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ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。  作者: 隣の斎藤さん。
第一章 ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。 

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第68話/虎娘のこんな話は聞いてない。

前回のお話。

ギルドの訓練場で緊急依頼の説明を行っていたら、魔物襲来の鐘が鳴りました!



「ぎゃあああっ!助けて!助けてへるぷなのー!!」


 ちくしょー!報酬に釣られて安請け合いするんじゃなかったにぃー!


 森の中の畦道を背に太刀を負い全力疾走する獣人少女、ミズカの頭にそんな思いがよぎる。


「いやあああーっ!食べられる!捕まったらあいつらにおいしく食べられちゃうーっ!」


 膝上スカートの巫女装束から伸びる白い足にはいくつもの赤い線が走り、上着のゆったり目で赤い着物装束には葉や枝がひっついているがそんなことは気にしていられない。


「あ、お姉さん、もうちょっと揺れをイージーにしてくれると快適です!」


「だあああ! あんたはやかましいのにぃー!!」


 必死に逃げているにも関わらず、悲鳴やら注文やら飛ばしてくる片腕に抱えた幼女に、ミズカは思わず怒りをぶつけてしまう。


 葉っぱ重ね着したようなワンピースを着たこの幼女は、森での調査中に逃げている所を助けたわけだが、なぜかその後ろからギルドで聞いた白い魔物が大量に現れて一緒に逃げるはめになったのだ。


 こんなお荷物までが抱える羽目になるなんて予想外だにぃー!




========



「ま、まあまあお姉さん落ち着いて。ほら、それよりもう少しで森を切り抜けますですよ!」


 誰のせいだにぃー! と思ったものの、確かに幼女の言う通り森の木々の切れ目から草原が広がっているのが見えてきた。


 あそこまで行けば繋いである馬に乗って街まで逃げることができる。


 いや違うにぃ。逃げるんじゃなくて、知らせに行くだけだにぃ。そ、そこは武士の端くれとして譲れないにぃ、なんて思っているとようやく森を抜けることができた。


 森の入り口から少し離れた場所の木に繋いである馬に駆け寄り、急いで綱をほどいて抱えた幼女ごと飛び乗る。


 幼女を手前に乗せ、手綱を握って馬を反転させようとした時、


うぃううぃぃぃ~!


「うげっ!あの気持ち悪い鳴き声……もう追い付いてきたにぃ!?」


 森の中から聞こえてくる奇妙な鳴き声にミズカは身震いする。


「お、お姉さん早く!早く逃げましょう!じゃないと割りとマジでヤバいですですよ!!」


「あ、あんたに言われなくともわかってるにぃー! はっ!」


 反転させた馬を急いで街へと走らせたところで、森の木々の隙間からうじゃうじゃと押し出されるように現れた白い魔物の群れが横目に映り、ミズカの背筋に悪寒が走った。


 あんなのに捕まったら確実に命がないにぃー!


 幸いにも馬並みの速度はないようで、白い魔物との距離はゆつまくりとだが離れていく。


 今のうちに救援の信号弾を打ち上げるにぃ!


「ちょっとちっこいの! 今手が離せないから私の懐にある赤い色の筒を取って欲しいのにぃ!」


「…………」


 自分が脇に抱えている幼女からは返事がなく、ちらりと眼を向ければそこには手足をだらんとして俯いている姿が。


 その姿にそこはかとなく嫌な予感がしてならない。


「いや、あの、聞いてるにぃちっこいの?」


「……………………ぎぼぢばぶい」


「ぎゃあああっ!なにこんな時に馬酔いしてるにぃ!?」


 案の定、嫌な予感が的中して内心で頭を抱えるミズカ。


 しかし今は気遣ってる余裕なんかないのだ。


「ほらちっこいのがんばるにぃ! このままだと下手したら追い付かれて二人とも魔物の餌になってしまうにぃ!」


「……そ、それは勘弁なのです。わ、わかりました、懐の中なのですね?」


「そう! 赤い筒だにぃ!」


 気だるげ様子の幼女が項垂れたまま抱えられた姿勢で腕だけを伸ばし、ミズカの懐に手を入れて探し始めた。


 これで信号弾を打ち上げれば、救援の冒険者がきてくれて援護してくれれば無事に逃げられる筈。


 人の手で懐をまさぐられるのはなんだかこそばゆいけど、そればかりは今は仕方ない。


「んうー、下にはベルトしかないのです……」


 幼女の言葉に、あ、とミズカは気づく。


 肩掛けの細い革ベルトにいくつかのアイテムをくくりつけているのだが、急いで走ってきたせいかそれが背中側にきてしまっている。


 これではアイテムを手に取ることはできないだろう。


「ちょっと待つにぃ。いまもとに戻すか――――」


「もっと上の方なのです?」


 ミズカの言葉が終わるより早く、懐をまさぐっていた幼女の手がするりと巫女服の中に入った。入ってしまった。


 普段なら巫女服の胸元はきちんとあわせてあり、帯紐で緩むことはないのだが、どうやら幼女を抱えてい走ったことなどでいつの間にか緩みはだけてしまっていたようだ。


「ちょ、そこは違――――」


「もー、ほんとどこにあるですか。まったくみつからないのですー!」


「んにぃ!? や、やめるにぃー……!!」


 ひやりとした小さな手が地肌を撫でる度に、ミズカの背中にぞくぞくとした感覚が走る。


 しかも乱雑に振られた手が脇腹を掠めたり、胸の先の過敏な部分に触れるたびに、尻尾の付け根やお尻の辺りに甘い痺れが走り勝手に腰がビクビクと浮いてしまい喋るどころではない。


 上ずりそうな声をミズカはなんとか我慢しながら手綱を握ってる手を動かし、ようやくアイテムを移動させる。


「あ、これなのですか?」


「そ、その一番上の赤いやつ……にふぅ、にふぅ……」


 赤い筒状の信号弾を手に取り、顔をあげた幼女がミズカの様子に怪訝な表情を浮かべる。


「なんでお姉さんはそんな顔赤くして息が荒いです?」


「ち、ちょっと馬を操るのに力が入っただけだから気にすることないのにぃ!」


 そう、気にしなくていい。あと少しで意識が遠くにいきそうだったとか気にしなくていいのだ。


「そ、そんなことより、早くそれを打ち上げるにぃ!キャップを開けて空に向ければいいのにぃ!」


「えーっと、こうですか――――あっ」


 幼女がキャップを緩めた瞬間、馬がわずかに大きく跳ねその振動で赤い信号筒が手からこぼれ落ちた。


 信号筒はキャップを取ることで中の魔力液が反応し、色つきの魔力弾を三発打ち上げることができる。


 それがいま地面に落ちた衝撃で中の魔力液が反応し、一発目の衝撃で緩んでいた蓋を吹き飛ばし逆噴射のように本体が勢いよく後ろ向きに飛んでいく。


 信号筒は二発目の衝撃が加速となり、その先には気を取り直して馬を早駆けさせようと腰を上げたミズカの尻があり、


どずむっ。


「おるとろす!?」


 吸い込まれるように尻の中央へとストライクし、尻から頭の先へと雷魔法を喰らったがごとく激しい衝撃に、妙な悲鳴と共にミズカが妙な悲鳴を上げて背をのけ反らす。


 その衝撃に一瞬にして意識が遠退き、ミズカはぐったりと馬の背へともたれかかるように力尽きた。


「どうしたですかお姉さん!?うわわわわ、落ちちゃうですーっ!」


 ミズカが気絶したことでホールドする手が緩んで落ちそうになった幼女は、必死によじのぼってなんとかミズカの前に辿り着く。


 そして幼女がミズカの身体を揺らしたことにより、尻に刺さっていた信号筒がぽろりと抜け落ち、偶然にも空へと魔力弾が打ち上げられたのだった。



小学生の頃、校長がなにか話すたびにマイクがキィィーンと鳴って、三、四回目で心が折れた校長が「今日はマイクに嫌われてるみたいなので、朝礼の挨拶は終わります」と去っていった記憶。


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