第75話/魔物でも可愛けりゃ正義だと思う。
ぬはははっ! ワクチン接種による腕の激痛やギックリ腰や積み小説の消化や偏頭痛などが次から次へと襲ってきたけど、無事に帰還しました……!!
「まったく、なにをしてるんですか」
「うわあっ! びっくりしたー!!」
抱きとめた胸に顔をうずめて気絶してしまった幼女に、オレ様があわあわしていると、どこからともなくエルモが側に降ってきたことに驚いた。
心臓が止まったらどうしてくれる。種族的に不死身だけど。
「……どっから湧いて出てきたよ」
「人を虫のように言わないでください。あの部屋からここに来るのに、飛び降りた方が早かったんですよ」
エルモの指さす方を見れば、二階ある一室の壁に大人が余裕で通れるくらいの大穴が開いている。
もしかして、あの部屋から魔物が飛び出してきたのかな?
「とりあえず、魔物やその子に関しての話もあるので、別室に行きましょう。
フィーエ、その子を運んでくれる?」
メイドエルフのフィーエちゃんがこくりと頷き、「お任せください」とオレ様から幼女を受け取り、軽々と凛々しい姿でお姫様抱っこする。
やだ、ちょっとかっこいい。
「あと、その子にはこれを」
そう言ってエルモは短冊サイズの紙を一枚取り出して、幼女の胸元へと張り付けた。
よく見ればその紙は呪符で、
「なんでまた”魔封じ”の呪符?」
魔封じとは一時的に相手の魔法を使えなくしたり、魔物の動きを封じたりするんだけど、しかもこれけっこう強い力を感じる。
「鑑定すればわかりますよ」
そう言われ、鑑定スキルで幼女を見てみると、なるほどと納得できた。
「では行きましょうか。ファンナ達もそこにいますので」
とりあえず幼女のことはその場で話さず、オレ様はエルモとフィーエちゃんと共に、連れ立って訓練場を後にした。
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エルモに案内されて入った貴賓室のプレートがある部屋。
中に入ると赤毛のふかふか絨毯が広がり、アイボリーの壁には金の額縁の高そうな絵が飾られており、窓枠に下がるカーテンも分厚い黒の生地に金の刺繍が入っていて、気軽に手を触れられないと思うほどの高級さが漂っている。
そして部屋の中央には、これまた社長室にでもありそうな木目のある重厚な質感で楕円の形をしたテーブルがあり、革張りの分厚い五人掛けくらいのソファが対面に鎮座している。
絶対にこのソファにコーヒーとかこぼしたくない。
そのソファにはファンナさんとダンジョン喰らいの襲来を教えてくれた、巫女服姿の獣人娘さんが座っていた。
そしてスラリとした太ももが垣間見える巫女服の裾の短さが、とても尊い。
その後ろにはフィーエちゃんと同じメイド姿で、緑の髪をポニーテールにしたエルフ少女と、青い髪をストレートに背中へ流すエルフ少女が佇んでいる。
「フィーエさん! アビゲイルさんとギルド長もご無事でだったんですね!!」
オレ様達に気づいたファンナさんが立ち上がり、喜びの声を上げて迎えてくれた。
「その子は…………」
しかしその声も、フィーエちゃんがお姫様抱っこしている幼女を見た瞬間に陰っていく。
「とりあえず座りましょう。フィーエはその子をソファの真ん中に。
私とアビゲイルさんは、何かあった時のためにその子を挟んで座ります」
そう言われたので、フィーエちゃんが幼女をソファへ座らせたあと、両隣にオレ様はエルモと一緒に腰を下ろす。
なにか言いたそうなファンナさんだったが、無言のままにソファに座り直した。
「フィーエ、悪いけどお茶を。
さて、このごたごたした状況を整理しましょう」
すぐにフィーエちゃんにより紅茶が四つテーブルに並ぶ。
紅茶に口をつけつつ、魔封じの呪符を身体にはっつけたままの幼女の柔らかほっぺをつついていると、はじめに口を開いたのは青いストレートな長髪をしたメイドエルフさんだった。
「それでは経緯の説明を、わたくしエールゥがさせて頂きますわ」
両手を腰の前で揃えて軽くお辞儀をするエールゥさんは、品がよくてどっかのお嬢様みたいに見える。
「まず現場にいたのがわたくしと横のルーフィ、そして部屋で休まれていたミズカ様とそこのお子様にございますわ」
「そこのちっこいのに、毛布をかけようとしたら、急に手を掴まれて、急激に魔力を吸われて、気を失った。多分、マナドレイン、された」
深緑の瞳を眠たそうにする背のちまいルーフィちゃんが、どこか片言っぽい口調で話していく。
「ルーフィが気を失った後、なぜかその子の手から大きな種がこぼれ落ちて、そこから急に魔物が生えてきたのですわ」
「生えた?」
エールゥさんの妙なもの言いに、オレ様は思わず疑問の声をあげてしまった。
「はい、信じられないと思われますが。種からこう、木の根のようなものがにょきにょきと生えてきまして、魔物になりましたわ」
うん、本人は至って真面目に言ってるんだろう。だから笑っちゃいけない。
でも真面目な顔で合掌した両手を上にくねくねさせる姿を見せられると、笑いがこみ上げてきちゃうんだよ。あとついでに、顔も一緒に左右にくねらせないで欲しい。
腹筋と表情筋がきっつい。
隣のエルモに至っては直視しないように顔を背けてはいるものの、笑いを堪えきれないその肩は小刻みに揺れていたりする。
「その後、魔物が咆哮を上げて直ぐに、ファンナ様やフィーエが駆けつけてくれたのですわ」
「まったく、その子とミズカさんの様子を見に行こうとしたら、部屋から魔物の声が聞こえたので驚きましたよ」
「部屋に入ったら魔物が壁を壊してその子を咥えて逃げ出そうとしていたので、逃がしてはまずいと思い、叩き落しました」
ファンナさんはともかくも、フィーエちゃんは随分と過激なことをしてのけたようだ。
まあそのお陰で魔物を逃がすことなく仕留めることができたのだけど。
「ちなみにそこのミズカちゃんはどうしてたんだ?」
「……あたしは、その、起きたら壁に穴が開いていて、わけがわからなかったのにぃ……」
さりげないオレ様の質問にしょんぼりしてしまうミズカちゃん。
しかしなんだその語尾。かわええ。
「まあまあ、それは仕方ないとして。とりあえずオレ様達が駆けつけたのはその後だった、ってことか」
「タイミングとしてはベストでしたね。ともかく怪我人がでなかったのが幸いです。
それではエールゥ、悪いのですがとりあえず魔物は討伐して安全を確保した、ということで放送をお願いします」
「わかりましたわ。では失礼しまいたします」
エルモの言葉を得てエールゥさんはお辞儀をし、部屋を出て行った。
「…………それで、ギルド長。その子、どうするんですか? 前もってエールゥちゃんから話は聞いてましけど、普通じゃないですよ?」
「それなんですよね……普通の人の子ならまだしも…………」
「え? なんで? 種族がアルラウネクイーンとかだと、なんか問題あんの?」
『……!?』
「アビちゃ、アビゲイルさん……あなたという人は……」
ん? なんで、みんなそんな驚いた顔してんの?
というか、エルモさん、なにゆえ殺意がこもってそうなジト目を向けてくるの……!?
ラノベじゃ種族は違うけど人の形してるなら、特に問題なさそうじゃん?
「ほ、ほんとに、あのアルラウネクイーンなのにぃ……?」
「うん、鑑定スキルが間違ってなけりゃそうだぞ?」
「え、アビゲイルさん、鑑定スキルなんて持ってるんですか!?」
「そうだけど?」
返事をしたらまたみんなが驚いた顔をしてきたのはなぜか。
そしてエルモさんが口は笑ってるのに目が般若になっているのはなぜか……!?
「……ま、マジかにぃ。大昔に国一つを支配していたっていう、伝説の魔物が実在したなんて……」
そしてミズカちゃんのマジ顔により、実は大問題だったということが判明したんだけど、どうしよう?
多分、異世界転生してテイム能力があったら可愛い人型の魔物しかテイムしないと思う作者。




