第83話/囚われた兎さん。
気づけば二ヵ月も更新してなかった……。
前回は、いちゃもんつける騎士団を追い払った数日後、昼食を食べようとしていたところに邪魔が入ったので黙らせました。
太陽が真上からやや西に傾き、木々の影が少しばかり伸びる頃。
木々もまばらな平地の景色が魔角馬で駆けていくオレ様の横を、車並みの速度で流れていく。
「うわあああっ! 近い近い近い! 地面が近いーっ!!」
すぐ側で少年兵のやかましい悲鳴があがってるけど、そんなのは知ったこっちゃない。
今から少し前、昼食を邪魔しようとした少年兵を黙らせ、もとい静かにしてもらって済ませたその後。
セドリックという茶色の短髪な少年兵が話した内容は、オレ様を即座に行動へと駆り立てるに十分なものだった。
要約すると「あんたに世話になった騎士団が礼がしたいと呼んでいる。一緒にいた少女も現地にいるので来て欲しい」てな感じ。
前半だけだったら無視しようかと思ったが、後半は頂けない。
一緒にいた少女というのは、十中八九アリシャちゃんのことだろう。
はっはっはっ、オレ様相手に女の子を人質にとるとかいい度胸をしてやがりますな。
当初は吸血鬼の能力で飛んでいこうかと思ったが、場所がわからない上にセドリックが案内役だということで、しょうがないので魔角馬を召喚して走らせることにした。
騎士団の仲間であろうセド少年を乗せるのはなんか嫌だったので、片手で腰のベルトを引っ付かんでぶら下げるように走ることになったが。
そのせいでセド少年の身体が前方に傾き地面まで一メートルもないのだけど、まあ気にするな。オレ様は気にしていない。
「こらセドリック。村まであとどれくらいでつくんだ?」
とりあえず大雑把に方向だけ聞いて進んでたので、そろそろ目的地の場所を聞いてみようとセドリックに話しかけたのだが、
「教える。教えるから、下ろして、ください……」
返ってきたのは弱々しい声。
見ればなんかちょっとぐったりしている様子。
仕方ないので魔角馬を止めて下ろしてやった。
「助かった……顔が削られるかと思った……」
「はいはい。ほんとに顔面削るようなことになりたくなきゃ、とっとと村の場所を教えるように」
「わ、わかったよ! え、えーっと・・・・・・ここからもう少し行ったところに林があるから、そこの林道を進んだ先に村があるんだ」
セドリックの話では大分近くまで来ていたようだ。
沿うと分かれば後はとっとと村まで行って騎士団をしばき倒し、アリシャちゃんを取り返してさっさと帰るのみ。
ということで、
「じゃあ案内はここまででいいや。あとは自分でやるから、あんたは帰るなりなんなり好きにしていいよ」
アリシャちゃんを拉致した時の話を聞いた時は、騎士団と一緒にこのセド少年にもむかっ腹が立っていたが、騎士団の連中と違って人を馬鹿にしたり偉そうな態度が見られなかったしただの伝令役っぽいので、一緒にしばかなくてもいいかと思った次第である。
「待ってくれ! オレも一緒に連れて行ってくれ!」
なんでそこで無駄に食い下がるかな。
「却下。ここからは一人の方が速いし、もし連れてこなかったことを咎められるのが心配なら、途中でオレ様に放り出されたことにしとけばいいよ」
「違う! 咎められるのなんかどうでもいいんだ! 聞いてくれ! オレは、オレは……」
だったら大人しく帰っとけよ。めんどくさい。
尚も食い下がるセドリックにちょっとイラっとしてきたので、無視して魔角馬を走らせようとした時、
「騎士団の奴らを止めたいんだ!!」
「・・・・・・ほぉ」
その本気の叫びに、オレ様は興味を惹かれて足を止めたのだった。
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セドリックの話を聞いた後、林道を進み連れてこられたのは簡素な木造の家が立ち並ぶ村。
ちなみに村に入る前に魔角馬は送還して徒歩で向かい、愛剣である銀十字の黒剣を引っ提げて冒険者らしい出で立ちに整えておいた。
そんなオレ様のような可愛い冒険者が珍しいのか、チラチラと覗き見るような住民の視線を感じつつ、セドリックの後ろをついていく。
そして案内されたのは、他の家よりも一回り程大きな建物。
作りもある程度丈夫そうで、セドリックの話によると砦の騎士団が周辺の魔物狩りをする遠征で使う拠点の一つなのだとか。
今はその時期でもないようで、フリーになっているらしい。
「この中で騎士達が待っている。アビゲイルさんには悪いが、なるべく時間を稼いでくれ。その間にオレがなんとかする」
どこか決意を込めた瞳で小さな声で話すセドリック。
「騎士団を止めたい」と叫んだ後に語られたのは、まあ、簡単に言うと騎士団のこれまでの不正を偉い人に告発して是正したい、というものだった。
なら初めから偉い人に言えよ、とは思ったものの、たかが下級兵士では取り合ってもらえないらしい。
そこで今回、副隊長を倒した腕前の冒険者がオレ様だと聞き、アリシャちゃんを助け出して共に騎士団の不正を暴いて証言してもらうことを思いついたのだそうな。
まあオレ様としてはとっとと騎士団を張り倒してアリシャちゃんと一緒に帰る、というのもありかと思ったけど、セドリックの熱意を無下にするのも忍びないので、この話に乗っかることにした。
もちろんアリシャちゃんへの安全対策はした上で、ではあるけど。
「従兵のセドリックです。例の冒険者をお連れしました」
「よし、入るがいい」
なんだか偉そうな感じの声がしてくる。
そんな感想を抱いていると、セドリックが扉を開けてくれたので中へと入る。
入った先には質素な室内に長机と椅子が置かれ、その上座には平服を着た二十代後半くらいの男が足を組んで座っており、その周りにはあの時の副隊長をはじめ他の騎士達がニヤついた顔で並んでいた。
「これはこれは、冒険者殿。ようこそおいでくださった。私はこの騎士隊の長であるヴィンセクトだ。立ち話もなんだし、とりあえず席につくといい。
セドリック、お前は下がっていろ」
「はっ、それでは失礼します」
横柄な態度のヴィンセクトにセドリックは一礼して踵を返して歩き出す。
そのすれ違いざま「頼んだ」という視線に、オレ様は小さく頷く。
扉が閉まる音がした後、オレ様は椅子を引いて座り、テーブルの上にわざとドカっと乗せた足を組む。
うん、我が子ながら細いながらも張りのある形のいい美脚。
いやそうじゃなく。
「さて、こんな辺鄙なところまで呼び出したんだ。それ相応の謝罪ともてなしは出来てるんだろうな?」
そして腕を組み挑発的な態度を取ってやると、思った通り何人かの騎士達が色めき立つ。
さて、セドリックの為にもここから茶番劇といこうか。
作者もご飯時はなるべく静かに集中して食べたい派です。
あと飲み会の時は色々摘まむのではなく、しれっと個別に好きなのを注文して一人で貪ってます。




