第85話/予想外の行方。
騎士達を煽って挑発したら、最後に返されて激おこ。
村から離れた場所にある、絨毯のように広がる下草が生えた大地を風が吹き渡る。
そこに死屍累々と横たわる騎士達を前に、オレ様は心内で大きく疲弊していた。
まさかここまで苦しい戦いになるとは・・・・・・。
数日かけて作成したオレ様の悩殺ポーズを、背伸びしたおこちゃま扱いしてくれた騎士達にあったまきので、勢いのままに模擬試合と言う名の決闘を申し込んだその後。
いつの間にか用意されていた『怪我してもお互いに文句言いません』的な内容の契約魔書にサインをし、場所を移動していざ戦い! となったわけなんだけど。
異世界に来てのリアル対人戦は初めてとはいえ、自分のレベルやゲーム内で培った戦闘技術を踏まえても楽勝だと思っていた。
実際に実力という点ではまったく問題なかったわけだけど。
問題があるとすれば・・・・・・。
「はぁはぁ・・・・・・侮蔑の言葉と痛みが、これほど心地いいとは・・・・・・!」
「ふふ、負けたよ。オレの完全な負けだ。もっと踏んでください」
「くっ! もっと、もっと自分が強ければ・・・・・・いたぶり続けてもらえたものを・・・・・・!」
いらない性癖のカミングアウトだった。
もはや起き上がる力もないくせに騎士達から出てくるのは、悔恨のようで愉悦の言葉の数々。
途中からおかしいと思ってたんだ・・・・・・。
死なないように手加減しとはいえ、確実に病院行きになるくらいの攻撃を受けている騎士団一同。
にも関わらず、何度も立ち上がって来る上に段々とご馳走を前にしたかのような恍惚とした表情なんぞを浮かべくる始末。
もしやなんか特別なスキルでも持ってるのか? と一応鑑定をしてみたのだけど。
【Mの素質】(自身への侮辱や攻撃に対して肉体的、精神的な喜びを感じる)
それスキルじゃなくて性癖じゃあ!? と心の中でツッコんだのは仕方ないと思う。
戦いの最中に相手の心を折るためにと「この駄犬め!」「犬みたいに吠えるだけか!」「ほらお座りしてないでかかってきな!」等と、ノリと勢いで鞭な女王様みたいな言葉遣いしてたんだけど、それがまさか相手にとってどストライクになるなんて思うわけがないだろコレ・・・・・・。
「この身体さえ動くならば・・・・・・もっと踏まれたかったのに・・・・・・」
やかましい。黙って寝てろよ。
良かったよ。この場にアリシャちゃんを連れてこなくて。
ちなみにアリシャちゃんは睡眠薬を盛られていたようで、とりあえずそのままセドリックに面倒を任せて村に置いてきている。
もちろん、護衛役として眷属の影狼を数匹つけているので安心安全。
「くっくっくっ。よもや我が団員達をここまでにしてくれるとは。どうやら今回の獲物は素晴らしく上物のようだ」
そんなことを言いつつ嗜虐的な笑みを浮かべた騎士隊長のヴィンセクトが、オレ様の前に立ちはだかる。
ついでに言うとこの騎士団長も鑑定してみたんだけど、他団員の例に漏れず。
【Mの才能】(肉体的、精神的苦痛等を自身の糧とし、生まれる羞恥心や屈辱感が能力を上昇させる)
同じと言うより、むしろヤな方向にスキルがレベルアップしていた。
なんだかげんなりとした気持ちになったものの、オレ様は頭を切り替えることにする。
ヤなことはとっとと終わらせればいいんだ! とっとと!!
「で、最後の一人になるわけなんだけど、なにか言い残すことは?」
出来ればオレ様の実力に慄いて戦いを辞めてくんないかな? という希望を込めつつ模造剣を向けてみるも、当の本人はにやりと笑っててそうもいかなそうである。
「ふはははっ! 何を言うかと思えば。貴様も弱卒相手ではつまらなかろう? ここからは貴様も本気を出すがいい。もっとも、私も本身でいかせてもらうがな?」
なんかノリノリで勝手な事言って腰の剣を抜いてるし。しかもその黒い刀身を見てうっとりしてる姿はちょっとキモイ。
しかしまあ、言質は取れたという事で、
「それじゃちょっと本気出すけど、うっかりぽっくり逝っちゃっても恨まないようにね?」
「面白い。やれるもんならやってみるがいい!」
「じゃあ遠慮なく」
ヴィンセクトの言葉が終わった直後、オレ様は大きく右手の模造剣を大きく後ろへ振りかぶり、
「よいしょっと」
思いっきりヴィンセクトへとぶん投げた。
「なにいいいいいっ!?」
驚いた顔をしたヴィンセクトだったが、そこは騎士団長というだけあってくるくる飛んできた模造剣を自身の剣で弾き飛ばす。
が、そんなことはオレ様としても予測済みなわけで、
「<崩影の光陣>!」
「貴様! 剣を投げつけるとは何事、ぐああああっ!」
間髪入れずに魔法を発動させると、ヴィンセクトの足元から円柱状に噴き出した黒い光がその姿を悲鳴と共に覆い隠す。
卑怯と言うなかれ。誰も“剣だけの勝負”なんて言った覚えはない。はっはっはっ。
「お、おのれ・・・・・・貴様、騎士の勝負に魔法等と・・・・・・」
黒い光が収まるとそこにはフルマラソンでもしたかのように、息も絶え絶えなヴィンセクト君。
おお。手加減はしたとは言え、オレ様とのレベル差で魔力を直に削る魔力ダメージ特化の魔法を喰らっても立っているとは。
ゲーム仕様なら初級魔法とはいえ、あまりにレベル差がある場合ほぼ気絶状態になるというのに。そこはさすがというべきか。
「だ、だが、この程度で私が倒れるとでも・・・・・・!!」
「うん。だからこいつをおかわりってことで♪」
なんていうオレ様の手には、すでに無詠唱で発動させた魔法の弾が浮かんでいたりする。
それを見て顔を引きつらせるヴィンセクトだが、こちとら容赦する気はさらさらないので。
「ちょ、まて、それはない――――」
「逝ってこい! <黒雷弾>!」
十数個の黒雷の弾が無軌道に走り、ヴィンセクトへと殺到していく。
「くっ、こんな! こんなもの! お、おおおおぐああああああっ・・・・・・!!」
根性を見せるヴィンセクトがいくつかの黒雷弾を剣で打ち払って見せたものの、最後には滅多打ち状態となりあえなく撃沈して地面に倒れ伏した。
もちろん命を奪うようなことはしていない。
尻を上げて這いつくばる姿勢な上、白目剥いて痙攣してはいるけどちゃんと生きてるはずだし。
まあ、一応鑑定して状態でも見ておこうかな。
名前/ヴィンセクト=ドエイム
レベル/30
種族/人族
状態/瀕死
・・・・・・『瀕死』!?
「あああああっ! 大治癒―ッ!!」
最近どっかで似たような流れがあったなコレ!
慌てて唱えた女神の指輪を媒体とした回復魔法の光がヴィンセクトを覆う。
再び鑑定で状態を見ると瀕死から回復したようで、ただの気絶となっていた。
ふぅ、これでよし。
それにしても、とヴィンセクトをはじめとして倒れ伏している騎士団の面々を見て、オレ様はため息をつく。
「・・・・・・とりあえず、これまでの所業を自白させておくか」
面倒だなぁと思いつつ騎士団達に回復魔法をかけ、全員が目を覚ましたところで支配の魔眼を発動させたのだった。
ブックマークや評価が作者のガソリンです!
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昔から多少痛みに耐久あった作者ですが、学生の頃、後ろから女子の脇をくすぐったことがあり。
やりすぎたのか振り返った女子に涙目で一発報復されたのですが、どうしてこう女子のビンタってあんなに痛いんでしょうねぇ・・・・・・。




