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ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。  作者: 隣の斎藤さん。
第一章 ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。 

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第78話/普通の家が宿屋とかって見てもわからない。

クリスマスプレゼントが枕元に置かれなくなってから、ん十年経つなぁ。



 クイーンちゃんはその読み書き計算能力の高さから、ギルドの支援職員として無事迎え入れられることとなった。

 

 その後は改めてエルモから今回の案件に対する諸所の注意喚起がなされ、解散の運びとなったのだけど。


 クイーンちゃんはこれからの準備などがあるということでファンナさんとエルフ姉妹に連れられていき、エルモは昨日からの寝不足でもう寝ますと言い部屋を出て行った。


 ミズカちゃんは「なんか、すごく、疲れたにぃ……」とフラフラとどこかへ行ってしまった。


 そしてギルドの建物を出てから日が傾いて赤くなりつつある空を見て、オレ様はふと気づいたことがある。


「寝泊まりする場所がない……!」


 異世界にきてはや数日。


 サバイバル生活をしてるならともかく、街まで来て寝泊まりする場所を確保しない主人公ってあんまりいないんじゃなかろうか?


 ちなみに昨日から徹夜しているわけだけど、気持ちも身体も特に疲れた感じもしないしぶっちゃけまだまだ寝なくても平気な気はする。


 しかしさすがにこのまま野良猫生活というわけにもいかないだろう。幸い資金は潤沢だし。


 ということで、宿を探すべくギルドの建物から離れてウロウロしていたら、あっさり日が暮れて途方に暮れるという展開に……。


 いや途中で露店の串焼きとか買い食いとかしていたわけだけど、それは生命活動に必要不可欠な行為であったわけで別に宿探しを忘れていたわけではごにょごにょ。


「うーん、しかしどうしたもんかなこれ。さすがにそこらへんで野宿するっていうのもなぁ……」


 なんか悲しくなるし、なによりこんな可愛い我が子の身体を寒空の下で眠らせたくない。


「あれ? アビゲイルお姉ちゃん?」


「はいアビゲイルです」


 あてもなしに住宅街をほっつき歩いていると、後ろからなんだか聞き覚えのある可愛らしい声に呼び止められ、振り向けばそこにはカンテラを片手に半開きのドアから顔をのぞかせてるミールちゃんがいた。

 

 異世界で出会った第一異世界人で、虫が飛び交う森で慄くオレ様をこのハイドランジアの街まで案内してくれた恩人である。


「こんな時間にどうしたの? もしかしてまた迷ったの?」


 ドアを閉めてとてとてと淡い茶髪のツインテールを揺らしながらこっちに歩き寄ってきたミールちゃんだけど、また迷ったとは心外な。


 ただ宿屋が見つからないだけであってね? 迷ったわけではね?


「もしかして宿が見つからないとか?」


「なぜそれを……!?」


 心が読めるの!?


「いやだって。こんな時間にそんな不安気な顔で挙動不審になにかを探し回ってるように歩いてたら、なんとなくわかるよー?」


「え、そんな風に見えてた……!?」


 確かに宿屋の看板とか探してあっちこっち見てはいたけど、まさかの挙動不審だったとは……。


 しかしここでミールちゃんに出会えたのもなにかの縁! 逃がしてなるものか!! むしろ助けてください!!


「はい! 実は宿屋が見つからなくて困ってます!」


「わぁ、清々しいほど素直だー。それじゃあ、あたしが案内してあげるよ!」


「ミールちゃん素敵!」


 そして、こっちだよとなぜか腕をがっちり掴まれてやってきたのは、さっさミールちゃんが出てきた建物の前。


 え、まさか?


「ここがお勧めの宿! ”安らぎの木漏れ日亭”だよ!」


「ちなみにミールちゃんの家は?」


「ここだよ!」


 なんという潔さ。というか、確かにここまで来る途中に何件かなんたら亭とかいう看板は見たけど、あれってご飯処の名前じゃなかったのか……。


 ゲームの時は町の宿屋、っていう表示だけだったし、なんたら亭がまさか宿屋の名前だったとは。


「ケールおねーちゃーん! お客さん連れてきたよー!!」


「ちょっとミール。また強引に連れてきたんじゃないでしょーね?」

 

 ドアを開けて中に入るなり元気なミールちゃんの声に、部屋の奥から声が返ってきた。


 一階はそこそこ広く三席のテーブルとカウンターに並ぶ四席の椅子が並び、端には二階へと上がる階段が続いている。


 そのカウンター席から奥の、半分ほど間仕切りされた部屋から顔を出してきたのは、白いエプロンをつけたミールちゃん似の高校生くらいに見える吊り目な少女だった。


「お客さん、うちのミールが強引でごめん……な……さい……。すみませんちょっと失礼します。

 ミールちょっとこっち来て……!!」


「え、どうしたのお姉ちゃん?」


 オレ様を見た途端に真顔になったケールさんが、なぜか急にミールちゃんの腕を引っ張ってダッシュで間仕切りされた部屋の奥へと引っ込んでいった。


「ち、ちょっとミール! なんて人連れてきたの!?」


「ほへ? ただの迷子さんだよ?」


「そうじゃなくて! あんな高そうな身なりの人、どうみてもどこかの貴族様のお嬢様とかじゃない! うちなんかの安宿に連れてきてどうするの!?」


「えー? あのお姉ちゃん貴族様なんかじゃないよ? ただの迷子さんだよ?」


 ただの迷子さんて……。いや、確かに出会いから今さっき会った時まで迷子みたいっちゃ迷子みたいだけど。


 ちなみにこの会話は二人が部屋の奥で小さな声で話しているのだけれど、このオレ様の吸血鬼イヤーには筒抜けだったりする。


 便利、我が子の高い身体能力。  


「え、えーっと、ほんとにうちでお泊りでよろしかったですか?」


「そりゃもちろん。むしろ泊まれるところが見つけられなくて困ってます!」


 奥の部屋からそろりそろりと出てきたケールさんに、オレ様は二つ返事+内情を暴露する。


 だって下手に見栄張って宿泊を断られたら悲しいし。


「そ、そうですか、ありがとうございます。それでは宿賃等の説明をさせてもらいますね」


 オレ様の答えにどこか戸惑ったようなケールさんだったが、その後は簡単に宿のシステムの説明をしてくれた。


 宿賃は一泊3000ゴールでご飯は一食につき500ゴール。


 部屋は簡素なベットしかないので、その他の備品等は自由に持ち込んでもいいそうな。


 ただ長期間部屋を空ける際にはいくらかの料金の前払いが必要だし、もしそのまま戻ってこなかったら申し訳ないけど部屋にある私物は処分してしまうとのこと。


 まあ元の世界と違って、道を歩いていて魔物に襲われるような異世界じゃ、外へ出たはいいけど生死不明の行方不明なんてのはよくあるんだろう。


 その辺はよっぽどのことがない限り、レベル最高位である我が子《オレ様》の強さの前には心配ないと思われるけど。


 ダンジョンイーターも魔法の一撃で木っ端みじんだったしね。その後はマイナス10億ゴールを背負うことになってオレ様も経済的に木っ端微塵になったけど。


「それではどのくらいお泊りになりますか?」


「じゃあ、とりあえず一か月でご飯は三食込みでよろしく。あ、お金は一括で払うから」


 さっきケールさんの説明中に異世界の月日を聞いたところ、一か月は30日なようなので、一泊とご飯三食で4500ゴール。


 一日4500ゴールのかける30日で一か月が135000ゴール。


 そして計算できた分のお金をアイテムボックスより取り出して、金貨14枚をカウンターの上へと積み上げる。


「わーっ! 金貨がいっぱい! アビゲイルお姉ちゃんすごーい!!」


「んふふふ。お釣りはチップだと思って取っといてくれたまえ」 

   

「ど、どどどうしようミール! こんなに金貨がいっぱいで、えーっと、あの、どうしたらいいのかな!?」


「もー、おねーちゃんってば相変わらずおっきいお金に弱いんだから。普通に金庫にしまえばいいと思うよ?」


「う、うん! そうしてくる!!」


 ケールさんはそう言うと、金貨を危険物でも持つかのようにプルプル震えながら両手で持ち、部屋の奥へと消えていった。


「じゃあアビゲイルお姉ちゃんは、あたしが部屋まで案内するね。こっちこっち」


「うん、よろしく」


 そしてカウンターの裏から鍵を持ってきたミールちゃんの小さな手に引かれ、オレ様は二階へと連れられて行く。

 

 異世界生活五日目にして、ようやく自分の宿を確保することが出来たのだった。



アビゲイル「……宿屋見つけるまで長くね?」

作者「別に執筆し終わってから宿屋の存在を思い出して、修正するのがめんどいから今までその場しのぎで書き足していたわけじゃない」

アビゲイル「おい」



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― 新着の感想 ―
[気になる点] サブタイトルの数字が全角……(全角文字気になる病) [一言] > また強引に連れてきたんじゃないでしょーね? ミールちゃん前科持ちか( ˘ω˘ )
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