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ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。  作者: 隣の斎藤さん。
第一章 ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。 

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第70話/オーバーキル。

予約投稿するの忘れてました!


冒険者達の一斉攻撃を受けたものの、爆炎と煙を掻き分けるように痺れから回復しただろうレッサーイーター共が這い出てくる。


魔法や矢に倒れた数はそれなりにいるものの、全体としては一割減ったかどうかくらいだろうか。


ダンジョン喰らい(イーター)なんてほぼ無傷で出てきたしな。


「あんまり減ってないなぁ?」


「まぁ数が数ですからね。仕方ありませんよ」


「だからなんで二人共そんなにのんきだっつーのよ!?」


それを見てもまったく動じないオレ様とエルモに、リリベルちゃんから本日二度目のツッコミが入る。


「大丈夫ですよリリベルさん。これから一割くらいに減りますから。

アビゲイルさん、私がまとめますから後はお願いしますね」


「おうともよ」


エルモが手の平を前へと翳し、言葉を紡ぐ。


「――顕現せしは風の精霊。その事象にて嵐壊(らんかい)の抱擁を――」


すると手の平の上に犬型で薄緑の二頭身なゆるキャラ風の風の精霊が現れ、一鳴きするとその鳴き声に呼応して魔物の進行を阻止するかのように突如風が渦を巻いて数本の竜巻と化す。


竜巻はレッサーイーター共を巻き込みながら後方へと下っていき、ダンジョン喰らい(イーター)が地面に爪を立てて抗うも、その巨体をずるずると後ろへ引きずっていく。


そして粗方魔物共が竜巻によって集められたところでオレ様の出番である。


ここは一ついいとこを見せたいところなので、派手なのを一発いっとこう。


「アビゲイルさん、あまりこちらまで影響がない――――」


「――暗き冥獄より来たるは無慈悲な雷、破壊の殲光ギガデス!」


エルモがなんか言ってた気がするけどまあいいか。


気にせず翳した手の先に魔力が収縮していき黒紫の雷球へと変換されていく。


スパァーンッ!


「あいたーっ!?」


じゃあ後は発射するだけ、というところで突然小気味いい音と共にオレ様の頭頂部がはたかれた。ちょっと地味に痛いんだけど!?


しかも叩かれたせいかせっかく発動した魔法がしょぼんと消えてしまった。


「い、いきなりなにすんだよエル、モ……さん?」


 目の端にちょびっと涙が貯まるのを感じつつ頭を抱えて隣を見れば、そこには笑顔で激オコな表情をして片手になぜか高級そうなスリッパを持っているエルモさんがいました。


 なにゆえお怒りに?


「はっ! もしかして極大魔法の方がよかったとか!?」


「なわけないでしょうがーっ! というかなに人の話も聞かずに大魔法なんて撃とうとしてるんですか!?」 


「いやだってかっこいいのをドカンの方がいいかと思って。というかスリッパでどつくとか酷くない!?」


 どっかで見たことあると思ったら、ダメージがない代わりに十分の一の確率で魔法を破壊する能力があるネタアイテムだった。

 

 撃とうした魔法が消えたのはこの効果だろう。


 ちなみにスリッパの他にはハリセンやピコピコハンマー等のシリーズがあったりする。


「トイレスリッパの方がよかったですか?」


「ゴメンナサイ」


 即座に謝るオレ様。


 ゲームの通りならトイレスリッパってソフトビニールじゃなくて木で出来たスリッパだったし、リアルでどつかれたら痛いじゃ済まなさそう!


 なにより使用済みじゃなくてもトイレスリッパではたかれるなんてなんかばっちい気がして嫌だ!! 


「……ねえリリー、メル。なんかいま、極大魔法が撃てるみたいなこと言ってた気がするけど、気のせいかな?」 


「気のせいじゃないかと。まあ、高レベルの魔導士しかできない大魔法撃てる時点でも驚きですけど……」


「もうなんかアビゲイルって色々規格外すぎてわけわかんねーわね……」


三人娘がなんか囁きあってるけど、オレ様も仲間に入れてほしい。


けど激おこのエルモをこのままにしてはおけまい。


なによりスリッパを片手にぱしぱと叩く姿に無言の圧力を感じる。


「じ、じゃあ、無難なやつで」


しかし扱える闇の中魔法だと、単体や複数系で広範囲はカバーできない……でもないか。よし、これでいこう。


「〈広範強化(サークレイド)〉〈多重詠唱(マルチスペル)〉」


サブスキルである魔術の補助効果で範囲を広げ、同時に何発か撃てばあの数にも対応できるはず。


「え、ちょ、やりすぎで――――」


「灰塵の噴炎よ〈ボルゲート〉!!」


魔法の発動と同時に魔物が巻き上がる竜巻の下にいくつもの魔方陣が浮き上がり、轟音と共に吹き出た炎が入り交じる噴煙が魔物を竜巻もろとも飲み込みキノコ雲を形成する。


……しかしなんだな。魔法の余波が止まらずにこっちにまで迫ってきてる気がしなくもない?


「うあああーっ! 全員防御体勢! 防壁符防壁符防壁符ーっ!!」


大慌てのエルモが叫びながら防御用の符を何十枚も前方に展開させたその数秒後、爆炎と共に打ち付けるように衝撃波が魔力の防壁を激しく叩いた。


街を守るように防壁の符を敷いてくれたことで特に被害はなく、巻き上げられた土煙が晴れていく。


そしてそこにあったのは広範囲に陥没や隆起が起こり滅茶苦茶に荒れ果てた大地と、大多数がほとんど原型をとどめていない魔物の残骸。


『………………』


それを見て声もなく呆然としている冒険者一同。


「…………うあー」


オレ様も予想外に凄惨な状況に自分でもわかるくらいに頬がひきつり、乾いた声しか出てこない。

 

あ、あれー?ゲームだと爆発のエフェクトがあるだけだったんだけど、やっぱりリアルは違うというか……。


うん、正直やりすぎたと思う。だってそれを示すかのように隣から殺気すらはらんだ怒気がこっちに漂ってきてるしな!


「ふっ、悪は滅びた」


「むしろ土地が滅びてるじゃないですかーっ!」


然り気無く誤魔化そうとしたものの、エルモのツッコミと共にスリッパの快音が青い空に響いたのだった。



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