第82話/過ぎたるは及ばざるが如し。
最近、仕事が終わる時間が多少早まったので(フラグ)、この小説をちょっと章等つけて整理整頓したいと思っています。
「それで貴様らは、おめおめと逃げ出してきたというわけか」
「い、いえ、決してそのようなことは……!」
石造りの一室で豪華なソファに足を組んで不機嫌に顔を染めて座る男を前に、ギルドで問題を起こした騎士団のうちの一人が直立不動の姿勢で答えていた。
「栄えある我が騎士団の端くれともあろうものが、よくもまあそのような醜態を晒したものだ。しかもそれがそこらの冒険者の一人にやられたなどと……」
「お、恐れながら、ただの冒険者とは思えず、不意打ちとはいえ副隊長を弾き飛ばした挙句、妙なスキルか魔法にて我々の動きを封じたのです!!」
「……ほう? バカとは言えそれなりの力のあるあの副隊長を? それで奴はどうしている」
「はっ! 未だ身動きができない状態ですが、医者の見立てによれば重度の打撲ではあるものの、ポーションを何度か使用すれば一週間ほどで完治するだろうとのことです!」
ポーションを使って一週間だと?
騎士の報告に男の眉根が寄る。
ポーションは優れた魔法薬だ。擦り傷、切り傷に関わらず多少の打撲程度ならその一本で治癒させてしまう。
それを何本も使用して尚、一週間もの期間が必要となれば相当の怪我を負わされたということだ。
しかも話に聞けば田舎町にいる冒険者の小娘に。
不意打ちとはいえ鎧を纏った騎士の男を、それも弾き飛ばすなど普通の冒険者が、それも小娘が出来るはずがない。普通なら。
・・・・・・面白い。
「勿体ないが副隊長には治癒術士を手配して三日で動けるようにしろ。その間、貴様等は何人か連れてその冒険者の小娘について調べて、俺に報告しろ。以上だ、下がれ」
「はっ! 失礼します!!」
慌てたように出ていく騎士を見送った後、男はその口元に笑みを浮かべた。
「くくく、久々に歯ごたえのある獲物が見つかったようだ。お前もそう思うだろう?」
男が視線を送った先、壁に飾られている黒紫の鞘に銀の装飾が施された剣がそれに応えるように、わずかにその身から魔力を揺らめかせたのだった。
~数日後~
「アビゲイルさん。ここ数日の依頼達成や持ち込みの素材など、大変ありがたいとは思っています。思ってはいるんですが……」
カウンター越しのファンナさんが小さくため息をつく。
騎士共とのちょっとしたいざこざから一週間ほど経ち、酒場の奢り代&修理費により目減りした所持金の少なさに戦慄を覚え、オレ様は精力的に依頼達成&魔物肉などの納品に勤しんでいた。
今日も今日とて、午前中に討伐してきたゴブリンにオーク、森狼の群れ等で得た魔石を売却し、また食肉となるオーク肉を大量に卸してきたところなのだが。
依頼料や素材売却の代金を受け取った後、担当してくれていたファンナさんから「ちょっとお話があります」と引き止められていた。
「言いにくいのですが、その……さすがにこの短期間で個人がこの町の一ヵ月分に当たる魔石やオーク肉を持ってくるのは、色々な方面から苦情というか要望が来ておりまして……」
「え? どういうこと?」
なんでだ。魔石もお肉も大量納入となれば、商人や町の人が喜ぶのでは? と思うんだけど。
「まずギルド的事情から言いますと、供給過多で需要が追い付いていないんです」
ファンナさんからのお話によると、以下の要望等があるそうで。
まず商人や町の肉屋さんは『商品(魔石や食肉)がだぶついて売値が下がっている』らしく。
次に冒険者諸君からは『最近この辺りに獲物が見当たらなくて、薬草採取しか出来なくて気持ちと懐が切ないです』とか。
またギルドの解体する方々からも『解体量が多すぎて過労死しそうだからやめて』という切実な思いが届けられていたり。
そして町の人からも『最近お肉が安くてありがたいです。でも食べ過ぎで太りました。どうしてくれるんですか』なんていう声も。
・・・・・・いやまて、最後のはオレ様のせいじゃなくない?
「あとこれはギルド長からなのですが……『おかげで書類仕事が増えました。新手の嫌がらせですか?』というお言葉と共に、非常に申し上げにくいのですが、一ヵ月程食材等の過剰納品及び無差別な討伐は控えるように、とのお達しが来ています」
ちなみに控えるようにというだけで、やってはいけないというわけじゃないが、その場合は買い取り価格や討伐代金が10分の1になるそうな。
うーん、まあ、これまで稼いだ額を見れば軽く500万ゴールはあるし、これ以上は蛇足になるから控えてもいいかな。
「じゃあ控えることにしとく。あ、エルモ、ギルド長には了解と伝えておいて。それとこれはまあ、お詫びの品ということで一つ。皆で食べて下さいな」
オレ様がGPカタログよりクッキーの詰め合わせを購入して出すと、それをみたシオンさんが目の色を変えた。
「!? わかりました。ギルド長にはくれぐれも伝えておきます。ええ、アビゲイルさんのことは絶対に無下にさせませんので」
うむ。よきにはからってくれたまえ。
これでエルモからのお説教という名のお小言を貰う事はあるまい。
……あの子根がまじめだから、やりすぎると淡々とマジ説教してくるから怖いんだよ。
「すまない! アビゲイルという名の冒険者はいるだろうか!!」
ファンナさんと別れ、これからお昼ご飯でも食べようか酒場へと向かっていた矢先、突然ギルドの入口の方でオレ様の名前を叫ぶ声が上がった。
振り向けば軽鎧を着て腰に剣を携えた少年がいて、オレ様を探しているであろうその視線とばっちり目が合ってしまった。
見つけた見つかったという感じでお互いに固まってしまう。
よし、ここは一つ。
「おばちゃん、日替わり定食を三人前で!!」
「いやいま目が合ったよね!?」
少年がツッコミを入れてくるが知ったことじゃない。
「気のせい。あと人違いだから」
「まだ何も言ってないよね!?」
やかましい。オレ様はご飯と眠りを邪魔されると殺意の波動に目覚めそうになるんだよ。
それでも少年は諦めないようで、席に着いたオレ様の横に立ち、
「あんたに関係ある話なんだ! 聞いてくれよ!!」
「オレ様はいま忙しいの。要件があるなら一年後にしてくれ」
「予約の取れない職人かあんたは! その灰白色の髪と、貴族っぽい服のあんたはアビゲイルって名の冒険者だろ? 頼むよ! 一緒に来てくれ!!」
人が断ってるのに、今度は強引に連れ出そうとは失礼な。主にこれから食べるお昼ご飯に。お残しは許されないと、どこかの食堂おばちゃんも言ってるんだぞ。
「はいよ! 日替わり三人前! いつもよく食べるねお嬢ちゃん! こいつはサービスだよ!!」
そうこうしているうちに所狭しと頼んだ定食がテーブルへと並べられ、最後にオレンジジュースが置かれておばちゃんが去っていく。
いつも大量に頼んでいるせいか、たまにサービスをしてくれるようになった。ありがたい。
今日の日替わりはサイコロステーキにポテトの肉巻きか。薄くスライスされたニンニクの香ばしい匂いが漂い、非常に食欲を誘う。
ちなみにパンばかりかと思ったら普通にお米も流通しているようで、今日の肉のお供はライスにしてある。
ちなみに昨日はオーク肉100%のハンバーグに生姜焼きで、これも非常においしかった。
「では、いただきます!」
「いやこっちの話もいただいてくれよ!」
誰が上手いこと言えと言ったか。いや、上手くはないけど。
もうほんとなにが言いたいのか知らないけど、ほんとうるさいなー。
「とりあえずご飯が済むまで黙って待っとくように」
「だから話、を…………!?」
オレ様が『支配の魔眼』を発動させて命令すると、ようやく少年は静かになり、ようやく楽しみなランチタイムが始まるのであった。
謎の少年『名前すら出なかった……!』
作者『考えてない。てへ♪』
謎の少年『NOーっ!』
アビゲイル『どんまい』




