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ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。  作者: 隣の斎藤さん。
第一章 ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。 

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第65話/甘い誘惑に辛いお仕置き。

まだ生きてる作者です!久しぶりの投稿ですみません!


 興奮冷めやらぬエルモと部屋を後にし一階でご飯を食べるべく廊下を歩いていると、こっちへ小走りに歩いてくるファンナさんに出くわした。


 ゆるふわな三つ編みにした淡い金髪が忙しなく左右に揺れ、その顔はどこか慌てているご様子。


「おはようファンナさん。お急ぎ?」


「アビゲイルさんおはようございます!あ、うちのギルド長はまだ応接室にいらっしゃいますか?」


「あ、うん、いるいる。いまお酒を楽しんでるところだと思うよ?」


 さっき吸血鬼イヤーに「試飲くらい、いいですよね?私がんばりましたし!」なんてエルモの呟くような声が聞こえてきたし。


「……はい?」


 オレ様の言葉を聞いた途端に表情をファンナさんの顔がひきつった。


 しかし次の瞬間には能面になりその背後に般若が見える、かのようなオーラが立ち上る。


「アビゲイルさん、ちょっと失礼しますね。

 まったく、あのおバカさんったらこのクソ忙しい時に一人でなにしくさってるのかしら」


 一転して笑顔で一礼してきたファンナさんがもはや競歩と言っていいほどの速さで通りすぎていき、ノックもせずにエルモのいる応接室のドアを無造作に開け放ち、


「なーにしとるとかねこのアカンタレがーっ!!」


「ひいーっ! なんでここにいきなり般若が!?じゃなくてファンナがここにいるの!?」


恐れと嘆きが入り交じったようなエルモの悲鳴。


 うん、わかるよその気持ち。


あの般若オーラにはやべえ逃げろ関わるなとオレ様の本能(ゴースト)が囁いていたしな。


「今日は日勤だけんね!って、あー!なにグラス出して飲もうとしとるとかねこん人は!?没収!!」


「いやーっ!やめてとらないで私の命の水ーっ!!」


「こんの忙しい時に一人してなにお酒なんか……お酒、なん、か…………。

 こ、これは、幻のワイン!? ……ふふふふふ、ほんと一人でなにしてんデスかこの人は、うふふふふ」


 なんかデスがデス()に聞こえちゃうのは気のせいか。


「ぎゃあああっ!マジギレ通り越してデスモードになった!?」


「ふふふふふ、これはもう全職員に土下座で1ヶ月くらい禁酒で一年くらいワンオペ業務でもしてもらわないとこの怒りをどうしてくれよう……」


「いやーっ! ファンナが色んな意味で殺しに来ている!?

 お願い! ファンナにもあげるから許してー!!」


 いやあんなに激オコな人にそんな取り引きしても無駄だと思うけど。


「……こ、今回だけですよ?」


 折れた!あっさり折れたよ!意外とチョロいのかファンナさん?……覚えておこう。


 そこからはどうやら真面目なやり取りがはじまったので、オレ様は聞き耳を立てるのをやめて一階の食堂を目指すことにした。


 階段を降りていくと、朝もまだ早いというのにギルドの中は数人の冒険者達が依頼掲示板を睨んだり、受け付けでギルド嬢さんと話していたりするのが見える。


 ラノベなら朝からお酒飲んで管を巻くようなごろつきっぽい冒険者、なんてのが定番だが意外とそういうのは一人もいる様子はない。


 まあそっちの方が特に面倒もなくいいけど。


 そう思いつつ、酒場の方へ向かい空いているテーブル席へ着くと、給仕のおばちゃんを呼んでさっそく注文を頼むことにする。


「このオークステーキ三人前と、サラダを二人前と、パンを五個にアップルジュースをジョッキでよろしく!」


「だ、大丈夫かい?そんなに頼んで?」


 なんだか不安げなおばちゃん。


「ご心配なく!これでもまだ足りないくらいだから!」


 そ、そうかい?とおばちゃんは去っていき、厨房へと注文を通してくれる。


 うんこれ、前の世界なら間違いなく食べきれない量なんだけだ、こっちの世界、というか我が子(この身体)になってから妙に食欲が沸いて。


 燃費悪いのかな?とか思うも、たくさん食べれるならいいかと思ったりしている。


 しばし待っていると頼んだ料理がところ狭しとテーブルの上に並ぶ。


 周りの連中の視線が集まってる気がするけど、そんなの我関せずでいただきます。


 ラノベには必ずと言っていいほど出てくるオーク肉は脂身が甘くてジューシー。


 サラダは新鮮でシャキシャキだし、パンも黒パンではなくふわふわな白だし、リンゴジュースは蜜のような甘さがありながらもほどよい酸味で後味さっぱり。


「あんた、朝からすごい量食べてるんじゃねーのよ……」


 ちょいと食レポのようなことを思っていると、ふいに声をかけられた。


「お、リリベルちゃんにマルガリーゼとメルナリーゼ。昨日はお疲れ様だったな!」


 軽く手をふりふりさせて声の方に顔を向けると、白ワンピに黒コート姿のリリベルちゃんがとんがり帽子を小脇に挟んだまま呆れたような半目をしていた。


 その後ろには学生服の上に魔法使いっぽいローブのマルガリーゼと、軽鎧を着こんだメルナリーゼがいて、二人して胸元で手を振り返してくれている。


「三人ともこっちに来なよ。あ、おばちゃん!オレ様の払いでこっちの三人にリンゴジュースとなんか軽くつまめるものをよろしく!」


 三人が席に着いてからおばちゃんに注文すると、なぜかマルガリーゼが慌て出した。


「え、そんな悪いわよアビゲイル!ね、ねぇ、二人とも……?」


「いえ私は頂きますよ?ありがとうございますアビゲイルさん」


「あたしもお腹空いてるから貰うっつーのよ。ありがと」


「え、え、え?二人とも!?」


 まさかの二人の裏切り(遠慮なし)にマルガリーゼがオロオロしはじめる。


「ふははは!これで二対一だぞマルガリーゼ?

 いまこちらにくればもれなくサンドイッチもついてくるぞぉ?

 もし断るなら次は甘いフルーツセットも頼んでしまうが、さあどうする!!」


「あ、あわわわ!あ、朝からそんな贅沢なんでできないわ……!

 わ、わかった、わかったからサンドイッチまでで許して!!」


「いやなにあんたら、悪の組織と裏切る味方みたいなことしてんだっつーの……」


 うん、ついノリで!


「しかも裏切るついでにしっかりサンドイッチも頼んでましたね」


「うぐぅっ!!」


 自覚あるみたいだからそこは突っ込まないであげて。


 顔を赤くするマルガリーゼを愛でつつ、女の子達と朝食というシチュエーションを楽しむためにサンドイッチとフルーツセットを注文するのだった。




食べ物の恨みは恐ろしい。

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