第88話/フラグ回収からの流れ弾。
休憩室のお菓子にファンナさん、マジおこ。
今更ですけど、あけましておめでとうございます!
「すみませんギルド長! 緊急の要件が発生しました!」
突然、ドア越しにかなり切羽詰まった様子の声が響く。
エルモが入室を促すと、やや乱暴にドアが開けられ足早に入ってきたのすはファンナさんだった。
「サリシア様よりギルド長へ応援要請が来ています。 捕らえられていた騎士が変貌して暴れ出し、手がつけられないとのことです」
すげぇ、早速フラグ回収したよエルモさん。
いやそんなジト目で「先輩のせいですよ……」みたいな顔されても。
「……わかりました。アビゲイルさんと共にすぐに向かいます」
「いやオレ様いかないけど?」
さらっと人を巻き込もうとするんじゃない。
「そこをなんとか」
「むーりー」
両腕で☓印を作って、本日の営業時間の終了を知らせてやる。
いやだからジト目で「裏切り者……」みたいな顔するなし。
それに呼ばれたのはオレ様じゃないしな?
「あの、非常に申し上げにくのですが……」 なんて思っていたら、ファンナさんが困った顔でオレ様を見て、
「暴れている騎士が、「この私を捕まえた冒険者を連れてこい」と言っているみたいで……。 多分、これはアビゲイルさんのことではないかと」
あれ? なんかオレ様にも流れ弾が……!?
あとエルモの「ざまぁ」みたいな顔がなんかちょっと腹立たしいな!
「はい、それじゃあアビゲイルさんも行きましょうか」
「えー、オレ様になんのメリットもないしなー」
せっかく異世界に来たのにただ働きなんてごめんである。
「……アビゲイルさん、夕飯はファンナが作るんですが、ご一緒にいかがですか? 問題解決後に」
くっ、そうきたか。
しかしファンナさんの手料理なら食べてみたい。
それに知り合いとはいえエルフのエルモと、美人なファンナさんとの食事会は魅力的である。
……ならば仕方あるまい!
「よし、のった! ということでファンナさん、ご相伴に預かっても?」
勢いで決まったとはいえ、本人の許可は大事。
「え、ええ、私は別に構いませんけど」
おっしゃ言質取れた!
そうと決まればテンションも上がったことだし、面倒はとっとと片付けるのみ!
「エルモ! 早速現場に向かおう! 暴れてる騎士の一人や二人、オレ様が色々まとめて吹き飛ばしてやるから!!」
「いやその”色々まとめて”がすごく不安を覚えるんですが!? やめてくださいよ!? ほんとに! 振りじゃなくて!!」
「大丈夫大丈夫。なんかあったら責任取るから! ・・・・・・偉い人が」
主にオレ様のエルモがそうかもしんないけど。
「ちょ、なんか最後にボソッと不穏な事言ってませんでした!?」
「いいからいいから! さあとっとと済ませよう!!」
オレ様は立ち上がり、エルモの手を取って楽しみを胸に外へと急ぎ向かうのだった。
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そしてやってきました問題の現場。
やってきたとは言うものの走ってきたのではなく、エルモの風の精霊魔法で空を飛んできている。
そっちの方が速いし疲れないし。
ちなみに行き掛けの際に、
「残りのお菓子はよかったら受付嬢さん達でどうぞ!」
と言ったところ、ファンナさんから「夕飯はご馳走にしますね!」と大変いい笑顔で送り出された。
その反対にエルモは「そんな……」とお菓子に悲しみの視線を送っていたけど。
んでもって上空から下の様子を見てみると、黒い剣を持ったマッチョでパンイチな男を十数人の兵士達が取り囲んでいるんだが。
「フハハハッ! ぬるい! ぬるいぞ貴様等! 兵士とは名ばかりか!!」
なぜか捕らえられた筈の騎士団長のヴィンセクトが高笑いを上げていた。
「くそっ! なんなんだあいつは! さっきから剣で斬り付けてるのに傷一つ負いやしねえ!!」
「しかも傷つけるたびに筋肉ポーズ取るのがなんか腹立つんだが……!」
うん、兵士達が憤るのもわかる気がする。
どういうわけか剣で斬ろうが槍で突こうが、出血もしなければ傷跡すらも残らない。
「やはり貴様らでは満足いかぬ! 早くもっと強い奴か、私を捕らえたあの娘を連れてくるがいい! フハハハハッ!!」
むしろやられてる本人は高笑いすら上げているという。
「……なにアレ?」
「さあ……。ただなんらかの力で異常になってるのはわかりますが」
オレ様が捕らえた時は細マッチョだったはずのヴィンセクトが、いまや横綱もかくやという程の体格のマッチョになっている。
あとついでにいえば、
【ドMの極地】(真正のM。精神が肉体を凌駕し、あらゆる攻撃の痛みに快楽を感じ続ける限りダメージを受けない)
なんか無駄にスキルが上位互換されてたりするし。
エルモにそれを伝えたらあからさまに嫌そうな顔になった。
「………とにかくも、アレをなんとかしないわけにはいきません」
「でもあのスキル通りなら生半可な攻撃だとダメージにならないだろ。 どうする? 一発、大魔法
でもぶちこんてみようか?」
「絶対やめてくださいよ!? 兵士の人もいるし、街に被害が出たらまた借金が嵩みますからね?」
借金は困る。
まあ大魔法じゃなくても、やりようはあるわけで。
「そいじゃ街に被害がでないようにやるか。 おーい! 今からそいつに魔法撃ち込むから、速やかに退避するようにー!!」
「な、なんだ!?」
「どこから声が……!?」
オレ様の呼び掛けにざわつきを見せる兵士達だが、誰かが上だと気づいたのをきっかけに、全員が空を見上げた。
『!!?』
が、なぜか目を見開いた瞬間、バッと揃ってそっぽを向く。
いや、顔をそらすんじゃなくて、その場からどいてほしいんだけども?
「貴様は……いや、貴様等は……」
怪訝に思っていると、唯一顔をそらさなかったヴィンセクトが口を開き、
「下着が丸見えだが……そういう性癖でもあるのか? 変態か?」
「あんたに言われたくないわっ!」
オレ様が叫びを上げる横で、エルモがバッとタイトスカートに手を当てるけど、見られた後じゃあんま意味ないんじゃないかな?
尚、中身が男のオレ様としては同性に下着の一つや二つ見られた所で、特になんとも思わなかったりする。
「……兵士の皆さんは速やかにソイツから離れてください。 あと、先程の事は頭から離してください。いいですね?」
しかしエルモはそうではないようで、注意喚起のついでにしっかりと兵士達に釘を差していた。
その言葉にこもった凄みに、兵士達はぶんぶんと慌てて首を縦に振り、ヴィンセクトから離れていく。
「それではアビちゃん先輩、お願いします」
「オレ様かい」
「だってほら、私は兵士の要請ですが、アビちゃん先輩はアレのご指名ですし」
まあ別にいいんだけど。でもそれだけじゃないよね?
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待合室のお菓子や飴って、手を出しずらいですよね?




