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ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。  作者: 隣の斎藤さん。
第一章 ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。 

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第80話/帰るか還るか選んでいいよ?

ファンナさんとアリシャちゃんを困らす輩(騎士)に、ダイレクトアタック慣行。


「貴様ーっ! いったい何をするかーっ!!」


 騎士の一人がオレ様へ激昂する。


 ま、そりゃ怒るわな。自分とこの副隊長を無様に転がされたら。


 まあでも怒ってるのはこっちも同じわけで。


「ご、ごめんなさい、わざとじゃないんです。その、ちょっと当たり所が悪かったというか……」


「嘘つけーっ! 思いっきり腰の入ったタックルだったろうが! 貴様! 我ら騎士にこのような無礼な振る舞いをしてただで済むと思っているのか!!」


 ちっ、それじゃ仕方ないねでさっさと帰ればいいものを、バカ共め。せっかくこっちはゲームなら思わずSS撮るような(しな)を作ってやったというのに。


 もういい、こっちはとっととアリシャちゃんの元へ向かいたいんだ。


 さっきチラっと見えたけど、転んだ拍子に擦りむいたようで膝に血が滲んでいるのが痛々しいんだよ。 


 だから、とりあえず容赦はしない方向でオレ様は無詠唱にて魔法を発動させる。


(〈蝕む恐怖(フィアーハート)〉)


 これは自身よりレベルが低い対象に恐怖心を植え付けることで、錯乱や硬直、逃亡等を誘発する魔法なんだけども。


『……!?』 


 それなのに一斉に顔を青ざめさせる騎士団一同。


 中にはガチガチと歯の根が合わなかったり膝が笑っている奴もいるんだけど、ちょっと耐性が無さすぎやしないか?


 本気でやるとマズいと思ったから弱目な感じで発動してみたんだけど、思いのほかに効いてしまっている模様。ま、いっか。


 オレ様は和やかな話し合いをすべく、ニコリと微笑み、


「まさか屈強な騎士様ともあろう者が、オレ様のような可憐な女の子とぶつかっただけで吹き飛ぶはずないよね?

 アレはオレ様を避けようとして、自発的(・・・)にあーなったただの不幸な事故だよね?」


「き、ききき貴様、そんな戯言を……ひぃっ!」


 事実の確認に横やりを入れてきた騎士その1を、笑顔のまま軽く睨んで黙らせる。


 戯言とは失礼な。どう見ても我が子(オレ様)は可憐だろうに。


「だからこれはオレ様からの謝罪の意味を込めた心ばかりの見舞金だ。これでこの件を治めてくれると助かるんだけど――――」


 オレ様は未だ動けないでいる近くの騎士その1へとそっと近づき、アイテムボックスより取り出した金貨10枚ばかりをその手に握らせ、 


「これ以上ごねるなら、オレ様も手加減する気はない。このまま全員黙って帰るか、もしくは土に還るか……どっちを選べば賢いか、わかるよな?」


「わ、わかった! わかりました! だから命だけは……!!」


 顔を近づけて耳元で囁くと、懇願するように騎士その1が必死に首を何度も縦に振る。 


 よかったよかった。真心を込めた脅迫(説得)が通じてくれて。


「よーしよし。わかったなら二度と来るな。あと、とっととアレを連れて帰るように。いいね?」


『か、かしこまりました!』


 念を押して魔法を解くと、騎士共は揃って敬礼した後ドタバタとおぼつかない足取りで、壁に張り付いて伸びている副隊長(アレ)の元へと駆け出し、回収してギルドを出て行った。


 おし。これで一件落着である。


 そしてそれに興味を無くしたオレ様は、振り返りその足で急いでアリシャちゃんの元へ向かう。


 今は受付側にある椅子に座らされているが、そのワンピースから除く片膝がやはり擦り向けていた。


 血は止まっているようだけど痛みはあるようで、アリシャちゃんの目には涙が滲んでいる。


 …………あいつら、もう少し強めに締めとけばよかったか?


「ご、ごめんなさいアビゲイルお姉ちゃん! 私のせいで騎士の人と揉めちゃって……」


「いやいやいや! アリシャちゃんのせいじゃないって! それより、その傷痛いだろう? 早く治しちゃおう」


 そんなことを思っていると、一連の出来事が自分のせいだと思ったのか、アリシャちゃんが必死に謝っては落ち込んでしまった。


 ……やっぱあいつらもっとトラウマになるくらいに締めとけばよかった!!


 ともあれそれは次の機会にするとして、オレ様はしゃがみこみ怪我をしている膝に手をかざし、装備している【女神の指輪】に付与されている回復魔法を発動させる。


大いなる治癒(ハイヒール)。これでもう大丈夫」


 淡い光が傷を包み込むとみるみるうちに治っていき、元のすべすべのお肌に戻った。


「すごい! すぐ直っちゃった! アビゲイルお姉ちゃん、ありがとう!!」


「はっはっはっ。くるしゅうないくるしゅうない」


 やっぱり女の子の笑顔はいいもんである。


 それから拾った赤い果実を渡すとまたもやお礼をされ、アリシャちゃんはその足で酒場のおばちゃんのところへと向かっていった。


 そのおばちゃんに「落としちゃったものですけど、お届け物、いいですか?」と申し訳なさそうに言っていたが、「かまやしないよ。潰して使うもんだし、あんたも災難だったね」と頭を撫でられて代金を貰えたようだ。


 なんとも人情である。


 するとアリシャちゃんがこっちに駆け寄ってきて、おもむろにぎゅっとオレ様の腰に抱き着いてきた。


 えうあっ!? ど、どどどどうした? 女の子からの予期しない抱き着きはオレ様緊張しちゃうからして!?


「アビゲイルお姉ちゃん、ほんとにありがとう! またね!!」


 思わずあわあわと挙動不審になっているオレ様に、アリシャちゃんが上目遣いに満面の笑顔でお礼を言うと、手を振りながらギルドを出て行った。


 なんとも小悪魔さんである。


「アビゲイルさん」


 そんなアリシャちゃんを見送っていると、ファンナさんから声をかけられて唐突に頭を下げられた。


 今度はこっちがどうした!?


「今回は助けていただきありがとうございます。ギルドとしても個人としてもお礼申し上げます」


「いやいやいや! そこまでかしこまらなくても!? オレ様としても鬱陶しい蚊を払ったようなもんだし?」


「ふふふ、騎士をそんな風に例えるのはアビゲイルさんだけですよ。それでも助かりました。

 ……それと助けてもらったついでというのもなんですけど、あそこの方々を何とかして欲しいのですが……」


「あそこの方々……?」


 ファンナさんの指さす方を見れば、なぜかそこには酒場の一角で子犬のごとく身を小さくて小刻みに震えている冒険者諸君。


 向けられている目がどことなくオレ様に対して怯えをはらんでいるような気がするんだけども?


「なに、あれ?」


「多分、先程のアビゲイルさんの様子に当てられたんだと思います」


 おまえらもかっ! つーか別に騎士以外に魔法の効果を向けてなかったんだけども!?


 ちょっと何人かを鑑定してみると、ものの見事に『怯え』状態になっていた。


 お前等冒険者だろうに、もうちょっとシャキッとしろよ。ファンナさんや他の受付嬢さんなんかは別になんともないのに。


 とは思うものの、原因がオレ様なわけでなんとかするしかあるまい。なによりファンナさんの頼みだし!


「そいじゃ〈領域陣(リージョンフォーム)〉してからの〈静寂なる癒し(リフレッシュ)〉!」


 本来は単体が対象の精神回復効果の〈静寂なる癒し(リフレッシュ)〉を、〈領域陣(リージョンフォーム)〉で魔方陣を介して広域化して怯え状態の冒険者達をまとめて治療してやる。


 が、治った筈なのに一向にそこから動かないのはなんでだよ。


「ファンナさん、あれはどうしたら?」


「……多分まだ警戒しているようなので、なにか景気付けになることがあればいいのではないでしょうか?」


 犬かお前等。しかし景気付けねえ……。


「よーし。なら、オレ様がハグしてやるから、して欲しい奴はこっちゃこーい」


「アビゲイルさん!?」


『……なん、だと!?』


 オレ様がカモンと両腕を広げると、悲鳴じみた声を上げるファンナさんと、お互いに顔を見合わせ色めき立つ冒険者諸君。


「まあ、背骨が折れても構わないなら?」


『それハグじゃなくてサバ折りじゃねーか!!』


 一歩踏み出しかけた冒険者達の足が止まり、その心が一つになった瞬間だった。


 はっはっはっ、そんなおいしい話があるわけないっつーの。


 つか異世界にもあるのか、サバ折り。


「冗談はともかくとして、今日はオレ様の奢りで好きなだけ飲み食いしていいぞ!」


 まあ幸いにしてキマイラのコアを売ったお金がまだあるし、このくらいは気前よくしてもいいだろう。


 するとまあ現金な奴とはよく言ったもんで、冒険者達の顔が見るからに明るくなった。


「な、なんだよ、おっかねぇお嬢ちゃんかと思ったらいい奴じゃねえか!(くっそあの尻は惜しかったけど……!)」


「いやー、金欠のいま助かるぜお嬢ちゃん!(あの胸に挟まれたかったけど……!)」


「今日は腹がはち切れるまで飲みまくるぜ!(オレはどちらかというと、アリシャたんの方が……)」


 いやお前等、後半小声で言ってるけどオレ様の吸血鬼イヤーにはばっちり聞こえてるからな?


 ついでにロリコンが混じってるみたいだから、あとでファンナさんに通報しておこう。


「あ、それと受付嬢の皆も後で好きな物頼んじゃっていいから。色々お世話になってるお礼ってことで!」 


 そう言うと受付嬢さん達から、わあい♪と歓声が上がった。


 うんうん。女の子たちが喜ぶ様子は眼福なゆえに。


「いいんですか? けっこうお金がかかると思いますけど……」


「いいのいいの。ファンナさんも遠慮なく頼んでね? じゃ、オレ様は酒場のおばちゃんにお金払ってくるから」


 とは言ったものの、実際どれくらいかかるかはわからないし、そこは酒場のおばちゃんに聞いてみるのが一番だろう。


 というわけでおばちゃんの元へレッツゴウ。


「てなわけなんだけで、どのくらいかかるか教えてください」


「おやおや、随分と気前がいいお嬢ちゃんだね。大丈夫なのかい?」


「それはもちろん。遠慮なくどうぞ!」


「そうかい? じゃあ、お言葉に甘えて――――」


 そう言われて提示された金額は思ったより…………高くないこれ?


 なにゆえ十数人の飲み代に100万ゴールほどかかるの!? ぼったくり!?


 これ払っちゃうと残金が10万ゴールしか残らないんだけど!? ちなみにそれまで使った費用はほぼお菓子や食べ物だけど後悔はない!!


「いや驚いてるとこ悪いけど、この金額、アレの修理費用も入ってるからね?」


 そう言われて指さされたところを見れば、そこには壊れたテーブル、椅子、床、壁があって。


 …………そういやあのバカ騎士転がしたときに色々壊れたんだった!


「…………ええ、ちゃんと払いますよ? 払います。ちなみに割引とかは?」


「もちろん、ないね」


「ですよね! あ、あはは! あはははは!!」


 いい笑顔で答えるおばちゃんに、オレ様は乾いた笑いを返すしかなかった。


 おばちゃんに支払いを終えた直後、オレ様は割のいい依頼を求めてファンナさんに泣きつくのであった。 

 

 ご利用は! 計画的に!!



部活の女の子の後輩にいいとこ見せようと「飲み物奢ってあげる」と声掛けたら「みんなー、先輩が奢ってくれるんだって!!」と、他の後輩にも声をかけられ、一人が十人に増えた事があります。

女の子たちの手前断れず、当時の財布の中身には打撃でした。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公の自由を借金で奪ってはいけません。彼は交渉が上手ではないですか。そして、ギルド施設を傷つけたのは騎士でしたか?なぜ彼は補償金を支払わなければならないのですか?
[一言] 借金を体(労働)で返すしかない( ˘ω˘ )b
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