第69話/魔物襲来。
作者は集団戦の横っ腹を狙ってガツンと行くのが好きです。
救難信号と魔物接近のアナウンスがあった後。
いまや町の門の外では百人はいるだろう冒険者達が集まり、それぞれの武器を手に緊張した面持ちを浮かべていた。
オレ様はそんな空気の中、指揮用に前列の中央に用意された大人一人分ほどの高さの台の上でエルモと話し合っていた。
「へー、じゃあ、元の世界のお菓子とかケーキなんかはある程度普通にあるんだ」
「ええ、まぁ。でも簡易的なものはともかく、本格的なものは値段がバカ高かったりしますけど。
ショートケーキ一個が一万とかするんですよ?信じられませんでしたよ」
「うわ、なにそれありえねー」
「なんで二人ともそんなのほほんとしてるっつーのよ!?」
なんか暇だったのでエルモとこの世界のお菓子事情なんかを話していたら、台の側にいたリリベルちゃんにツッコまれた。
「いやほら、さっき来た獣人の娘の話だと魔物が来るまでに時間がかかりそうだから、つい」
なぜかお尻を押さえたまま担架で運ばれていった斥候の獣人の女の子によると、魔物の群れは途中で遭遇したオークの群れに襲いかかって追ってこなくなったという。
エルモが鳥精霊で確認したところ、現在数体のオークの群れが白い魔物の大群に食われているようで、そこで足が止まっているらしい。
ちなみに途中で救助されたという幼女は、馬酔いになったようでここに着くなりオロオロ吐いて即座にギルド嬢さんに運ばれていった。
「……あのギルド長はともかく、アビゲイルもこの状況にまったく緊張してないなんてすごいわ」
「お二人を見てるととても災害級の魔物が向かってきてるなんて思えませんね……」。
ちなみにある程度冒険者が集まったところで、拡声器によりはじまったファンナさんの説明していた作戦では、エルモが昨晩話していたことと変わりないものだった。
エルモが魔法で弱体化させたところを各個に叩くというシンプルな作戦。
統率もなしでそんなんでいいの?とか思って、こそっとファンナさんに聞いてみたら、
「下手に軍隊みたいな整った行動をとってもらうより、仲間やパーティー毎で対応してもらった方がやりやすいんですよ。
良くも悪くも冒険者さん達は癖が強いですし」
とのことだった。
しかし、あれだな。
台の上にいるということは、ちらりと下を見下ろせばゆったりした魔法使いな格好をしたリリベルちゃんやマルガリーゼの襟元から、素敵な谷間やメルナリーゼの形のいい胸の曲線が覗き見えるという高物件だったりする。
うむ、素晴らしい。
「…… 女の子だからって、セクハラ紛いの事はしないでくださいね?」
「……ナ、ナンノコトデショウ?」
突然のエルモの指摘に視線を前に戻さざるを得ない。
くっ、視線だけだったのに、これだから女の勘ってやつは恐ろしい!
「まったく、ゲームの頃から変わらないんですから。
それより、来たみたいですよ」
エルモの言葉に多少の気まずさを覚えつつ、草原の遠くへと目を凝らすと、見えた。
吸血鬼抜群の視力によりはっきり見えたのは、まるで白い波のように押し寄せてくる白いナメクジに手足が生えたような白い魔物、レッサーイーターの群れとその後ろを這うように巨体を動かして向かってくる親玉のダンジョン喰らい。
ざっと千匹くらいで向かってくるうねうねとした動きが、気持ち悪い事この上ない。
それがどんどんと近づいてくるのだから、ちょっとした鳥肌もんである。
「ちょ、なんなのよあの数!?やばいんじゃねーのよ!?」
「問題ありません」
まさに大群と言っていい程の数を見てリリベルちゃんが慌てた声を上げるが、エルモは静かに一歩前へ出る。
向かい来る魔物の群れに翳したその手には、数枚の呪符があり、
「地雷華、呪解」
呪語を唱えると手元の呪符が一瞬発光し、音もなく灰となって散っていく。
ゲームでは符術が使える者の常套手段であるそれは、レッサーイーターの大群があと百メートル程に迫った瞬間。
バヂィッ!バヂヂヂチチッ!!
『ヴィィ!ヴィヴィヴィィィ!?』
そこに設置されていた呪符が効果を発揮し、地面から青白い電撃の華が咲いて次々とレッサーイーター共を絡め取り、その場に釘付けにしていく。
「ウィヒィッ!ウィヒィッヒィーッ!!」
しかし親玉のダンジョン喰らいだけは、多少動きを鈍らせながらも電撃ダメージと痺れで動けなくなったレッサーイーターを踏み潰しながら進み続けている。
「今です!遠距離攻撃を開始して下さい!!」
「こ、こうなったらやってやるっつーのよ!」
「が、がんばろうリリー!」
エルモの号令が響き、やけくそ気味のリリベルちゃんや奮起するマルガリーゼが魔法の詠唱をはじめると、それに続くように周りの冒険者達も攻撃の準備をはじめていく。
そして間もなく、魔物目掛けて朝の空に色とりどりの魔法や風を切る矢が走り、大地に爆炎の華を咲かせた。
映画で魔物の大群とか迫ってくるシーンやそれを迎え撃つその他大勢が激突するシーンがぐっときます!
まあ、作者がその場にいたら即戦略的撤退をすると思うけど……!




