第72話 /説明書とか読み飛ばすタイプ
体調崩したり仕事が激務になったり新しいネトゲをはじめたりパソコンが壊れたりして、更新が遅くなりました!
「アビちゃん先輩、落ち着きました?」
「はい、身に染みるほど……」
呆れ顔で片手にゲーム由来のネタ装備のスリッパを持ちながら言うエルモに、オレ様は涙目でヒリヒリ痛む後頭部を撫でながら答えた。
サリシアさんから今回のダンジョン喰らいの戦いの際に発生した被害における、十億の借金を言い渡された後。
オレ様はあまりの金額に少々錯乱してしまった。
そんな錯乱した頭で、どうしようあんな額なんて払える気がしないでも自分でやらかしたんだから払わないとでもどうやって普通に働いても返せる気がしないいや待てよここはファンタジーだったよな? じゃあ……と考えたところ。
「ドラゴンでも根こそぎ狩れば返済できる?」
そんなのがぱっと浮かんだ。
「いやちょっと冗談でもやめてくださいよ!? あいつら変にプライド高くて喧嘩バカが多いから、一体倒したら三十体は無駄に因縁付けて絡んでくるんですよ!?」
思わず口に出た名案だったが、即座にエルモから抗議を返された。
というか、なにそのチンピラとGが合体したような存在。
「じゃあどっかのダンジョンを二、三件、荒らし、踏破してくれば……」
続いて浮かんだ名案その二。
ラノベでよくあるじゃん? ダンジョン踏破したらお宝ザックザクぱたーん。
「本気でやめてくださいよ!? ダンジョンは街や国、ひいてはギルドの共有資源なんですから、そんなことしたら下手すりゃ戦争になりかねませんよ!?」
ぬぅ、ままならない。
「ならいっそどこかの土地を巻き上げてそこを売り飛ばせば……」
「なに地上げ屋みたいな発想してるんですか!?」
だって他に方法が思い付かないんだもん! どうしたら十億なんて返せるかわっかんないんだもん! ……て、これなら……!!
「いっそこの国を支配すれば借金をなかったことに……!」
「魔王かあんたは! えーい、もー! 落ち着けえええーっい!!」
世界征服しちゃう!? なんて思いがよぎった瞬間、オレ様の後頭部でスパパーンと二発同時とも聞こえる快音が鳴り響いた。
「ぬぐおぉぉぉ……じ、地味に痛い……!!」
「なんならもう一発いっときましょうか?」
後頭部を抑えつつ顔をあげれば、そこにはにこりと微笑みながら片手でスリッパを弄ぶエルモさんの姿が。
「ひぃっ! いえ、結構です……!!」
思わず即座に返事を返してしまうほどにその微笑みが怖い。
「アビちゃん先輩、落ち着きました?」
「はい、身に染みる程に……」
という感じで冒頭に至るわけなのだが。
「あ、あの……大丈夫ですかアビゲイル様?」
さすがに一連の流れに動揺を隠せないのか、サリシアさんが心配の声をかけてくれる。
「心配ありません。この方、こうみえてもドラゴンに轢かれても死にませんから」
「扱いが酷い!? しかもそれをオレ様じゃなくてエルモが言っちゃうの?」
「事実なんだからいいじゃないですか。というか、実際どうするんですか? 返済問題」
「うぐっ…………」
確かに十億なんてとてもじゃないがまともな方法では返せないだろう。
だからと言って、無茶な方法をしようとすればエルモのお仕置きがありそうだし。
「あ、あの、よろしいでしょうか?」
返済方法に悩んでいると突如声が上がり、見ればサリシアさんが片手を小さく上げていた。
「もしこちらで考えたものでよければ、アビゲイル様が直接支払いをせずに、かつ比較的短期間で済ませる方法があるのですが……」
「やります」
「いえ、あの、即答ではなくお話を聞いていただいた方が……!」
オレ様としては男に身体を張るとか、鬱になるくらい同じものを作り続けるとかじゃない限りは二つ返事で引き受けるんだけど。
律儀なサリシアさんである。
「実はアビゲイル様の実力や人柄を鑑みて、是非にお願いしたいことがあるのです」
「隣国を攻め落とすとかげふっ……!」
「真面目に聞きましょうね、アビゲイルさん?」
「はい……」
ちょっとちゃちゃをいれようとしたら、エルモに割りと強めに肘で脇を刺された。
いや、エルモさん、さすがに柔らかい脇腹に肘鉄は痛いですし仮にも女の子にそういうことは、あ、いえなんでもないです。
恨めしい目をエルモに向けたら、とても冷ややかな視線が返ってきたので、慌ててサリシアさんへと向き直る。
「え、えーと、お話と言うのはですね? アビゲイル様の実力やお人柄を見込んで、この町の専属の冒険者になっていただきたいのです」
「おっけー」
「そうですよね。おっけーですよね……。やっぱり冒険者の方は束縛されるのは、性に合いませんよね……え、おっけー?」
なんか目を丸くして二度見してきたサリシアさん。あっれ、オレ様なんか変な事言ったっけ?
小首を傾げると、隣のエルモが呆れたようなため息をつかれた。
「あのですね、専属なんて二つ返事で受けるうようなものではないからですよ。
色々メリットデメリットがありますし、それを考えてから返事を返すのが普通です」
「メリットとかデメリットってあによ?」
「あ、えーっと、そこは私からご説明いたしますね。えー、専属の冒険者っていうのはですね――――」
そこから説明が続くことしばらく。
サリシアの話してくれたことを要約するに――――
メリットとしては、専属の冒険者になればその街の施設は全て半額で利用でき、依頼の優先順位が優遇されて報酬も二割増しで、冒険者ランクも普通よりも上がりやすくなる。
一方のデメリットとしては、専属なので街からの移動や遠出は領主やギルドの認可がない限り自由にできなくなり、指名された依頼があればそちらを優先的に受ける義務が発生する。
ついでに言うと、専属の肩書きを利用して悪事を働いた場合や、認可のない移動や優先依頼を無視した場合には、かなりの額の罰金や冒険者ランクの剥奪、酷い時には犯罪者として裁かれることがあるのだとか。
「このようなことを十分に考えて頂いた上で改めてお返事を頂きたいのですが。
あ、もちろん考える時間はさしあげま――――」
「あ、うん。だからおっけー。専属になっても構わないって」
要はこの街で活動する限り色々優遇されるってことだし、オレ様としても転生したばかりで遠出とかしたいと思わないし、問題ナッシングである。
「……あの、エルモ様? こうおっしゃられているのですが、ギルドとしてはどうお考えで……?」
「ギルドとしても問題ないと思いますよ。本人はこんな軽く答えてますが、約束を破るような人ではありませんし、なによりしばらくここで常識を学んでほしいですからね」
なんか最後にさりげなくディスられたような気がするのは、気のせい?
「まぁそんなわけで、本人の気が変わらないうちに契約書を作成してしまいましょう」
「あのぅ……よろしいのでしょうか?」
「うん。全然問題なし」
サムズアップしてみせるオレ様
むしろそれで十億なんて異常な金額を返済できるなら願ったり叶ったりだしな。
ほ、ほんとにいいのかな?といぶかしむサリシアさんをよそに、エルモや執事さんがてきぱきと準備を進め、オレ様がサインすることにより、無事契約と相成ったのだった。
作者は操作方法だけ覚えたら、細かい説明とかはスルーして、困っときに読み返すタイプです。




