そして邪神の欠片というのはそれすなわち世界の膿のようなものであり、放置すると世界を侵食してしまう。
しかしこの世界の住人では力の根源が同じ為に滅ぼすには至らず、それが出来る【神禍の因子】を与えられた転生者にその役を担って欲しいとのこと。
ちなみに【神禍の因子】とやらをこの世界の住人に与えると、根源の力と反発してしまい毒となるという。
「その力の結晶は様々なものに宿り、形を変えるんですの。 今回アビゲイルさんには倒したダンジョン喰らいと、人造魔剣に宿っていた邪神の欠片を浄化して頂いたんですの。
本来であれば教会を通して召喚したのですが、稀に見る短期間での浄化でしたので就寝されている時に直接召喚しましたの。
決して忘れていたわけではありませんの。ええ、忘れていたわけではありませんのよ?」
そんな残念なことを二回言わなくても。
やっぱり漂う残念臭。
「そんなわけでアビゲイルさんには元の世界へ帰る権利と、このまま異世界の住人に残る権利が与えられますの。
ちなみにどちらの権利も今回限りですので、よく考えてお答え頂きたいですの」
え、急にそんなこと言われても・・・・・・。
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残念美人と言うか、社会人になって間もない頃の歓迎会で、可愛いと評判だった後輩の女の子(20)が悪酔いしたあげくに酒瓶片手にたばこ咥えて上司にくだまいてるのを見た時には、作者の心の理想の後輩ちゃん(清楚で控えめで愛くるしい)が砕け散ったのでした。




